『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

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95話 儀式の日

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 その千年ぶりの儀式は盛大に執り行われた。

 玉座の間には各魔族の代表がひしめき合っていた。
 ヴァンパイア族のドラキュラを始め、四族、ニスナス、ハルピュイア……多くの見知った顔とさらに多くの知らない顔。
 その中でもアーダーベルトの妹のエッダ嬢は一目でそうだとわかる角を持っていた。

 彼女が自分の従姉だと思うと不思議な気持ちになる。
 自分に母以外の血縁がいるなんて、出会うことがあるなんて、考えもしなかった。

「……五千年にも渡る魔族の歴史にあなた方の名前は刻まれます」

 黒いヴェールを纏った女性が私とユリウスに向かって朗々と語る。
 彼女がシビュラ、儀式を取り仕切る巫女なのだという。

「魔王ユリウス、王妃ミラベル。あなたたちは番として添い遂げる覚悟がありますか?」

「ある」

「あります」

 儀式のほとんどはこうしてユリウスの言葉を復唱しておけば良い。

「それでは誓いをここに。魔王は力を、王妃は愛を。それぞれが強く尊び、保ち、番として添い遂げ、魔界に長い安寧のあらんことを。さあ、誓約してください」

「誓おう」

「誓います」

「おめでとうございます、ここにおふたりは番として結ばれました」

 何かが変わったという感じはない。
 だけれども、ユリウスは微笑み私を抱き寄せ、魔族たちは大きな拍手を送ってくれた。

「……それでは続きまして、例外ながら血縁証明の儀に移ります。魔王族、エッダ嬢」

 エッダ嬢が音もなく前に出てきた。
 私に目礼すると、彼女はシビュラの隣に並んで、頭を垂れた。

「お久しゅうございます、陛下。お初にお目にかかります、王妃様。魔王族代表代理エッダです」

「うん」

「はじめまして」

「それではお妃様、前へ」

 私は一歩を踏み出した。
 魔法陣の刻まれた白い布と台が運ばれてきた。

「ここに手を置いていただきます」

 私とエッダ嬢は向かい合って、手を置いた。

「血よ、その縁を示せ」

 魔法陣が赤く光る。

 私とエッダ嬢、双方の手から赤い光が伸び、魔法陣の中央で糸のように結ばれた。

「はい、これで成りました」

 意外とすぐだった。
 少し拍子抜けしてしまう。

「お妃様は正真正銘、魔王族の血縁です。これに異議を唱えることは許されません」

「……よろしくお願いします、従妹殿」

 エッダ嬢が少しだけ微笑んだ。

「は、はい、よろしくお願いします、従姉様」

「お目にかかれて嬉しいです。兄があなたに暴言を吐き、王位を簒奪せんと、誘拐を画策したこと、何事もなかったとはいえ、魔王族の代表としてお詫び申し上げます」

 エッダ嬢の口上は完璧だった。
 いろいろな噂を、信じるかどうかはともかく、封殺に動いた。

 頼りがいのある魔族だと、私は心底思った。

「さあ、王妃、顔見せだ」

 ユリウスが私の手を取った。
 玉座の間からバルコニーに移動する。
 そこには玉座の間に収まりきらなかった、大勢の魔族たちがひしめいていた。

「魔王ユリウスである!」

 ユリウスの大声に魔族たちは歓声を上げる。

「そしてこちらが、王妃ミラベル! 以後、私達はこの魔界をふたりで治めていく。皆、力を貸してくれ!」

 拍手と歓声、それに包まれながら、私達はキスを交した。

 ここに婚姻は成った。
 冬が来る直前、肌寒い秋のことだった。
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