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第54話 拍手に包まれて
しおりを挟む「さあさ、そろそろ出発ですわね!」
「バカ、今日は陛下のお迎えを待つのよ。パーティーはそうなの」
そうニンフとシルフが言い合っていると、部屋の廊下に向かうドアがノックされた。
「はあい!」
外にはユリウスとヴァンパイアが立っていた。
「やあ、王妃。……綺麗だ」
ユリウスが私の全身に視線を走らせる。
うっとりとそう言われる。
「あ、ありがとうございます」
思わず視線が下がって足元ばかり見てしまう。
顔に汗をかいてはいけないのに、頬が火照っている気がする。
ユリウスがフッと笑った音がした。そして彼は私の視界の中に手を伸ばしてきた。
「さあ、お手を」
「はい……」
ユリウスの手を握って顔を上げる。
いつもよりきらびやかな黒い布地に金糸の刺繍の入ったコートに身を包んだユリウスがそこにいた。
私はユリウスに手を握られながら、部屋から出た。
パーティー会場は今まで行ったことのない塔にあった。
「こちら第三広間です」
第三ということは第一と第二があるのだろう。第四はあるのだろうか……?
ヴァンパイアが先行して扉を開け放ってくれる。
「魔王陛下と王妃様のご到着です」
張り上げた声に室内の魔族たちがこちらを一斉に振り向いた。
賢者が一番奥にひっそりと佇んでいる。その隣には女医のサルース。ふたりは人間にしか見えない。
入り口近くには手が羽根に、脚が鳥の脚になっている女性。話に聞いていたハルピュイアだろう。
仕立て部屋で見かけた覚えのあるエルフと何やら歓談しているようだ。
その隣のテーブルでは赤く燃えているトカゲとひげの生えている小人。
燃えているということはおそらくあれが火を操るという四族のサラマンドラだろう。
ならば一緒にいるのが同じく四族のノウムだろうか。
そしてそれぞれ会場の端と端に少女と青年がいた。
少女は口を小さく開き、牙を剥き出しにしていた。
顔付きからしてもヴァンパイアの身内、妹だろう。
そして最後の青年はなんとも奇妙な姿形をしていた。
一言で言えば体の半分がないのだ。
頭から縦半分に割られたように体の半分を持たない青年が、こともなげにそこにいた。
消去法で彼がニスナスなのだろう。なるほどニンフとシルフが説明しづらかったのもわからないでもない。
参席者は服を着ているものは皆、黒い服を着ていた。
そして部屋の端には楽団がいた。
様々な見た目の魔族たちが楽器を構えて、今も音楽を奏でている。
「みんなよくぞ集まってくれた」
ユリウスが会場に呼びかける。
参席者たちは静聴する。
「もう皆も聞き及んでいるとは思うが、紹介しよう。この度、王妃に迎えるミラベルだ」
ユリウスが手を引き私を一歩前に立たせる。
なんと言っていいかわからず、私は空いてる手でスカートをつまんで礼をした。
会場は拍手に包まれた。
体が片方しかないニスナスと、どこか不機嫌そうなヴァンパイアの妹は拍手をしなかったけれど。
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