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第96話 めでたしめでたし
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「その節はどうも、王妃様」
結婚式後のパーティー。見慣れない男が、私にニヤニヤと近寄ってきた。
その声で誰かわかる。
「あなた、あの時の……」
「帰れ、インキュバス」
ユリウスの冷たい声が男を突き刺した。
近くにいたドラキュラとカーミラ嬢の顔が険しくなる。
「帰らないなら、実力行使をする」
「おやおや、祝福を差し上げようと思って参りましたのに」
「お前の祝福など、ろくなもんじゃない」
「夜を盛り上げる祝福ですよ? これからご夫婦としてますます励まなければならないのですから……」
「パーティーにふさわしくない言動をやめろ」
ユリウスがいっそう不機嫌になる。
ドラキュラとカーミラ嬢が目を合わせて、うなずき合い、インキュバスの両脇をがっちり掴んだ。
「あ、ちょっと、ヴァンパイア兄妹さん、な、何を……ああっ!」
インキュバスが悲鳴を上げて、バルコニーから放り投げられた。
「……ここけっこう高いのじゃないかしら」
私はあまり心配していないけれど、一応そう言った。
「あいつは飛べる」
ユリウスが短くそう言った。
「飛べるの、いいわね……魔王族は?」
「魔王族は残念ながら飛べない。ヴァンパイア族も飛べるから、空を飛んでみたいときはドラキュラに……いや、カーミラに頼むと良い」
「何もしませんよー」
心外だと言わんばかりの顔でドラキュラが戻ってくる。
「あ、ほらほら、あんな淫乱野郎のことは忘れてエッダ嬢に改めてごあいさつしましょう」
ドラキュラがエッダ嬢を指し示す。
何人かの魔族と真剣な顔で何かを話し込んでいて、話しかけるのはためらわれる。
しかし、彼女の方からこちらの視線に気付いてこちらを向き、近寄ってきてくれた。
「どうも、お妃様」
「あ、あの、ミラベルで良いわ……エッダ嬢」
「では、遠慮なく、ミラベル様」
「今日は本当にありがとうございました、エッダ嬢」
「いえいえ、魔王族の名誉にも関わってくることですから、まあ、兄のせいで名誉など地に落ちたも当然と言われれば当然ですけれど……」
エッダ嬢は顔をしかめた。
「……あの人は、ええと、元気にしています?」
「残念ながら元気です」
「そう……エッダ嬢さえよろしければ……これからも私の……その力になっていただけるかしら……?」
「はい、カーミラほどお役に立てるかはわかりませんが」
「謙遜しすぎは嫌味」
カーミラ嬢は嫌そうに顔をしかめた。
「ふん、魔王族歴代最高の才女と謳われてるくせに何が私より役に立てるか……よ」
「そういうところです。私はあなたの遠慮のなさを高く評価しています」
「そ、そう……」
カーミラ嬢のツンとした物言いにも動じず、エッダ嬢はにこりともせずにカーミラ嬢を褒め称えた。
「うん、この調子で、よければ、ふたりの友を王妃に紹介してやってほしい。
王妃のこれからの魔界生活をよりよきものにするために」
「承知しました」
「は、はい、陛下」
ふたりがユリウスの頼みに背筋を伸ばす。
頼れる仲間が増えていく。それが、嬉しかった。
そうして宴はお開きとなり、私達は寝室に戻った。
「……初夜、ふたたび、か」
「そうですね」
寝間着でゆったりと寄り添いながら、私達は抱き合った。
「……冬が終わったら、魔界を巡る旅に出る予定だ。新婚旅行だな」
「はい、楽しみ」
「冬の間は人間では到底たどり着けない場所も魔界には多いからな……」
未来の話。
それは私がかつてすることを思い描くこともなかった話。
明日もずっと同じ日々が続くと思っていた私はもういない。
今の私は、とても幸せだった。
「……愛しています、ユリウス」
私はユリウスの耳元で囁いた。
ユリウスがくすぐったそうに笑う。
「ああ、愛している、ミラベル」
ユリウスも私の耳元に囁き返した。
今日も夜が始まる。
ふたりだけの夜が。
それは魔王の子供を産むための交わり。
だけど、そこには確かに愛があった。
<完>
メインはここで完結ですが、書きそびれていたお風呂でのラブシーンを近日中に、番外編として書き足す予定です。
そちらもお楽しみいただけると幸いです。
新作「聖女候補の姫君は初恋の騎士に純潔を奪われたい」連載開始しています。
よろしければ、そちらもお願いします。
結婚式後のパーティー。見慣れない男が、私にニヤニヤと近寄ってきた。
その声で誰かわかる。
「あなた、あの時の……」
「帰れ、インキュバス」
ユリウスの冷たい声が男を突き刺した。
近くにいたドラキュラとカーミラ嬢の顔が険しくなる。
「帰らないなら、実力行使をする」
「おやおや、祝福を差し上げようと思って参りましたのに」
「お前の祝福など、ろくなもんじゃない」
「夜を盛り上げる祝福ですよ? これからご夫婦としてますます励まなければならないのですから……」
「パーティーにふさわしくない言動をやめろ」
ユリウスがいっそう不機嫌になる。
ドラキュラとカーミラ嬢が目を合わせて、うなずき合い、インキュバスの両脇をがっちり掴んだ。
「あ、ちょっと、ヴァンパイア兄妹さん、な、何を……ああっ!」
インキュバスが悲鳴を上げて、バルコニーから放り投げられた。
「……ここけっこう高いのじゃないかしら」
私はあまり心配していないけれど、一応そう言った。
「あいつは飛べる」
ユリウスが短くそう言った。
「飛べるの、いいわね……魔王族は?」
「魔王族は残念ながら飛べない。ヴァンパイア族も飛べるから、空を飛んでみたいときはドラキュラに……いや、カーミラに頼むと良い」
「何もしませんよー」
心外だと言わんばかりの顔でドラキュラが戻ってくる。
「あ、ほらほら、あんな淫乱野郎のことは忘れてエッダ嬢に改めてごあいさつしましょう」
ドラキュラがエッダ嬢を指し示す。
何人かの魔族と真剣な顔で何かを話し込んでいて、話しかけるのはためらわれる。
しかし、彼女の方からこちらの視線に気付いてこちらを向き、近寄ってきてくれた。
「どうも、お妃様」
「あ、あの、ミラベルで良いわ……エッダ嬢」
「では、遠慮なく、ミラベル様」
「今日は本当にありがとうございました、エッダ嬢」
「いえいえ、魔王族の名誉にも関わってくることですから、まあ、兄のせいで名誉など地に落ちたも当然と言われれば当然ですけれど……」
エッダ嬢は顔をしかめた。
「……あの人は、ええと、元気にしています?」
「残念ながら元気です」
「そう……エッダ嬢さえよろしければ……これからも私の……その力になっていただけるかしら……?」
「はい、カーミラほどお役に立てるかはわかりませんが」
「謙遜しすぎは嫌味」
カーミラ嬢は嫌そうに顔をしかめた。
「ふん、魔王族歴代最高の才女と謳われてるくせに何が私より役に立てるか……よ」
「そういうところです。私はあなたの遠慮のなさを高く評価しています」
「そ、そう……」
カーミラ嬢のツンとした物言いにも動じず、エッダ嬢はにこりともせずにカーミラ嬢を褒め称えた。
「うん、この調子で、よければ、ふたりの友を王妃に紹介してやってほしい。
王妃のこれからの魔界生活をよりよきものにするために」
「承知しました」
「は、はい、陛下」
ふたりがユリウスの頼みに背筋を伸ばす。
頼れる仲間が増えていく。それが、嬉しかった。
そうして宴はお開きとなり、私達は寝室に戻った。
「……初夜、ふたたび、か」
「そうですね」
寝間着でゆったりと寄り添いながら、私達は抱き合った。
「……冬が終わったら、魔界を巡る旅に出る予定だ。新婚旅行だな」
「はい、楽しみ」
「冬の間は人間では到底たどり着けない場所も魔界には多いからな……」
未来の話。
それは私がかつてすることを思い描くこともなかった話。
明日もずっと同じ日々が続くと思っていた私はもういない。
今の私は、とても幸せだった。
「……愛しています、ユリウス」
私はユリウスの耳元で囁いた。
ユリウスがくすぐったそうに笑う。
「ああ、愛している、ミラベル」
ユリウスも私の耳元に囁き返した。
今日も夜が始まる。
ふたりだけの夜が。
それは魔王の子供を産むための交わり。
だけど、そこには確かに愛があった。
<完>
メインはここで完結ですが、書きそびれていたお風呂でのラブシーンを近日中に、番外編として書き足す予定です。
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