90 / 105
第90話 戴冠へ
しおりを挟む
「陛下、こちらをどうぞお妃様に」
エルフが取り出した箱の中に収まっていたのはティアラだった。
「魔王城に代々伝わる王妃様のティアラです。こちら手に触れられるのは陛下と陛下に選ばれた王妃様だけですので」
「……年代物ね」
ゴクリと唾を飲む。
たしか魔王の結婚式は約千年ぶりだったはずだ。
「ミラベル」
「はい」
私はシルフの手を借りて、身をかがめた。
ユリウスが私の頭にティアラを被せる。
「お、落としそうで怖い……」
「大丈夫ですよ、髪をそれ用に結い上げましたから」
そろりそろりと立ち上がる。
「…………すばらしい」
エルフが感極まったようにそう言った。
「ああ……千年前を思い出します……」
千年前、私の父方の祖父母が結婚をしたとき。
いったいどういう魔族たちだったのだろう。
祖父は賢者に厳しかったそうだけれど……。
「さて、では、ストラスが来ておりますのでお二人とも玉座の間に」
「結婚式の練習……?」
「いいえ」
エルフはゆるゆると首を横に振った。
「ストラスは画家です。お二人の肖像画を描かせます」
玉座の間に向かう前に画廊に寄った。
「これが、君の父だ、ミラベル」
一人で肖像画に収まっている魔王がいた。
なるほどアーダーベルトとよく似た角がついている。
「そしてこっちが……会ったことはないが君の祖父母だな」
千年前に結婚した魔王夫妻。
祖父は父と同じ角がついていて、祖母は尖った牙をしている。
「……祖母ってもしかして?」
「ヴァンパイア族だったと聞いている」
「じゃあ、私、ドラキュラやカーミラ嬢とも遠い親戚なのね……」
何もかも、知らないことばかりだった。
私達はしばらく父と祖父母の肖像画を眺めていた。
「ここに、私とユリウスが並ぶのね」
「……悲願、ですな」
しわがれた声が画廊の入り口からした。
振り返ると賢者がそこにいた。
「まあ、賢者先生」
「……先代魔王陛下は人間との婚姻を強く望まれていましたから……これがこうして少し変わった形とは言え成し遂げられる……すばらしいことです」
「……そう、ね」
私はずっと父に捨てられたと思っていた。
でも、むしろ、父は母に拒絶されていた。
母はどうして魔界には来なかったのだろう。
……私ほど、辛い人生ではなかったのかもしれない。
それとも生まれてくる私のためだったのだろうか。
あるいは、魔界がただ怖かったのか。
今となっては、もうわからない。
賢者は礼をして去って行った。
「…………」
「俺たちも行こうか、ミラベル」
ユリウスが優しく私の腕を取った。
「……エスコートが上手くなったわね」
「……最初に出会ったときのことを言っている?」
「ええ」
私は笑った。
「あの時はすまなかった……とにかく気が急いていた……」
「ちょっと怖かったわ」
「……すまない」
「いいの」
ユリウスの腕に支えられ、私達は玉座の間に向かった。
長時間、絵のモデルになるのは少し不安だったけれど、玉座の間では座って絵を描いてもらえた。
絵を描いてくれたストラスはカラスの姿で私達を待っていたけれど、絵を描くのに人間の体になった。
「変身……できるのですね」
「72族いる悪魔族の一部は変身ができます。私はその一部ですね」
「72……」
覚えられる気がしない。
「安心しろ、俺も魔王城によく出入りする奴しか覚えていない」
ユリウスが元気づけるようにそう言った。
長時間を経て、ストラスは満足げにうなずいた。
「仮絵ができました。結婚式には間に合わせますね」
「ありがとう、ストラスさん」
その後、仕立て部屋に戻り、私達は着替えると、自分たちの部屋に戻った。
エルフが取り出した箱の中に収まっていたのはティアラだった。
「魔王城に代々伝わる王妃様のティアラです。こちら手に触れられるのは陛下と陛下に選ばれた王妃様だけですので」
「……年代物ね」
ゴクリと唾を飲む。
たしか魔王の結婚式は約千年ぶりだったはずだ。
「ミラベル」
「はい」
私はシルフの手を借りて、身をかがめた。
ユリウスが私の頭にティアラを被せる。
「お、落としそうで怖い……」
「大丈夫ですよ、髪をそれ用に結い上げましたから」
そろりそろりと立ち上がる。
「…………すばらしい」
エルフが感極まったようにそう言った。
「ああ……千年前を思い出します……」
千年前、私の父方の祖父母が結婚をしたとき。
いったいどういう魔族たちだったのだろう。
祖父は賢者に厳しかったそうだけれど……。
「さて、では、ストラスが来ておりますのでお二人とも玉座の間に」
「結婚式の練習……?」
「いいえ」
エルフはゆるゆると首を横に振った。
「ストラスは画家です。お二人の肖像画を描かせます」
玉座の間に向かう前に画廊に寄った。
「これが、君の父だ、ミラベル」
一人で肖像画に収まっている魔王がいた。
なるほどアーダーベルトとよく似た角がついている。
「そしてこっちが……会ったことはないが君の祖父母だな」
千年前に結婚した魔王夫妻。
祖父は父と同じ角がついていて、祖母は尖った牙をしている。
「……祖母ってもしかして?」
「ヴァンパイア族だったと聞いている」
「じゃあ、私、ドラキュラやカーミラ嬢とも遠い親戚なのね……」
何もかも、知らないことばかりだった。
私達はしばらく父と祖父母の肖像画を眺めていた。
「ここに、私とユリウスが並ぶのね」
「……悲願、ですな」
しわがれた声が画廊の入り口からした。
振り返ると賢者がそこにいた。
「まあ、賢者先生」
「……先代魔王陛下は人間との婚姻を強く望まれていましたから……これがこうして少し変わった形とは言え成し遂げられる……すばらしいことです」
「……そう、ね」
私はずっと父に捨てられたと思っていた。
でも、むしろ、父は母に拒絶されていた。
母はどうして魔界には来なかったのだろう。
……私ほど、辛い人生ではなかったのかもしれない。
それとも生まれてくる私のためだったのだろうか。
あるいは、魔界がただ怖かったのか。
今となっては、もうわからない。
賢者は礼をして去って行った。
「…………」
「俺たちも行こうか、ミラベル」
ユリウスが優しく私の腕を取った。
「……エスコートが上手くなったわね」
「……最初に出会ったときのことを言っている?」
「ええ」
私は笑った。
「あの時はすまなかった……とにかく気が急いていた……」
「ちょっと怖かったわ」
「……すまない」
「いいの」
ユリウスの腕に支えられ、私達は玉座の間に向かった。
長時間、絵のモデルになるのは少し不安だったけれど、玉座の間では座って絵を描いてもらえた。
絵を描いてくれたストラスはカラスの姿で私達を待っていたけれど、絵を描くのに人間の体になった。
「変身……できるのですね」
「72族いる悪魔族の一部は変身ができます。私はその一部ですね」
「72……」
覚えられる気がしない。
「安心しろ、俺も魔王城によく出入りする奴しか覚えていない」
ユリウスが元気づけるようにそう言った。
長時間を経て、ストラスは満足げにうなずいた。
「仮絵ができました。結婚式には間に合わせますね」
「ありがとう、ストラスさん」
その後、仕立て部屋に戻り、私達は着替えると、自分たちの部屋に戻った。
0
お気に入りに追加
1,046
あなたにおすすめの小説
かつて私を愛した夫はもういない 偽装結婚のお飾り妻なので溺愛からは逃げ出したい
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※また後日、後日談を掲載予定。
一代で財を築き上げた青年実業家の青年レオパルト。彼は社交性に富み、女性たちの憧れの的だった。
上流階級の出身であるダイアナは、かつて、そんな彼から情熱的に求められ、身分差を乗り越えて結婚することになった。
幸せになると信じたはずの結婚だったが、新婚数日で、レオパルトの不実が発覚する。
どうして良いのか分からなくなったダイアナは、レオパルトを避けるようになり、家庭内別居のような状態が数年続いていた。
夫から求められず、苦痛な毎日を過ごしていたダイアナ。宗教にすがりたくなった彼女は、ある時、神父を呼び寄せたのだが、それを勘違いしたレオパルトが激高する。辛くなったダイアナは家を出ることにして――。
明るく社交的な夫を持った、大人しい妻。
どうして彼は二年間、妻を求めなかったのか――?
勘違いですれ違っていた夫婦の誤解が解けて仲直りをした後、苦難を乗り越え、再度愛し合うようになるまでの物語。
※本編全23話の完結済の作品。アルファポリス様では、読みやすいように1話を3〜4分割にして投稿中。
※ムーンライト様にて、11/10~12/1に本編連載していた完結作品になります。現在、ムーンライト様では本編の雰囲気とは違い明るい後日談を投稿中です。
※R18に※。作者の他作品よりも本編はおとなしめ。
※ムーンライト33作品目にして、初めて、日間総合1位、週間総合1位をとることができた作品になります。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
結婚する気なんかなかったのに、隣国の皇子に求婚されて困ってます
星降る夜の獅子
恋愛
貴族の名門、アベリア学園に通う三年生、リラ・アリエス。
同級生たちは卒業後の社交パーティーや見合いに夢中だが、リラは領地の経営にしか興味が持てない様子だった。
親友のアビーとクリスティーヌに婚期を逃すよう幾度となく忠告されても、彼女は平然として笑って誤魔化すの。
そんなリラを心から慕うのは、学友であり、アベリア国皇子の第二皇子、ロイド・ヴィルゴ・アベリア。
ロイドは密かに成人式の宴の後、リラに求婚するつもりで準備をしていた。
しかし、その時、たまたま列席していたのは、類稀なる美貌を持つアクイラ国第一皇子、クライヴ・レオ・アクイラだった。
驚くべきことに、クライヴはロイドの目の前で、恋焦がれるリラをダンスに誘うのだ!
この信じがたい出来事に、ロイドは嫉妬に震え、取り乱す。一方、リラはクライヴの美貌に見惚れ、抗うことができない。
これは、異世界王宮で繰り広げられるドキドキのラブストーリー。
☆★☆ 重複投稿のお知らせ ☆★☆
『小説家になろう』さまでも同様のものを連載しております
https://ncode.syosetu.com/n6224in/
『カクヨム』さまでも同様のものを掲載しております
https://kakuyomu.jp/works/16818023213580314524
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
離縁を申し出たら溺愛されるようになりました!? ~将軍閣下は年下妻にご執心~
姫 沙羅(き さら)
恋愛
タイトル通りのお話です。
少しだけじれじれ・切ない系は入りますが、全11話ですのですぐに甘くなります。(+番外編)
えっち率は高め。
他サイト様にも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる