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第80話 雪解けのあとに
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「……あの、ええと、カーミラ嬢、その……どうして私に噂を教えてくださいましたの?」
「……そ、それはお妃様が望まれたから……」
泣きじゃくりながら、カーミラ嬢が答える。
「いえ、いちばん最初よ、最初はあなたから言い出してくれました」
「そ、それは……い、いやがらせを……」
カーミラ嬢は恥じるようにうつむいた。
「あなたの態度は不機嫌でしたけれど、あまりよいものではなかったけれど、でも、あなたはいつも私に正しいことを言ってくれました。正しい忠告をしてくれました。それは……ユリウスのためでしょう?」
「…………」
「そのくらいは、わかります。理解できます。私がちゃんとしてないと、ユリウスが困るものね」
「…………お妃様」
「……あのね、カーミラ嬢、私は今日はここにあなたと仲良くするために来たのです」
「……あなたを嫌っている女と?」
「……あなたは私のことが嫌いでも、私達はどちらも陛下のことが好きだし……あなたも、陛下の力になりたいと思ってくれているでしょう?」
「……それは、そうですけど……」
「陛下の味方は私の味方です。あなたにとっては不本意でしょうけれど」
「…………」
カーミラ嬢はしばらくうつむいていた。
だけどようやく顔を上げて、口を開いた。
「……いえ、いいえ。陛下の力になりたいと、思っている人が一人でも増えるのなら、それは私だって喜ぶことなのです」
「……よかった」
私は彼女に微笑みかけた。
カーミラ嬢もぎこちない笑みを浮かべてくれた。
私はカーミラ嬢に手を差し出した。
カーミラ嬢は、それを握ってくれた。
少し爪の長い手と握手をした。
「お妃様! ようこそ、おいでくださいました!」
私達が一息ついていると、そこに男女のヴァンパイアが現れた。
カーミラ嬢やドラキュラより年上に見える。
「げ、父上、母上」
ドラキュラが露骨に嫌そうな顔をする。
「紹介にあずかりました、ドラキュラとカーミラの父でございます!」
「息子がたいそうお世話になっております。母でございます」
なかなかに仲の良さそうなにぎやかなご家庭だ。
「あ、あの、父上、母上……」
カーミラ嬢が何やら焦った顔をし出す。
これはドラキュラの言っていたヴァンパイア族の策略の一環……?
「それで……その、どうでしょうか」
「うちのドラキュラは……その、悪い息子ではないと思うのですが……!」
「え、ええ、いつも助けていただいていますが……?」
ご両親の言いたいことがまったく読めない。
「では、お話を進めてもよろしいでしょうか?」
「……何の?」
「あらやだ、カーミラ、あなたまだお話ししていなかったの」
「いえ、あのですね、父上、母上、お妃様は……」
「ぜひ、うちのドラキュラと結婚していただけませんか!」
「……は?」
斜め上の言葉に私ははしたなく口を半開きにした。
「……そ、それはお妃様が望まれたから……」
泣きじゃくりながら、カーミラ嬢が答える。
「いえ、いちばん最初よ、最初はあなたから言い出してくれました」
「そ、それは……い、いやがらせを……」
カーミラ嬢は恥じるようにうつむいた。
「あなたの態度は不機嫌でしたけれど、あまりよいものではなかったけれど、でも、あなたはいつも私に正しいことを言ってくれました。正しい忠告をしてくれました。それは……ユリウスのためでしょう?」
「…………」
「そのくらいは、わかります。理解できます。私がちゃんとしてないと、ユリウスが困るものね」
「…………お妃様」
「……あのね、カーミラ嬢、私は今日はここにあなたと仲良くするために来たのです」
「……あなたを嫌っている女と?」
「……あなたは私のことが嫌いでも、私達はどちらも陛下のことが好きだし……あなたも、陛下の力になりたいと思ってくれているでしょう?」
「……それは、そうですけど……」
「陛下の味方は私の味方です。あなたにとっては不本意でしょうけれど」
「…………」
カーミラ嬢はしばらくうつむいていた。
だけどようやく顔を上げて、口を開いた。
「……いえ、いいえ。陛下の力になりたいと、思っている人が一人でも増えるのなら、それは私だって喜ぶことなのです」
「……よかった」
私は彼女に微笑みかけた。
カーミラ嬢もぎこちない笑みを浮かべてくれた。
私はカーミラ嬢に手を差し出した。
カーミラ嬢は、それを握ってくれた。
少し爪の長い手と握手をした。
「お妃様! ようこそ、おいでくださいました!」
私達が一息ついていると、そこに男女のヴァンパイアが現れた。
カーミラ嬢やドラキュラより年上に見える。
「げ、父上、母上」
ドラキュラが露骨に嫌そうな顔をする。
「紹介にあずかりました、ドラキュラとカーミラの父でございます!」
「息子がたいそうお世話になっております。母でございます」
なかなかに仲の良さそうなにぎやかなご家庭だ。
「あ、あの、父上、母上……」
カーミラ嬢が何やら焦った顔をし出す。
これはドラキュラの言っていたヴァンパイア族の策略の一環……?
「それで……その、どうでしょうか」
「うちのドラキュラは……その、悪い息子ではないと思うのですが……!」
「え、ええ、いつも助けていただいていますが……?」
ご両親の言いたいことがまったく読めない。
「では、お話を進めてもよろしいでしょうか?」
「……何の?」
「あらやだ、カーミラ、あなたまだお話ししていなかったの」
「いえ、あのですね、父上、母上、お妃様は……」
「ぜひ、うちのドラキュラと結婚していただけませんか!」
「……は?」
斜め上の言葉に私ははしたなく口を半開きにした。
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