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第77話 聞き入れる覚悟
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「……よろしいので?」
自分で話を始めておきながら、カーミラ嬢は私の質問に困惑した顔をした。
「聞かなければ、払拭もできません」
「……目を閉じて、耳をふさいでしまってもよろしいのではありませんか。陛下の王妃となって、正式な行事にだけお飾りの王妃として参列して、そうして生きていく道もございましょう?」
「……その道は、選びたくありません」
私はそう言っていた。
「……私がただの人間なら、その道もあったでしょう。魔王城の奥深くで、陛下やあなたのお兄様にか弱い我が身を守ってもらって生きていく。それが人間という生き物です。脆くて弱い生き物ですもの。……でも、残念ながら私は……ある場面においては陛下より強靱でした」
アーダーベルトの城に連れて行かれたとき、私は瘴気に当てられなかった。
ユリウスの体はああも、ダメージを受けていたのに。
「……だったら、もしもの場面では、陛下の盾になる道もあるかもしれない」
ドラキュラが何かを言いたげに身じろぎした。
そんなことはさせない、そう言いたいのだろう。
わかっている。彼の気持ちはわかっているし、ユリウスだってそれを喜びはしないだろうけれど、それでも、私はもうそれを知ってしまった。
自分が思っていたより強靱だと知ってしまった。
「だから、なるべく表舞台に立ちたいのです。私の先代魔王の血も……利用できるなら利用したい」
父はどう思うだろう?
父の威光を笠に着るなど。
そう思わないでもないけれど、死んだ父にそこまで義理立てする必要もあるまい。
話に聞くだけでも、父はユリウスを可愛がっていたようだし、だとしたら娘が可愛がっていたユリウスを庇おうとするのを止めもするまい。
「…………呆れた女」
カーミラ嬢はポツリとそう言った。
「失礼だろう!」
ドラキュラがカーミラ嬢を叱りつける。
「……ドラキュラ、少し散歩してらっしゃい」
「お、お妃様……」
「あなたが守ろうとしてくれていること、ありがたいとは思っています。でも、私は……私も、守りたいのです、陛下を」
「…………」
ドラキュラはしばらく逡巡して、折衷案として給仕役のヴァンパイアを連れて庭の方に去っていった。
「……では、私の耳に入っている噂を」
「ええ」
「『お妃様は陛下を亡き者にして魔王の座を奪うつもりだ』『お妃様は魔界を攻め滅ぼすために、人間界から送り込まれたスパイだ』『陛下は人間のくせにお妃様を無理矢理手込めにすることで魔王としての正当性を主張しようとしている』『アーダーベルトは魔王族としてそれを阻止した』『アーダーベルトは王位簒奪のためにお妃様を無理矢理穢した』『お妃様が先代魔王の娘だというのは偽りで、適当な女をそう言って連れてきた』『そもそも先代魔王の娘などいなかった』……などなどです」
「めまいがしてきますね」
思っていた以上に魔界は魔境だった。
ある意味、人も魔族も関係ない。
自分で話を始めておきながら、カーミラ嬢は私の質問に困惑した顔をした。
「聞かなければ、払拭もできません」
「……目を閉じて、耳をふさいでしまってもよろしいのではありませんか。陛下の王妃となって、正式な行事にだけお飾りの王妃として参列して、そうして生きていく道もございましょう?」
「……その道は、選びたくありません」
私はそう言っていた。
「……私がただの人間なら、その道もあったでしょう。魔王城の奥深くで、陛下やあなたのお兄様にか弱い我が身を守ってもらって生きていく。それが人間という生き物です。脆くて弱い生き物ですもの。……でも、残念ながら私は……ある場面においては陛下より強靱でした」
アーダーベルトの城に連れて行かれたとき、私は瘴気に当てられなかった。
ユリウスの体はああも、ダメージを受けていたのに。
「……だったら、もしもの場面では、陛下の盾になる道もあるかもしれない」
ドラキュラが何かを言いたげに身じろぎした。
そんなことはさせない、そう言いたいのだろう。
わかっている。彼の気持ちはわかっているし、ユリウスだってそれを喜びはしないだろうけれど、それでも、私はもうそれを知ってしまった。
自分が思っていたより強靱だと知ってしまった。
「だから、なるべく表舞台に立ちたいのです。私の先代魔王の血も……利用できるなら利用したい」
父はどう思うだろう?
父の威光を笠に着るなど。
そう思わないでもないけれど、死んだ父にそこまで義理立てする必要もあるまい。
話に聞くだけでも、父はユリウスを可愛がっていたようだし、だとしたら娘が可愛がっていたユリウスを庇おうとするのを止めもするまい。
「…………呆れた女」
カーミラ嬢はポツリとそう言った。
「失礼だろう!」
ドラキュラがカーミラ嬢を叱りつける。
「……ドラキュラ、少し散歩してらっしゃい」
「お、お妃様……」
「あなたが守ろうとしてくれていること、ありがたいとは思っています。でも、私は……私も、守りたいのです、陛下を」
「…………」
ドラキュラはしばらく逡巡して、折衷案として給仕役のヴァンパイアを連れて庭の方に去っていった。
「……では、私の耳に入っている噂を」
「ええ」
「『お妃様は陛下を亡き者にして魔王の座を奪うつもりだ』『お妃様は魔界を攻め滅ぼすために、人間界から送り込まれたスパイだ』『陛下は人間のくせにお妃様を無理矢理手込めにすることで魔王としての正当性を主張しようとしている』『アーダーベルトは魔王族としてそれを阻止した』『アーダーベルトは王位簒奪のためにお妃様を無理矢理穢した』『お妃様が先代魔王の娘だというのは偽りで、適当な女をそう言って連れてきた』『そもそも先代魔王の娘などいなかった』……などなどです」
「めまいがしてきますね」
思っていた以上に魔界は魔境だった。
ある意味、人も魔族も関係ない。
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