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第51話 一ヶ月

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 気付けば私が魔王城に来てから一週間が経っていた。
 あまりにも濃い一週間だった。

 ユリウスの静養はしばらく続くらしく、私達は朝昼晩といっしょに食事をとり、夜はユリウスの寝室で静かに眠った。
 午後の賢者の授業は再開した。
 余った午前の時間を利用して私はハンカチーフを繕った。
 まずは最初にあげたのと同じ、シンプルなワンポイントのもの。
 もう一枚はもう少し凝ったものを作りたいと時間をもらった。

 一枚目を手渡すとユリウスは心底喜んでくれた。

「ああ、ありがとう、ミラベル。うん、よかった。ああ、今度こそ大切にする」

「いえ……このくらいいくらでも作れますから」

「そういう問題ではないんだ……大切に、したいんだ」

 胸にハンカチをかき抱くようにしながら彼はそう言った。



 私の文字の勉強は順調だった。
 初めの頃、ユリウスに読み聞かせてもらった絵本を自分でも読めるようにまでなっていた。



 そんな穏やかな時間が一ヶ月ほど続いた。

 ユリウスは私と魔王城の庭を散歩するくらいには回復していた。

 外の陽射しが次第に穏やかになっていく。
 夏が終わろうとしていた。
 魔王城にこもっていることの方が多くて、夏らしい感じはあまりしなかったが。

 その内にユリウスの怪我は完治し、執務に精を出すようになり始めた。
 時を告げる鐘の音も復活した。

「……では、そろそろ添い寝も終わりにしましょうか」

「え」

 ある夜、私がそう言うとユリウスは見るからに不満そうな顔をした。

「……執務がお忙しくなれば、眠る時間もまちまちになるでしょう。不在のお部屋にお邪魔するのも気が引けます」

「まあ、そうなんだが……うん……」

「以前のように訪ねてきてくださいませ、待っていますから。眠っていたら起こしてくださいね」

「……うん」

 ユリウスは私の肩を抱いた。
 その力強さに彼の回復を感じる。
 あたたかなぬくもりを感じながら、私は彼に寄り添った。

 外からは木枯らしの音が聞こえるようになってきていた。

「……ああ、そうだ、パーティーを来週に執り行う」

 思い出した、というようにユリウスが告げてきた。

「承知しました」

「メンバーはヴァンパイアとその妹、先日君がたまたま会った医師のサルース。賢者。四族からそれぞれの代表ひとりずつ。エルフにニスナスにハルピュイア……増減するかもしれないがそんなところだ。10人強か」

 後半は知らない名前だったが、私はうなずいた。

「皆、俺にも人間にも悪意はない連中だ。仲良く……はいきなり難しいかもしれないが、建設的な関係を築けることを祈っている」

「はい、私もです」

「ニンフとシルフは君の世話をしている者から選んだ。困ったら彼女らと一緒にいればいい」

「はい」

「……それじゃあ寝ようか」

 ユリウスはどこか名残惜しそうだった。
 もう少し話していたいが、話題がない。そんな感じだった。

「おやすみなさいませ」

 私達はベッドに潜り込んだ。
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