『魔王』へ嫁入り~魔王の子供を産むために王妃になりました~【完結】

新月蕾

文字の大きさ
上 下
50 / 105

第50話 穏やかに緩やかに

しおりを挟む
 夕食も着替えることもなくユリウスの部屋で気軽にとった。
 食事をとっているとヴァンパイアが入ってきた。
 格好がすっかり綺麗に整っていた。

「おお、陛下、お元気そうで何より。お妃様も、ご機嫌よう」

「ああ、迷惑かけたな」

 ユリウスがぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、これが仕事です。それにしてもお妃様が加勢して、俺を送り出してくれたおかげで、ユリウスを助けられましたよ。ユリウス、俺のありがたみがわかっただろう?」

「……ああ」

 わざと恩着せがましい言い方をするヴァンパイアにユリウスは苦笑した。

「ええと、本当にありがとうございます、ヴァンパイアさん」

 私の礼に、ヴァンパイアは軽く手を振った。

「いえいえ、どうぞお気になさらず、これが仕事です……。ああ、パーティー延期の根回しは俺がやっておきますね、陛下」

「色々と動いてくれていたのに、悪いな」

「致し方ありません」

 その後、ふたりは西のゴブリンの集落での不作や、ドワーフの賃上げ要求の話など政治的な話を少し交した。
 私には口の挟める話題ではなかったけれど、今まで聞くこともできなかったユリウスの仕事について聞けるのは少し嬉しかった。

「それではお邪魔しました。どうぞ陛下におかれましては、お体第一に。失礼いたします、お妃様」

「はい」

「ああ」

 ヴァンパイアが去る頃には、私達の食事は終わっていた。

「…………」

「…………」

「ええと、それじゃあ、私は、あの、今夜はこの辺で」

「…………うん」

 お互いに名残惜しい気持ちがあるのを感じながら、私はユリウスの部屋から自分の部屋に戻った。
 入浴し、ベッドに潜り込む。

 お昼まで寝ていたせいだろう、なかなか寝付けなかった。

「……ユリウス」

 ポツリとその名を呟く。
 ベッドから降りて、寝間着の上にガウンを羽織る。

「…………」

 しばらく扉の前に立ちすくむ。
 ユリウスはもう寝てしまっただろうか。
 寝てしまっていたら、起こしてしまう。
 だけどもしも私と同じように眠れない夜を過ごしていたら……。

 私の心は迷いに迷った。

 その時、扉の向こうから人の動く気配がした。

「……ミラベル?」

「えっ、あっ、はい!」

 声が、聞こえた。大きくはない。それでも確かなユリウスの声。

 私は慌ててノックもせずに扉を開けた。
 ユリウスはまだ起きていた。
 ロウソクの明かりの下で、何か本を読んでいた。
 装丁がずいぶんと古びている。

「……お眠りにならないのですか」

「なかなか寝付けなくて……君は?」

「私も……眠れなくて」

「そうか」

 ユリウスは本を閉じて仕舞うと、ベッドの左側を開けた。

「おいで」

 その言葉にそろそろとベッドに近付く。
 胸がとくんと脈打った。
 ガウンを脱いでサイドボードに置く。

「……失礼します」

「ああ」

 ベッドに並ぶ。
 こちらに向かって横向きになったユリウスが右手を私に伸ばす。
 優しく柔らかく、私の頭が撫でられる。

「……しばらくは、こんな穏やかで静かな夜だ」

「……はい」

「少し、少し、寂しいと思う自分がいる。あの……激しさが……恋しいと思う自分が」

「…………」

 私もです、なんて言うのはさすがにはしたない気がして、私は頬を染めて、黙った。

 返事の代わりに私はユリウスの懐に潜り込んだ。

「く、口付けを、してもよいでしょうか……」

「……ああ」

 私の恥じらいを小さく笑うとユリウスが目を閉じた。

 私はその唇に口付けた。
 柔らかく静かな口付けとともに、私達は眠りに誘われていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...