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第50話 穏やかに緩やかに
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夕食も着替えることもなくユリウスの部屋で気軽にとった。
食事をとっているとヴァンパイアが入ってきた。
格好がすっかり綺麗に整っていた。
「おお、陛下、お元気そうで何より。お妃様も、ご機嫌よう」
「ああ、迷惑かけたな」
ユリウスがぺこりと頭を下げた。
「いえいえ、これが仕事です。それにしてもお妃様が加勢して、俺を送り出してくれたおかげで、ユリウスを助けられましたよ。ユリウス、俺のありがたみがわかっただろう?」
「……ああ」
わざと恩着せがましい言い方をするヴァンパイアにユリウスは苦笑した。
「ええと、本当にありがとうございます、ヴァンパイアさん」
私の礼に、ヴァンパイアは軽く手を振った。
「いえいえ、どうぞお気になさらず、これが仕事です……。ああ、パーティー延期の根回しは俺がやっておきますね、陛下」
「色々と動いてくれていたのに、悪いな」
「致し方ありません」
その後、ふたりは西のゴブリンの集落での不作や、ドワーフの賃上げ要求の話など政治的な話を少し交した。
私には口の挟める話題ではなかったけれど、今まで聞くこともできなかったユリウスの仕事について聞けるのは少し嬉しかった。
「それではお邪魔しました。どうぞ陛下におかれましては、お体第一に。失礼いたします、お妃様」
「はい」
「ああ」
ヴァンパイアが去る頃には、私達の食事は終わっていた。
「…………」
「…………」
「ええと、それじゃあ、私は、あの、今夜はこの辺で」
「…………うん」
お互いに名残惜しい気持ちがあるのを感じながら、私はユリウスの部屋から自分の部屋に戻った。
入浴し、ベッドに潜り込む。
お昼まで寝ていたせいだろう、なかなか寝付けなかった。
「……ユリウス」
ポツリとその名を呟く。
ベッドから降りて、寝間着の上にガウンを羽織る。
「…………」
しばらく扉の前に立ちすくむ。
ユリウスはもう寝てしまっただろうか。
寝てしまっていたら、起こしてしまう。
だけどもしも私と同じように眠れない夜を過ごしていたら……。
私の心は迷いに迷った。
その時、扉の向こうから人の動く気配がした。
「……ミラベル?」
「えっ、あっ、はい!」
声が、聞こえた。大きくはない。それでも確かなユリウスの声。
私は慌ててノックもせずに扉を開けた。
ユリウスはまだ起きていた。
ロウソクの明かりの下で、何か本を読んでいた。
装丁がずいぶんと古びている。
「……お眠りにならないのですか」
「なかなか寝付けなくて……君は?」
「私も……眠れなくて」
「そうか」
ユリウスは本を閉じて仕舞うと、ベッドの左側を開けた。
「おいで」
その言葉にそろそろとベッドに近付く。
胸がとくんと脈打った。
ガウンを脱いでサイドボードに置く。
「……失礼します」
「ああ」
ベッドに並ぶ。
こちらに向かって横向きになったユリウスが右手を私に伸ばす。
優しく柔らかく、私の頭が撫でられる。
「……しばらくは、こんな穏やかで静かな夜だ」
「……はい」
「少し、少し、寂しいと思う自分がいる。あの……激しさが……恋しいと思う自分が」
「…………」
私もです、なんて言うのはさすがにはしたない気がして、私は頬を染めて、黙った。
返事の代わりに私はユリウスの懐に潜り込んだ。
「く、口付けを、してもよいでしょうか……」
「……ああ」
私の恥じらいを小さく笑うとユリウスが目を閉じた。
私はその唇に口付けた。
柔らかく静かな口付けとともに、私達は眠りに誘われていった。
食事をとっているとヴァンパイアが入ってきた。
格好がすっかり綺麗に整っていた。
「おお、陛下、お元気そうで何より。お妃様も、ご機嫌よう」
「ああ、迷惑かけたな」
ユリウスがぺこりと頭を下げた。
「いえいえ、これが仕事です。それにしてもお妃様が加勢して、俺を送り出してくれたおかげで、ユリウスを助けられましたよ。ユリウス、俺のありがたみがわかっただろう?」
「……ああ」
わざと恩着せがましい言い方をするヴァンパイアにユリウスは苦笑した。
「ええと、本当にありがとうございます、ヴァンパイアさん」
私の礼に、ヴァンパイアは軽く手を振った。
「いえいえ、どうぞお気になさらず、これが仕事です……。ああ、パーティー延期の根回しは俺がやっておきますね、陛下」
「色々と動いてくれていたのに、悪いな」
「致し方ありません」
その後、ふたりは西のゴブリンの集落での不作や、ドワーフの賃上げ要求の話など政治的な話を少し交した。
私には口の挟める話題ではなかったけれど、今まで聞くこともできなかったユリウスの仕事について聞けるのは少し嬉しかった。
「それではお邪魔しました。どうぞ陛下におかれましては、お体第一に。失礼いたします、お妃様」
「はい」
「ああ」
ヴァンパイアが去る頃には、私達の食事は終わっていた。
「…………」
「…………」
「ええと、それじゃあ、私は、あの、今夜はこの辺で」
「…………うん」
お互いに名残惜しい気持ちがあるのを感じながら、私はユリウスの部屋から自分の部屋に戻った。
入浴し、ベッドに潜り込む。
お昼まで寝ていたせいだろう、なかなか寝付けなかった。
「……ユリウス」
ポツリとその名を呟く。
ベッドから降りて、寝間着の上にガウンを羽織る。
「…………」
しばらく扉の前に立ちすくむ。
ユリウスはもう寝てしまっただろうか。
寝てしまっていたら、起こしてしまう。
だけどもしも私と同じように眠れない夜を過ごしていたら……。
私の心は迷いに迷った。
その時、扉の向こうから人の動く気配がした。
「……ミラベル?」
「えっ、あっ、はい!」
声が、聞こえた。大きくはない。それでも確かなユリウスの声。
私は慌ててノックもせずに扉を開けた。
ユリウスはまだ起きていた。
ロウソクの明かりの下で、何か本を読んでいた。
装丁がずいぶんと古びている。
「……お眠りにならないのですか」
「なかなか寝付けなくて……君は?」
「私も……眠れなくて」
「そうか」
ユリウスは本を閉じて仕舞うと、ベッドの左側を開けた。
「おいで」
その言葉にそろそろとベッドに近付く。
胸がとくんと脈打った。
ガウンを脱いでサイドボードに置く。
「……失礼します」
「ああ」
ベッドに並ぶ。
こちらに向かって横向きになったユリウスが右手を私に伸ばす。
優しく柔らかく、私の頭が撫でられる。
「……しばらくは、こんな穏やかで静かな夜だ」
「……はい」
「少し、少し、寂しいと思う自分がいる。あの……激しさが……恋しいと思う自分が」
「…………」
私もです、なんて言うのはさすがにはしたない気がして、私は頬を染めて、黙った。
返事の代わりに私はユリウスの懐に潜り込んだ。
「く、口付けを、してもよいでしょうか……」
「……ああ」
私の恥じらいを小さく笑うとユリウスが目を閉じた。
私はその唇に口付けた。
柔らかく静かな口付けとともに、私達は眠りに誘われていった。
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