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第47話 明るい朝
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「ん……」
朝の光が少しずつ差し込んでくる時刻。
ベッドからか細い声が聞こえてきた。
ユリウスがやっと目覚めてくれた。
「ユリウス……」
私はホッとした。全身から力が抜けていったけれど、ユリウスの手を握る手だけは離さなかった。
「……ミラベル……なんで床の上に……」
さすがに床の上そのままではない。
ニンフがクッションを持ってきてくれたので、その上に座っている。
「そういう問題では……うっ」
起き上がろうとしたユリウスは痛みに呻いた。
「ああ、まだ、駄目です。しばらくは安静に、と村から戻ってきたお医者様が言っていました。ええと、サルース、さん?」
ユリウスが寝ている間にやって来たお医者様は女性だった。
人間にしか見えないタイプの魔族だった。
ユリウスの包帯を取り替え、傷の様子を見、まだ床で寝ているヴァンパイアの手腕を褒めると、薬を置いていった。
医者がつきっきりでいるほどではないことに、私は大いに安心した。
「こちらお薬です。起きたら飲ませろとのことでしたから……水をお注ぎしますね」
ニンフが置いていってくれた水差しからコップに水を注ぐ。
「お口を開けて、苦いそうです、お覚悟を」
「ああ……」
薬を飲み込んで、ユリウスは私の手の傷を見つめた。
きっと気にするだろうから、隠しておきたかったけれど、薬を飲ませていると、どうしても隠すことはできなかった。
「……ミラベル、手に俺の爪痕が……」
「この程度、問題ありません」
少し血がにじんでいるけれど、じんじん痛むけれど、ユリウスの痛みに比べれば、どうってことはない。
「大丈夫です」
「……すまない」
ユリウスはそれだけ言うと、またウトウトし始めた。
「おやすみなさい、ユリウス」
「……君も、寝なさい。もう、大丈夫だから」
「……そうします」
離れがたかったけれど、あまり私がかたくなになっていてはユリウスが休めない。
私はユリウスの部屋から自室に戻った。
扉は開けっぱなしになっていた。
「…………ふふ」
昨夜の慌ただしさを思い出して、私は少し微笑んだ。
ユリウスが目覚めたおかげで、微笑む余裕を取り戻していた。
その後、私が起きたのはなんと昼前だった。
「お、起こしてくれればよかったのに!」
ニンフに思わずそう叫ぶ。
「そうはまいりません」
ニンフ今までで一番厳しくそう言った。
「お疲れのところを叩き起こすことなどできません。……陛下があのご容態ですから、時を告げる鐘も今日は打つのをやめておりますしね」
「そう……」
「ああ、今日の勉強は休みだと賢者の方から連絡がありました」
「そう、ね……」
こんな状態では勉強に身が入らないだろう。
ありがたくそうさせてもらおう。
「ヴァンパイアは? まだ床の上かしら」
「さすがにお目覚めになって『節々が痛い!』と叫びながら、お部屋を後にされていました」
「そう……」
床で寝たのだ、そうもなるだろう。
……魔族も意外と人間のような痛覚をしているらしい。
「……陛下は?」
「もうお目覚めで、ベッドの上で長座くらいはできるようになっています。お妃様が起きられたら、話をしたいとおっしゃっていました。お昼をご一緒するのがよろしいかもしれませんね」
「そうね、陛下が了承されたら、そのようにしてちょうだい」
私はベッドから出ると入浴した。
ユリウスの爪痕に水がしみて少し痛んだ。
お風呂上がりに用意されていたドレスは今日ばかりはシンプルなつくりであった。
朝の光が少しずつ差し込んでくる時刻。
ベッドからか細い声が聞こえてきた。
ユリウスがやっと目覚めてくれた。
「ユリウス……」
私はホッとした。全身から力が抜けていったけれど、ユリウスの手を握る手だけは離さなかった。
「……ミラベル……なんで床の上に……」
さすがに床の上そのままではない。
ニンフがクッションを持ってきてくれたので、その上に座っている。
「そういう問題では……うっ」
起き上がろうとしたユリウスは痛みに呻いた。
「ああ、まだ、駄目です。しばらくは安静に、と村から戻ってきたお医者様が言っていました。ええと、サルース、さん?」
ユリウスが寝ている間にやって来たお医者様は女性だった。
人間にしか見えないタイプの魔族だった。
ユリウスの包帯を取り替え、傷の様子を見、まだ床で寝ているヴァンパイアの手腕を褒めると、薬を置いていった。
医者がつきっきりでいるほどではないことに、私は大いに安心した。
「こちらお薬です。起きたら飲ませろとのことでしたから……水をお注ぎしますね」
ニンフが置いていってくれた水差しからコップに水を注ぐ。
「お口を開けて、苦いそうです、お覚悟を」
「ああ……」
薬を飲み込んで、ユリウスは私の手の傷を見つめた。
きっと気にするだろうから、隠しておきたかったけれど、薬を飲ませていると、どうしても隠すことはできなかった。
「……ミラベル、手に俺の爪痕が……」
「この程度、問題ありません」
少し血がにじんでいるけれど、じんじん痛むけれど、ユリウスの痛みに比べれば、どうってことはない。
「大丈夫です」
「……すまない」
ユリウスはそれだけ言うと、またウトウトし始めた。
「おやすみなさい、ユリウス」
「……君も、寝なさい。もう、大丈夫だから」
「……そうします」
離れがたかったけれど、あまり私がかたくなになっていてはユリウスが休めない。
私はユリウスの部屋から自室に戻った。
扉は開けっぱなしになっていた。
「…………ふふ」
昨夜の慌ただしさを思い出して、私は少し微笑んだ。
ユリウスが目覚めたおかげで、微笑む余裕を取り戻していた。
その後、私が起きたのはなんと昼前だった。
「お、起こしてくれればよかったのに!」
ニンフに思わずそう叫ぶ。
「そうはまいりません」
ニンフ今までで一番厳しくそう言った。
「お疲れのところを叩き起こすことなどできません。……陛下があのご容態ですから、時を告げる鐘も今日は打つのをやめておりますしね」
「そう……」
「ああ、今日の勉強は休みだと賢者の方から連絡がありました」
「そう、ね……」
こんな状態では勉強に身が入らないだろう。
ありがたくそうさせてもらおう。
「ヴァンパイアは? まだ床の上かしら」
「さすがにお目覚めになって『節々が痛い!』と叫びながら、お部屋を後にされていました」
「そう……」
床で寝たのだ、そうもなるだろう。
……魔族も意外と人間のような痛覚をしているらしい。
「……陛下は?」
「もうお目覚めで、ベッドの上で長座くらいはできるようになっています。お妃様が起きられたら、話をしたいとおっしゃっていました。お昼をご一緒するのがよろしいかもしれませんね」
「そうね、陛下が了承されたら、そのようにしてちょうだい」
私はベッドから出ると入浴した。
ユリウスの爪痕に水がしみて少し痛んだ。
お風呂上がりに用意されていたドレスは今日ばかりはシンプルなつくりであった。
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