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第38話 穏やかな眠り
しおりを挟む同意したくせに、私はどんどんとどうしていいかわからなくなってくる。
ユリウスの方を向いていいのか。
だからといってお尻を向けるのは失礼だろう。
ゴロゴロするのだってユリウスの邪魔になってしまう。
そういうわけで私は真上に顔を向けて眠ろうとした。
二人いっしょに寝るののに、体勢はこれでいいのだろうか。
頭の中が思考でグルグルする。
休もうと言ってベッドに入ったのに、心が安まらない。
「……ミラベル」
ユリウスが耳元で甘く私を呼ぶ。
私は観念してユリウスの方を向く。
口付けをされた。
優しい、触れるだけの、柔らかな口付け。
私は目を閉じた。
ユリウスが二、三度口付けを落とす。
心が穏やかになっていく。
私の頭をユリウスが撫でる。
ユリウスに包まれながら、私は気付けば夢の中へと落ちていった。
目覚めると、ユリウスはもういなかった。
しかし朝食を食べ終えると、ユリウスが私の部屋を訪ねてきた。
「……お待たせ」
少し疲れた顔で、ユリウスは布袋を持ち上げて見せた。
「あ……それ……」
「中身を確認してくれ、過不足ないか」
「は、はい」
その中にあるのは間違いなく宝石箱に入っていた宝石たちだった。
「はい、はい、大丈夫です。私の宝石です。……どこに? どうやって」
「カーバンクルだ」
「宝物庫の……?」
「うん、あいつらの習性なんだ。宝石の管理は。管理下にない宝石が魔王城の中にあるのに気付いて回収したんだ。だから、俺が魔王としてそれは王妃のものだと命令すれば渡してくれた」
「そう、だったのですね……」
私は宝石を胸に抱いた。
「すまないな、俺の落ち度だ。気付くべきだった」
「いいえ。こんなに早く動いてくれてありがとうございます」
「次、何か困ったら俺に言え。いつだってどこにいたって、君の力になる」
「……はい」
私は宝石を抱き締めた。
「……それから、なんだ、カーバンクルはまさにそれを宝の持ち腐れだとも言っていた。『王妃様のものなら、それでティアラやネックレスを作っては?』だそうだ。君が嫌でなければ……そうしたら良いと俺も思う」
「そう、ですね……」
自分の身を飾り立てることなんて、人間界にいた頃は考えたこともなかった。
そんなことを私がして、誰が見てくれるというのだろう?
でも今はユリウスがいる。
ユリウスが見てくれる。
その事実が私の心を優しく撫でていくようだった。
「……何か、造ってもらおうかしら」
「仕立て部屋と相談するといい。服に合わせるのはあいつらが得意だ。実際に加工するのはノウム……はまだ会ったことないか」
「シルフに聞きました。四族? だとか」
「うん、この城内を管理してくれる大切な四種族だ」
「さっそく今日にでも仕立て部屋に行ってみます」
「うん、それがいい」
ユリウスは笑った。
「俺も急いでかき集めてきた甲斐があるというものだ」
その笑顔に心臓がひとつ、脈打った。
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