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第34話 愛しいもの
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「おはよう」
ユリウスの横で寝直して、朝が来た。
「おはようございます」
「今日もここで朝食を食べていってもよいかな?」
「はい。私はお風呂に入ってきたいと思いますが……」
「ああ、もちろんだとも」
ユリウスの手が私に伸びる。
私はその体を抱き返す。
私達は身も心も近付いている。
そう実感しつつあった。
「……あの、ええと、私、魔王の妃として、何かしておいた方がいいことはありますか?」
照れくささをごまかすように、私は自分を戒めるように、そう言っていた。
「……特にない。子供を産むこと、そして君自身が健やかであってくれればそれが一番だ。……賢者の元で文字を学ぶのもきっと君の役に立つ」
「そう、ですね。しっかり学べるといいのですが」
「俺も手伝えることは手伝うさ。お妃様は刺繍の図案をいくつも覚えているとニンフが言っていた。刺繍の図案を覚えられるのだ。文字だってきっと覚えられるさ」
「そういうものでしょうか……」
「自信を持て、王妃」
ユリウスは私の髪を撫でた。
「初めて会ったとき、君の髪はずいぶんとパサついていた。俺はそれだけで君の窮状がわかるようだった」
「お、お恥ずかしい」
「いいや、恥ずかしがることではない。そして、今ではそれがどんどんと美しくなっていく。きっと君は変わっていくだろう。変化は時に恐怖を伴う。だから……怖いときは、言ってくれ。できる限り寄り添おう」
「……ありがとう、ございます」
私はまた涙をこぼしていた。
「泣き虫だな、ミラベルは」
「涙なんて……母が死んで以来、流したことはありませんでした……。ここに来たから……きっと愛しいものが増えたから……」
「そうか、ならば、泣き虫な君も、俺の愛しい一部だ」
しばらく私は泣いていた。
その姿をユリウスは抱き締めながら見守ってくれていた。
「ん、おいしい」
「やっぱり量が少なくないか」
朝食を食べながら、向かい合う。
ユリウスは心配そうに私の朝食を見る。
「大丈夫です。ユリウスは心配しすぎです」
「……そうか、ならいいんだが……」
「……ユリウスは私に太ってほしいのですか?」
「太るというか痩せすぎだとは思っている。もう少し肉をつけてもいいだろう」
「そう、ですか……」
私は自分の体を見下ろす。
初夜にユリウスに撫でられた浮いたあばらは、徐々に肉に覆われていた。
さっき褒めてくれた髪も、ここに来てから変わっていったものがたくさんある。
文字を覚えることも、私を変えていくのだろう。
「……きっと自然に変わっていきます。そういうところも」
「それを望む」
ユリウスが静かにそう言った。
朝食を食べ終えると、ユリウスは私の部屋から去って行った。
「本日も執務でお忙しいのですか?」
「ああ」
ユリウスは事もなげにうなずいた。
「心配するな。慣れている」
「はい……」
そう言われても、私の寝室から微笑んで去って行くユリウスのことを心配せずにはいられなかった。
部屋の中、ベッドにまた腰掛ける。
自分の荷物を手に取る。
中を覗く。
刺繍箱、宝石箱、古い本。それに賢者にもらった羽根ペン、インク、巻かれた紙といった筆記用具一式。
荷物が少し増えた。そう思いながら宝石箱を取り出して、蓋を開く。
中に輝いているはずの宝石が、ひとつもなかった。
「……え?」
私は呆然とした。手が少し震えた。
ユリウスの横で寝直して、朝が来た。
「おはようございます」
「今日もここで朝食を食べていってもよいかな?」
「はい。私はお風呂に入ってきたいと思いますが……」
「ああ、もちろんだとも」
ユリウスの手が私に伸びる。
私はその体を抱き返す。
私達は身も心も近付いている。
そう実感しつつあった。
「……あの、ええと、私、魔王の妃として、何かしておいた方がいいことはありますか?」
照れくささをごまかすように、私は自分を戒めるように、そう言っていた。
「……特にない。子供を産むこと、そして君自身が健やかであってくれればそれが一番だ。……賢者の元で文字を学ぶのもきっと君の役に立つ」
「そう、ですね。しっかり学べるといいのですが」
「俺も手伝えることは手伝うさ。お妃様は刺繍の図案をいくつも覚えているとニンフが言っていた。刺繍の図案を覚えられるのだ。文字だってきっと覚えられるさ」
「そういうものでしょうか……」
「自信を持て、王妃」
ユリウスは私の髪を撫でた。
「初めて会ったとき、君の髪はずいぶんとパサついていた。俺はそれだけで君の窮状がわかるようだった」
「お、お恥ずかしい」
「いいや、恥ずかしがることではない。そして、今ではそれがどんどんと美しくなっていく。きっと君は変わっていくだろう。変化は時に恐怖を伴う。だから……怖いときは、言ってくれ。できる限り寄り添おう」
「……ありがとう、ございます」
私はまた涙をこぼしていた。
「泣き虫だな、ミラベルは」
「涙なんて……母が死んで以来、流したことはありませんでした……。ここに来たから……きっと愛しいものが増えたから……」
「そうか、ならば、泣き虫な君も、俺の愛しい一部だ」
しばらく私は泣いていた。
その姿をユリウスは抱き締めながら見守ってくれていた。
「ん、おいしい」
「やっぱり量が少なくないか」
朝食を食べながら、向かい合う。
ユリウスは心配そうに私の朝食を見る。
「大丈夫です。ユリウスは心配しすぎです」
「……そうか、ならいいんだが……」
「……ユリウスは私に太ってほしいのですか?」
「太るというか痩せすぎだとは思っている。もう少し肉をつけてもいいだろう」
「そう、ですか……」
私は自分の体を見下ろす。
初夜にユリウスに撫でられた浮いたあばらは、徐々に肉に覆われていた。
さっき褒めてくれた髪も、ここに来てから変わっていったものがたくさんある。
文字を覚えることも、私を変えていくのだろう。
「……きっと自然に変わっていきます。そういうところも」
「それを望む」
ユリウスが静かにそう言った。
朝食を食べ終えると、ユリウスは私の部屋から去って行った。
「本日も執務でお忙しいのですか?」
「ああ」
ユリウスは事もなげにうなずいた。
「心配するな。慣れている」
「はい……」
そう言われても、私の寝室から微笑んで去って行くユリウスのことを心配せずにはいられなかった。
部屋の中、ベッドにまた腰掛ける。
自分の荷物を手に取る。
中を覗く。
刺繍箱、宝石箱、古い本。それに賢者にもらった羽根ペン、インク、巻かれた紙といった筆記用具一式。
荷物が少し増えた。そう思いながら宝石箱を取り出して、蓋を開く。
中に輝いているはずの宝石が、ひとつもなかった。
「……え?」
私は呆然とした。手が少し震えた。
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