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第29話 片割れ
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気楽にとは言われたけれど、やはり夕食用にドレスを着替えさせられた。
私は一体何着のドレスを用意してもらっているのだろう。
不思議に思ってしまう。
銀細工のネックレスをつけてもらう。
これもノウムの作ったものなのだろう。
そういえば銀は魔を退けるという話を聞いたことがあったけれど、ニンフもシルフも特に不自由なく銀に触れていた。
あれは迷信だったのだろうか。
鏡の前に立つ。
「お似合いです。……でも晩餐用のドレスも素敵でしたでしょうね」
シルフが不満げにそう言うと、彼女の頭をニンフが軽く叩いた。
「もうシルフ、お妃様が望まれたことなのだから」
「……でもでも、きらびやかなドレスを見るのはこの仕事の楽しみなのだもの」
「ご、ごめんなさいね……」
私はシルフの顔をうかがう。
「ああ、お妃様が謝ることはありませんわ」
ニンフがきっぱり言った。
「もうほらシルフ、お妃様が困っておいでよ」
「はあい。申し訳ありません、お妃様」
「いえ……」
せめて肩さえ凝らなければドレスを着ることもやぶさかではないのだけれど。
だけど魔王の妃なら、堅苦しいドレスにも慣れなければいけないのかもしれない。
ユリウスは気にするなと言ってくれるだろうけど。
「さあ、向かいましょうか」
向かったのは前回の晩餐の時とは違う食堂だった。
「前回の食堂は饗応の間。陛下が客をもてなす時の食堂です。こちらは陛下が普段から食事をとられている場所です」
ニンフが囁いてくれた。
「そうなのね」
晩餐の時より二回りは小さい部屋だったが、それでも十分におおきい。
まずこの城の部屋に私の元の家より小さな部屋はないのではないだろうか。
ユリウスは今回は遅れてやって来た。
「ああ、すまない。執務が溜まっていた」
「お疲れ様です……」
私は頭を下げる。
「いつもこんなにお忙しいのですか?」
「……俺が未熟で魔王になったばかりだから仕方ないんだ。……先代の魔王は急死だったのでな」
「え……」
事故や病気、あるいは殺人……殺魔? ということだろうか?
いや、人間より遙かに長生きするらしい魔族に病死があるのだろうか。
「……魔王族は番が死ぬと弱って後を追って死ぬようにできているんだ」
「そう、だったのですか……」
つまり先代魔王は先代王妃が死んだから死んでしまったということだろうか。
ユリウスは母親と父親を続けて亡くしてしまったのか。
胸が痛む。
「ああ、じゃあ、私とあなたも……?」
「……そうなるな」
「じゃあ、私、本当に命には気を付けないといけませんね」
私が死んだらユリウスは死んでしまう。
それを知った以上、自分の命が今まで以上にもっと大切に思えた。
「……うん。まあ、実際に番となるのは、儀式をして、子供ができてからだが……それでも、それまでも気を付けてくれ」
ユリウスの言葉はどこか歯切れが悪かった。
先代魔王の死は彼に重くのしかかっているのかもしれない。
実務の上でも、心の面でも。
「……陛下もあまり無理なさらないでくださいね。ああ、賢者様から収穫はありましたか?」
「うん、あの人はすごい人だ。まさに生き字引だよ」
賢者の話になるとユリウスは嬉しそうな顔になった。
「俺が子供の頃も賢者から勉学すべてを学んだんだ。王妃、君もきっと賢者の手に導かれて多くのことを知ることができるだろう」
「そうだといいのですが……」
ユリウスの子供の頃、それはどのような子供だったのだろう。どうにも想像がつかない。
そんな会話をしながら、私達は夕食を終えた。
「では、また後で」
「はい」
私は一体何着のドレスを用意してもらっているのだろう。
不思議に思ってしまう。
銀細工のネックレスをつけてもらう。
これもノウムの作ったものなのだろう。
そういえば銀は魔を退けるという話を聞いたことがあったけれど、ニンフもシルフも特に不自由なく銀に触れていた。
あれは迷信だったのだろうか。
鏡の前に立つ。
「お似合いです。……でも晩餐用のドレスも素敵でしたでしょうね」
シルフが不満げにそう言うと、彼女の頭をニンフが軽く叩いた。
「もうシルフ、お妃様が望まれたことなのだから」
「……でもでも、きらびやかなドレスを見るのはこの仕事の楽しみなのだもの」
「ご、ごめんなさいね……」
私はシルフの顔をうかがう。
「ああ、お妃様が謝ることはありませんわ」
ニンフがきっぱり言った。
「もうほらシルフ、お妃様が困っておいでよ」
「はあい。申し訳ありません、お妃様」
「いえ……」
せめて肩さえ凝らなければドレスを着ることもやぶさかではないのだけれど。
だけど魔王の妃なら、堅苦しいドレスにも慣れなければいけないのかもしれない。
ユリウスは気にするなと言ってくれるだろうけど。
「さあ、向かいましょうか」
向かったのは前回の晩餐の時とは違う食堂だった。
「前回の食堂は饗応の間。陛下が客をもてなす時の食堂です。こちらは陛下が普段から食事をとられている場所です」
ニンフが囁いてくれた。
「そうなのね」
晩餐の時より二回りは小さい部屋だったが、それでも十分におおきい。
まずこの城の部屋に私の元の家より小さな部屋はないのではないだろうか。
ユリウスは今回は遅れてやって来た。
「ああ、すまない。執務が溜まっていた」
「お疲れ様です……」
私は頭を下げる。
「いつもこんなにお忙しいのですか?」
「……俺が未熟で魔王になったばかりだから仕方ないんだ。……先代の魔王は急死だったのでな」
「え……」
事故や病気、あるいは殺人……殺魔? ということだろうか?
いや、人間より遙かに長生きするらしい魔族に病死があるのだろうか。
「……魔王族は番が死ぬと弱って後を追って死ぬようにできているんだ」
「そう、だったのですか……」
つまり先代魔王は先代王妃が死んだから死んでしまったということだろうか。
ユリウスは母親と父親を続けて亡くしてしまったのか。
胸が痛む。
「ああ、じゃあ、私とあなたも……?」
「……そうなるな」
「じゃあ、私、本当に命には気を付けないといけませんね」
私が死んだらユリウスは死んでしまう。
それを知った以上、自分の命が今まで以上にもっと大切に思えた。
「……うん。まあ、実際に番となるのは、儀式をして、子供ができてからだが……それでも、それまでも気を付けてくれ」
ユリウスの言葉はどこか歯切れが悪かった。
先代魔王の死は彼に重くのしかかっているのかもしれない。
実務の上でも、心の面でも。
「……陛下もあまり無理なさらないでくださいね。ああ、賢者様から収穫はありましたか?」
「うん、あの人はすごい人だ。まさに生き字引だよ」
賢者の話になるとユリウスは嬉しそうな顔になった。
「俺が子供の頃も賢者から勉学すべてを学んだんだ。王妃、君もきっと賢者の手に導かれて多くのことを知ることができるだろう」
「そうだといいのですが……」
ユリウスの子供の頃、それはどのような子供だったのだろう。どうにも想像がつかない。
そんな会話をしながら、私達は夕食を終えた。
「では、また後で」
「はい」
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