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第27話 学び
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「お妃様、お名前を教えてくださいますか」
「あ、はい、ええと」
いいのだろうか?
魔界では名前を呼ばないのが礼儀だと聞いていたけれど。
「ああ、魔界では名前というのは本来周知のものなのですよ。ただ呼ばないだけで、書類上はそのまま扱うことも多いです」
賢者が私の顔を見てそう言う。
「私の名前はテオフラストゥス。長いので人間界にいた頃はテオと呼ばれていました」
「……わ、私はミラベルです」
「ありがとうございます」
賢者は机の上にロウソクを置いた。
「サラマンダー」
彼がそう囁くと、ロウソクに火が灯った。
「……魔法、ですか?」
「ええ、あなたもその内できるようになりますよ」
そう言うと賢者はさっそく手元の紙に文字を書き付けた。
「これがお妃様のお名前です」
「これが……」
流れるような文字を眺める。
正直よくわからないところが多い。
同じに見える文字もある。同じなのかもしれない。
「……あ、あの、陛下のお名前の文字を教えてもらってもよろしいかしら」
「……もちろんですとも」
賢者は微笑んだ。
「これがお妃様の、こちらが陛下のお名前です」
「…………」
ミラベルとユリウス。
そのふたつが黒い文字で並んでいる。
私はその文字をじっと見つめていた。
「では今日はそのふたつを書くのを練習しましょうか」
「あ、はい」
賢者が羽根ペンを手渡してきた。
やはり羽根は黒かった。
「これは学びを欲するあなたへ私からの贈り物です」
「ありがとうございます……」
黒い羽根が美しい羽根ペン。
どう持てばいいのか、私はそれすらわからなかった。
賢者も羽根ペンを持ってくれた。
「このように軽く握る感じでですね……」
私は賢者の見よう見まねで羽根ペンを持った。
渡された白い紙に、ペン先をつける。
じわりと黒いインクが紙に広がっていく。
慌ててお手本の自分の名前を見ながら、文字と言えるか定かじゃないそれを書いていく。
「…………」
無言で必死に羽根ペンを走らせる。
どれだけの時間が経っただろう。
両手の平に載るくらいの大きさの紙は、私とユリウスの名前でいっぱいになった。
「……ふー」
気付けば額に汗が浮かんでいた。
軽く握れと言われたはずの羽根ペンも、気付けば折れそうなくらいの力で握り締めていた。
「どれどれ」
賢者が私から紙を受け取り、うんうんと眺めた。
「どんどん上手になっていますよ、お妃様。ほら、最初の頃のこの文字、丸めなければいけないところが、カクついているでしょう。それが最後の方では綺麗な曲線になっています」
「……はい。なんだか羽根ペンで書くより刺繍した方が楽だったかも……」
「おや、刺繍をなさるのですか。でしたら今度の授業の時には文字の図案を用意しておきましょうね」
「お願いします……」
賢者は刺繍にも見識が深いらしい。
すごいと思う。
「あ、はい、ええと」
いいのだろうか?
魔界では名前を呼ばないのが礼儀だと聞いていたけれど。
「ああ、魔界では名前というのは本来周知のものなのですよ。ただ呼ばないだけで、書類上はそのまま扱うことも多いです」
賢者が私の顔を見てそう言う。
「私の名前はテオフラストゥス。長いので人間界にいた頃はテオと呼ばれていました」
「……わ、私はミラベルです」
「ありがとうございます」
賢者は机の上にロウソクを置いた。
「サラマンダー」
彼がそう囁くと、ロウソクに火が灯った。
「……魔法、ですか?」
「ええ、あなたもその内できるようになりますよ」
そう言うと賢者はさっそく手元の紙に文字を書き付けた。
「これがお妃様のお名前です」
「これが……」
流れるような文字を眺める。
正直よくわからないところが多い。
同じに見える文字もある。同じなのかもしれない。
「……あ、あの、陛下のお名前の文字を教えてもらってもよろしいかしら」
「……もちろんですとも」
賢者は微笑んだ。
「これがお妃様の、こちらが陛下のお名前です」
「…………」
ミラベルとユリウス。
そのふたつが黒い文字で並んでいる。
私はその文字をじっと見つめていた。
「では今日はそのふたつを書くのを練習しましょうか」
「あ、はい」
賢者が羽根ペンを手渡してきた。
やはり羽根は黒かった。
「これは学びを欲するあなたへ私からの贈り物です」
「ありがとうございます……」
黒い羽根が美しい羽根ペン。
どう持てばいいのか、私はそれすらわからなかった。
賢者も羽根ペンを持ってくれた。
「このように軽く握る感じでですね……」
私は賢者の見よう見まねで羽根ペンを持った。
渡された白い紙に、ペン先をつける。
じわりと黒いインクが紙に広がっていく。
慌ててお手本の自分の名前を見ながら、文字と言えるか定かじゃないそれを書いていく。
「…………」
無言で必死に羽根ペンを走らせる。
どれだけの時間が経っただろう。
両手の平に載るくらいの大きさの紙は、私とユリウスの名前でいっぱいになった。
「……ふー」
気付けば額に汗が浮かんでいた。
軽く握れと言われたはずの羽根ペンも、気付けば折れそうなくらいの力で握り締めていた。
「どれどれ」
賢者が私から紙を受け取り、うんうんと眺めた。
「どんどん上手になっていますよ、お妃様。ほら、最初の頃のこの文字、丸めなければいけないところが、カクついているでしょう。それが最後の方では綺麗な曲線になっています」
「……はい。なんだか羽根ペンで書くより刺繍した方が楽だったかも……」
「おや、刺繍をなさるのですか。でしたら今度の授業の時には文字の図案を用意しておきましょうね」
「お願いします……」
賢者は刺繍にも見識が深いらしい。
すごいと思う。
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