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第4話 魔王城
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「俺を受け入れろ、ミラベル」
その目にはやはり熱はこもっていない。
ただ事実を淡々と告げてくる。
体質、そのためだけに私はこの人と交わり、子をなす。
この人が求めているのはミラベルではなく、ミラベルの体質。
「……分かりました」
私は小さくうなずいた。
「いいのか」
彼は意外そうな顔をした。
「……今までの生活と比べれば、あなたは私を迫害しない。それだけで……十分」
「本当にずいぶんとずいぶんな環境で生きていたようだな……」
ユリウスは少し顔をしかめた。
「まあ、いい。その度胸なら魔界でも生きていけるだろう」
「それは……どういう……」
「……魔界もまた、悪鬼渦巻く伏魔殿だからだ。……君の前に立ち塞がるのは魔物だ。人を時に喰らう化け物共だ。だから、今ならまだレヴィアタンに引き返させ、適当な人里に下ろすこともできるが……」
ユリウスは揺らいだ目をしながらそう語り続けた。
「大丈夫」
私は言い切った。
「……あなたが、そこまで心配してくれるのなら、きっとそれだけで大丈夫」
「そうか」
ユリウスはまだどこか思い悩むような顔でうなずいた。
ここまでほとんど乱暴に連れてきたというのに不思議な人だ。
私に断れるタイミングなんて、ほぼ与えなかったくせに。
竜はやがてひときわ高い山へと更に飛び上がった。
まだ上があるのかと驚きながら、私は山の上へと目をこらす。
その頂きには雲がかかっている。
竜が雲に突っ込むと、水滴が顔にかかった。
雲を突き抜けると、そこには巨大な城があった。
黒い石造りの城。
いくつもの塔が立っている城。
私の濡れてしまった顔をハンカチで拭いてくれながら、ユリウスが口を開いた。
「ようこそ、ミラベル、我が王妃……ここが俺の魔王城だ」
「王妃……」
大仰で、自分にはあまりに似合わない言葉に私は思わず心もとない気分になる。
「……俺は先代の魔王が死に、魔王を継いだばかりだ。魔王としての地盤は緩い。誰かがどのような揺さぶりをかけてくるかわかったものではない。君を守る魔法処置は執り行うが、心だけは自分で守ってもらわなければならない」
「はい」
「それから魔王城では俺のことは魔王と呼び、人前ではユリウスという名を口にしないこと。魔族の中では名前を呼ぶのは不敬なこととされているからな」
「そう、なの……普段はいいの? 名前を呼んでも」
「君は人間だから、いい。人間には人間の流儀で合わせる」
「優しいのね、ユリウスさん。いいえ、魔王様」
「……いや」
レヴィアタンは魔王城の門をそのまま飛び越えた。
門番の小鬼がこちらを見上げ、敬礼しているのが見えた。
「優しさなどではない。これはただの、利己的な行動だ」
ユリウスはどこか寂しそうに顔をしかめた。
その目にはやはり熱はこもっていない。
ただ事実を淡々と告げてくる。
体質、そのためだけに私はこの人と交わり、子をなす。
この人が求めているのはミラベルではなく、ミラベルの体質。
「……分かりました」
私は小さくうなずいた。
「いいのか」
彼は意外そうな顔をした。
「……今までの生活と比べれば、あなたは私を迫害しない。それだけで……十分」
「本当にずいぶんとずいぶんな環境で生きていたようだな……」
ユリウスは少し顔をしかめた。
「まあ、いい。その度胸なら魔界でも生きていけるだろう」
「それは……どういう……」
「……魔界もまた、悪鬼渦巻く伏魔殿だからだ。……君の前に立ち塞がるのは魔物だ。人を時に喰らう化け物共だ。だから、今ならまだレヴィアタンに引き返させ、適当な人里に下ろすこともできるが……」
ユリウスは揺らいだ目をしながらそう語り続けた。
「大丈夫」
私は言い切った。
「……あなたが、そこまで心配してくれるのなら、きっとそれだけで大丈夫」
「そうか」
ユリウスはまだどこか思い悩むような顔でうなずいた。
ここまでほとんど乱暴に連れてきたというのに不思議な人だ。
私に断れるタイミングなんて、ほぼ与えなかったくせに。
竜はやがてひときわ高い山へと更に飛び上がった。
まだ上があるのかと驚きながら、私は山の上へと目をこらす。
その頂きには雲がかかっている。
竜が雲に突っ込むと、水滴が顔にかかった。
雲を突き抜けると、そこには巨大な城があった。
黒い石造りの城。
いくつもの塔が立っている城。
私の濡れてしまった顔をハンカチで拭いてくれながら、ユリウスが口を開いた。
「ようこそ、ミラベル、我が王妃……ここが俺の魔王城だ」
「王妃……」
大仰で、自分にはあまりに似合わない言葉に私は思わず心もとない気分になる。
「……俺は先代の魔王が死に、魔王を継いだばかりだ。魔王としての地盤は緩い。誰かがどのような揺さぶりをかけてくるかわかったものではない。君を守る魔法処置は執り行うが、心だけは自分で守ってもらわなければならない」
「はい」
「それから魔王城では俺のことは魔王と呼び、人前ではユリウスという名を口にしないこと。魔族の中では名前を呼ぶのは不敬なこととされているからな」
「そう、なの……普段はいいの? 名前を呼んでも」
「君は人間だから、いい。人間には人間の流儀で合わせる」
「優しいのね、ユリウスさん。いいえ、魔王様」
「……いや」
レヴィアタンは魔王城の門をそのまま飛び越えた。
門番の小鬼がこちらを見上げ、敬礼しているのが見えた。
「優しさなどではない。これはただの、利己的な行動だ」
ユリウスはどこか寂しそうに顔をしかめた。
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