上 下
1 / 8

第1話 苦しみの日々

しおりを挟む
 女は手首を縄で縛られ、腕を上げながら、ことの元凶である男の歌うような声を聞いていた。
「ああ、セシリア。麗しき女。このような責め苦に遭ってもお前はまだ美しいとは……私の予想以上だ」
 陶酔しきった声はセシリアの耳を撫でていく。
 だけど脳に入ってこない。
 もう言葉に耳を傾けるほどの根気も彼女には残っていなかった。
 男は灰色の目を細め、自分の目にかかる銀の髪をかき上げた。
「セシリア……セシリア、その美しい悲鳴を聞かせてくれ」
 男はそう言って滑車が間に挟まる縄の先を引っ張り上げた。
「…………っ」
 セシリアは声を押し殺した。
 ぐいと手首が引っ張られ、セシリアは宙に吊される。
 肩が脱臼するのではないかというほどの自重じじゅうが手首にかかる。
 しかしその重さも最初にここに来たときより確実に軽くなってしまっていた。
 すっかりやつれた哀れなセシリア。
「セシリア……声を上げてくれ……」
 男は懇願するようにセシリアを見上げた。
 セシリアは力なく首を横に振った。
 男の思惑通りになるのはいやだった。

 セシリアは伯爵令嬢である。
 ごく普通に貴族の娘として、大した事件もなくその人生を歩んできた。
 いずれ家の決めた人に嫁ぐのだろうと、そういう不確かな未来を思い描いているだけの女だった。
 しかし、それはこの侯爵子息レイナルドに出会うまでの話だった。
 親しくしている公爵令嬢の家で開かれたパーティーでたまたま出会ったレイナルドは、即座にセシリアに求婚してきた。
「きらめく金の髪、エメラルドより美しい緑の目、どんな花も恥じらう薔薇色の頬。君こそ私の理想の女性だ。結婚してくれ、セシリア」
 セシリアにはその求婚の言葉はピンと来なかった。
 幼い頃から多種多様な貴族の中で生きてきたセシリアは、自分の容姿などそこまで優れたものだとは思っていなかった。
 自分より美しい令嬢などごまんといた。その中で自分が選ばれた理由が彼女にはわからなかった。
 しかし伯爵家は諸手を挙げてセシリアをレイナルドの家へと送り込んだ。
 しがない伯爵家から侯爵家に嫁げるなど、そうそうありはしない。
 家の言うとおりに嫁ぐのだと、その覚悟の決まっていたセシリアは釈然としないものを感じながらも、レイナルドに嫁いだ。

 その先に待っている地獄を知らず、レイナルドの底にあるほの暗い闇を知らず。
 セシリアは政略結婚ながらも、愛されているのなら幸せにはなれるだろうと、そんな甘いことを考えて、この牢獄の中に、嫁いできた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

ミユはお兄ちゃん専用のオナホール

屑星とあ
恋愛
高校2年生のミユは、母親が再婚した父親の息子で、義理の兄であるアツシに恋心を抱いている。 ある日、眠れないと言ったミユに睡眠薬をくれたアツシ。だが、その夜…。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

【R18】私は官能の扉を開けてしまった

未来の小説家
恋愛
女性用風俗に初めて行った女性の物語

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

処理中です...