【完結】後宮、路傍の石物語

新月蕾

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第4章 赤く咲く花

第35話 ひとりぼっち

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 妃の位のない雪英の弔いは、後宮で行われることすら許されなかった。
 納棺までが行われた。
 凛凛はそれでもそれを見守った。
 雪英の葬儀に参列できないことはわかっていた。
 だから凛凛にとっては、それらが葬儀と同じだった。
 主人の骸を彼女は粛々と見送った。
 雪英の骸はすっかり落ちぶれた央家に引き取られることになり、それに合わせて凜凜は央家から来たすべての女官と宮女たちを央家に帰すことにした。
「凜凜……せめて私は側に……」
 古堂がそう言った。
 彼女は雪英が死んだことで、落ち込んではいられないと、むしろ元気を取り戻したようだった。凜凜にはそれが少し嬉しかった。
「いえ、いいの、古堂様、帰ってください。皆です、一人残らず、ここから央家に帰ってください。雪英様といっしょに」
「……凜凜、大丈夫?」
「どうせ、陛下が追加で人を寄越してくれますから」
「それは……そうでしょうけれど……」
「旦那様が失脚したとは言え、央家だって……雪英様を弔うくらいの余裕はあるでしょう? これだけの宮女と女官を受け入れる余裕があるかはわからないから……最後のご奉公だと思って、古堂様。あの人達が……行き着くところにいけるように」
「……凜凜、本当に、ひとりで大丈夫?」
「ひとりでは、ありませんから」
「……かしこまりました。張世婦様、すべて、仰せの通りに。おいとまいたします。これまでお世話になりました」
 古堂は凜凜ではなく、張世婦に別れを告げて、雪英の骸と共に後宮を辞した。
 古堂に凜凜はくしゃくしゃになった六花の手巾を託した。必ず雪英と同じ棺に納めると、古堂は約束して去って行った。
 長い行列が後宮を出て行く。それは多くの者から冷ややかな目で見送られた。
 華やかに後宮へ迎え入れられた央賢妃は、ただの雪英としてひっそりと後宮を去った。

 空っぽになった始水殿の中、凜凜はぼんやりと庭を眺めていた。
「……庭の枯れた花を、片付けてちょうだい」
 さっそく皇帝から派遣されてきた宮女にそう言いつけると、彼女はひとり、私室に籠もった。
 その髪に挿している少し古びた簪がしゃらりと揺れた。

 さすがに雪英が死んだばかりの始水殿に皇帝の訪れはなかった。
 凜凜はしばらく喪に服す時間を与えられた。

 そうしているうちに、腹の出がとうとう誤魔化しきれないところまで来ていた。
 凜凜は医官を通じて皇帝に懐妊を告げた。
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