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第2章 石の花

第13話 距離

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 昼過ぎに目を覚ました凜凜を待っていたのは、荷物をまとめるようにとの古堂からの言いつけだった。
 自分は玄冬殿を追い出されるのだろうかと戦々恐々としながら、おとなしく数少ない荷物をまとめた。
 そんな凜凜が連れて行かれたのは玄冬殿の中の空き部屋だった。
 使われていなかったせいで、いささか埃っぽいものの、大きな寝台と卓、椅子が二脚置かれている。
 ただの宮女に与えられるにはあまりに大きすぎる部屋だった。
「あ、あの……」
 戸惑う凜凜を古堂は部屋の中に押し込めた。
「仮に一回きりだろうと陛下の寵愛を受けたんだ、相部屋にはもう置いておけないよ」
「はあ……」
 すでにそれをもう夢の中の出来事のように思っていた凜凜の胸に、昨夜のことが湧き出てきた。
 顔は赤くなり、体中の痛みがぶり返した。
 そんな一夜の思い出を切り裂くように、凜凜の脳裏には雪英の歪んだ表情が浮かんだ。凜凜の胸は体の痛み忘れるほどに痛んだ。
「……あの、古堂様、雪英様は」
「…………あの後寝込まれた。お前が会いに行くことは許されない」
「せ、雪英様がそうおっしゃったのですか……?」
「……あの方は、何もおっしゃっていない」
 古堂の表情は複雑だった。
「おっしゃっていないけれど……察しておくれ」
 凜凜の胸は痛んだ。
「はい……」
 うつむいて、凜凜は一人の部屋に入った。
 古堂はさっさと去っていってしまった。
「…………」
 荷物を取り出し、部屋に置く。凜凜の荷物では戸棚は隙間だらけになった。
 雪英にもらった人形を、ぎゅっと握り締めてから、戸棚にしまい込んだ。

 その日から、凜凜の待遇は変わった。
 お前は何も仕事をしなくていいと言われた。
 雪英の側に侍ることもできなくなった。
 朝昼晩の食事は部屋に運ばれてきた。
 体を清めるための水もそれまでは冷水そのままだったのが、わざわざお湯にして持ってきてもらえるようになった。
 まるで一気に公主様にでもなったかのような扱いだった。
 けれども凜凜はちっとも嬉しくなかった。
 部屋からはできるだけ出るなと言われた。
 雪英に合わせる顔がないからだと、凜凜は承知していた。
 一度だけ、窓の桟の間から、雪英を見かけた。
 顔は青く、体は引きずるようで、周りの宮女に支えられるようにして歩いていた。
 その姿に凜凜は心を痛めたが、無力な彼女に何も出来ることなどなかった。
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