上 下
11 / 43
第2章 石の花

第11話 崩壊

しおりを挟む
 皇帝の宮殿央麒殿おうきでん、その最奥で凜凜と皇帝はふたりきりになった。
 と言ってもへやのすぐ外に誰かがいるのはわかっていた。
 雪英といっしょにすべて教わっている。こういうときどうしたらいいのか、凜凜には知識がちゃんとあった。
 後宮に入る宮女である以上、それは必ず教わることだった。
 しかしそれは雪英がすることなのだと、どこか他人事のように思っていたことを、凜凜はこれからするのだろうか?
 何かの間違いじゃなかろうか。
 しかし凜凜は皇帝に寝台に載せられた。
「……陛下」
「どうした」
「何かの間違いではありませんか」
 凜凜は真正直にそう問いかけた。
「声が震えているな。寒いか?」
 皇帝の返事はいささか的外れだった。
「そうではなくて……」
「間違いではないよ、凜凜」
 皇帝はきっぱりとそう言った。
「後宮の者は私のものだ。位階すら持たぬ宮女であろうとも私が望めば、私のものだ。至極当然のことだろう?」
「…………どうして、どうして私なのです」
「私に意見するような恐れ知らずを面白いと思ってな。なかなか忘れがたかった。それにお前だって、央賢妃の元を訪ねろと申したではないか」
「こういう意味ではございませんでした!」
 凜凜は悲鳴のような声を喉から絞り出した。
「わ、私を訪ねてほしいなどと、そのような大それたことは……一切……」
「同じ事であろう」
「は……?」
「央賢妃の手の者を訪ねるのと央賢妃を訪ねるのと……何が違う」
 凜凜は冗談でも言われたのかと皇帝を見上げた。
 皇帝はしれっとした顔でそう言っていた。
「な、何もかも……何もかも違います。何より……央賢妃様のお気持ちは……」
 この人を雪英はずっと待っていた。
 この人の訪れを待って、心を病んだ。
 この人が来てくれると聞いて、無邪気に喜んだ。
 それを凜凜がすべて壊した。
「自分の部下が皇帝の寵を与えられるのだ。光栄に思って利用すればよかろうに」
 皇帝は心の底からそう言っているようだった。
 凜凜には目の前の人の考えがちっとも理解できなかった。
「さあ、凜凜、そろそろ落ち着いたか?」
 皇帝の言葉に、凜凜は自分が彼を待たせていたのだとようやく気付く。
 何を待っていたのか。この先に何が待つのか。知識しかないことに凜凜はひどく怯えだした。
 そんな彼女の頭を皇帝は撫でた。
「睦言としてはいささか色気に欠ける言葉だったが……まあ、及第点としてやろう」
 皇帝の体が凜凜にのしかかってくる。
 凜凜の体はすっかり皇帝の腕の中に収まっていた。
「…………」
 急遽着させられた豪奢な長裾の胸元に、皇帝の手がかかる。
 凜凜はただぼんやりと、服が脱がされていくのを受け入れる他なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

処理中です...