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第1章 雪と石と
第8話 震える心
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玄冬殿は上を下への大騒ぎだった。古堂が出てきて、一喝するまで、宮女も女官も宦官も浮き足立っていた。
「あまりそう騒ぎ立てるのはおやめ! みっともない。陛下を静粛に迎え入れるのですよ!」
「は、はい、古堂様……」
あちこちで塊を作って何やら囁きあっていた人々は、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻った。
「……凜凜、雪英様の調子はどう? 陛下のお相手が務まりそう?」
雪英は古堂を信頼はしていたが、うるさ型の古堂が苦手で、あまり私的な空間には入れたがらなかったので、古堂はこうして凜凜に雪英の様子を尋ねることがよくあった。
凜凜は勢い込んでうなずいた。
「粥の味の薄さに文句をつけるくらいにはお元気です!」
「そう……ならいいのだけど……」
古堂はいささか曇った顔で外を見た。
雪はしんしんと降り続いていた。
雪英は豪奢な衣に身を包み、おびただしい簪を刺し、美しく顔に化粧を施した。
皇帝を迎え入れるために、馳走を用意させ、玄冬殿の隅から隅まで磨き上げさせた。
皇帝が通るだろう外の道は、宦官の手で雪が綺麗に均されていた。
「ふうー……」
雪英が椅子に腰掛け、思いきり息を吐く。
凜凜達も今日ばかりは一番いい服を着るよう命じられ、あまりに擦り切れた服しか持っていない宮女は部屋に閉じこもっているよう命じられた。
古堂が雪英の側に控えながら、雪英の顔色をうかがう。
雪英の顔は真っ白だった。
そんな雪英の顔を古堂が覗き込んだ。
「……央賢妃様、大丈夫でしすか? あまり無理はなさらぬ方が……」
「大丈夫に決まっているわ」
とげとげしい声で雪英が古堂に答えた。
「心配の必要などありません」
「……失礼しました」
古堂は彼女にしては珍しく、すぐに引き下がった。
「……凜凜!」
雪英の声が凜凜に飛んできた。
「は、はい!」
凜凜はピンと背筋を伸ばす。
「皇帝陛下はどのような方だった! 万が一にも宦官などと取り違えるなどということがあってはならないわ!」
そのようなことはまずないだろうが、雪英はひどくピリピリしていた。
「え、ええと、髪が……髪が長くていらしました。肌は白くて、目は切れ長、とても……そうとても……今まで見たことがないくらいに麗しいお方でした……」
医局で見た皇帝の姿を凜凜は正直に伝えた。
「そう……」
雪英は物憂げに外を見た。
彼女の落ち着かない気持ちが手に取るように伝わってきた。
「陛下がいらっしゃいました……!」
押し殺した先触れの声が、場に響く。
雪英と古堂が顔を合わせる。
「……お通しして」
雪英の声は喉が少し詰まっていた。
それが緊張なのか歓喜のためなのか、凜凜にもわからなかった。
「あまりそう騒ぎ立てるのはおやめ! みっともない。陛下を静粛に迎え入れるのですよ!」
「は、はい、古堂様……」
あちこちで塊を作って何やら囁きあっていた人々は、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻った。
「……凜凜、雪英様の調子はどう? 陛下のお相手が務まりそう?」
雪英は古堂を信頼はしていたが、うるさ型の古堂が苦手で、あまり私的な空間には入れたがらなかったので、古堂はこうして凜凜に雪英の様子を尋ねることがよくあった。
凜凜は勢い込んでうなずいた。
「粥の味の薄さに文句をつけるくらいにはお元気です!」
「そう……ならいいのだけど……」
古堂はいささか曇った顔で外を見た。
雪はしんしんと降り続いていた。
雪英は豪奢な衣に身を包み、おびただしい簪を刺し、美しく顔に化粧を施した。
皇帝を迎え入れるために、馳走を用意させ、玄冬殿の隅から隅まで磨き上げさせた。
皇帝が通るだろう外の道は、宦官の手で雪が綺麗に均されていた。
「ふうー……」
雪英が椅子に腰掛け、思いきり息を吐く。
凜凜達も今日ばかりは一番いい服を着るよう命じられ、あまりに擦り切れた服しか持っていない宮女は部屋に閉じこもっているよう命じられた。
古堂が雪英の側に控えながら、雪英の顔色をうかがう。
雪英の顔は真っ白だった。
そんな雪英の顔を古堂が覗き込んだ。
「……央賢妃様、大丈夫でしすか? あまり無理はなさらぬ方が……」
「大丈夫に決まっているわ」
とげとげしい声で雪英が古堂に答えた。
「心配の必要などありません」
「……失礼しました」
古堂は彼女にしては珍しく、すぐに引き下がった。
「……凜凜!」
雪英の声が凜凜に飛んできた。
「は、はい!」
凜凜はピンと背筋を伸ばす。
「皇帝陛下はどのような方だった! 万が一にも宦官などと取り違えるなどということがあってはならないわ!」
そのようなことはまずないだろうが、雪英はひどくピリピリしていた。
「え、ええと、髪が……髪が長くていらしました。肌は白くて、目は切れ長、とても……そうとても……今まで見たことがないくらいに麗しいお方でした……」
医局で見た皇帝の姿を凜凜は正直に伝えた。
「そう……」
雪英は物憂げに外を見た。
彼女の落ち着かない気持ちが手に取るように伝わってきた。
「陛下がいらっしゃいました……!」
押し殺した先触れの声が、場に響く。
雪英と古堂が顔を合わせる。
「……お通しして」
雪英の声は喉が少し詰まっていた。
それが緊張なのか歓喜のためなのか、凜凜にもわからなかった。
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