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第10話 騎士の恋
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ランドルフは自室に戻っていた。
ランドルフの自室は衛士たちの寮の一画にある個室である。
衛士の中でも隊長格が使う部屋だが、宰相直々の部下と言うことでこの部屋が与えられている。
どう考えても自分の実績にはそぐわないえこひいきの賜物であり、ランドルフは少し居心地が悪かった。
制服を脱いで新しいシャツに着替える。
眠るにはあまりに興奮しすぎていたが、体を休めるためにベッドに寝転がった。
思い出すのはベアトリクス。彼女の裸体。
三度出会い、二度も痴態を見せてしまった。
お互い様と言えばお互い様ではあるが、ランドルフの心は千々に乱れていた。
「言ってしまった……秘めておけばよいものを……」
なんの実績もない騎士が姫君に思いを寄せているなど、思い返せば思い返すほど恥ずかしさ極まる話であった。
これでランドルフが戦で武功を立てた名だたる騎士であったなら格好もついただろうが、彼はただのコネと人脈で王宮の離宮に入り込んだだけの男である。
「は、恥ずかしい……」
ベアトリクスは自分が彼女のどこに惚れたと思っただろうか。
劇的に惚れるに足ることなど二人の間にはない。
ただ事故と故意でベアトリクスの裸体を見たくらいである。
「こ、これじゃ俺、裸を見たから姫様に惚れたみたいに思われるんじゃ……!?」
最悪である。
「い、嫌だ……その誤解だけは解きたい……」
しかし正直なところランドルフは自分でもそうなのではないかと疑っていた。
ランドルフは今まで女とそういう仲になったことなどない。
彼にとってベアトリクスはあらゆる意味で初めての女なのである。
だから彼自身、ベアトリクスのどこに惚れ込んだのか分かっていないのだった。
自分はベアトリクスの何を好きになったのか?
思い出そうとしても胸に浮かぶのは彼女の柔らかな肢体ばかりである。
「うっ……」
一度精を解き放ち、静まったはずの股間がベアトリクスの裸体を思い出すことで立ち上がってくる。
この熱をベアトリクスに打ち込むことを想像する。
あの口を、胸を、下生えの内側を、ランドルフのそれが犯す姿。
ベアトリクスが乱れ泣き、そして受け入れてくれる姿。
「…………」
ちり紙を取り上げ、服を脱ぎ、ランドルフはコソコソとそれを処理した。
「誤解って呼べるのか……?」
処理を終え、冷静になって、ランドルフは自己嫌悪にさいなまれながら、ウトウトと眠りについた。
夢は見なかった。
朝、食堂に向かえば衛士たちの視線に晒された。
異分子、おじのコネを使った成り上がり者、名ばかりの騎士……。
何も口にされずともそう思われてるであろうことは想像に難くない。
居心地の悪い思いのままパンを口に運んでいると、ランドルフの前をわざわざ選んで腰掛けるものがいた。
顔を上げると、自分とそう年の変わらなそうな赤髪の衛士がそこにはいた。
「おはよ」
「お、おはよう」
挨拶を交わす。
「あんたあれだろ、噂の宰相殿の甥っ子」
「あ、ああ、ランドルフ・ヘッドリーだ」
「ランドルフ、あんた……昨夜どこ行ってた?」
ギクリと顔がこわばる。
見られていた。どこからどこまで?
ベアトリクスとの逢瀬がバレたら彼女はどうなる?
「す、少し夜の散歩に……」
「姫様のところに呼ばれていたのではなく?」
「…………」
どうやらバレているらしい。どうしたものだろうか。
こういう問いかけをされた場合にどうするべきか、ベアトリクスかそのメイドに聞いておくべきだった。
「そんな固くなるなよ、別に珍しいことじゃない……ベアトリクス姫。美しくも清廉、それでいて夜は男を食い漁る淫乱な姫様……離宮の衛士なら誰も彼も噂してる」
ランドルフの肚にはフツフツとした怒りが湧いてきた。
好き勝手にベアトリクスのことをいう男が許せなかった。
しかし、間違っているだろうか?
会ったばかりのランドルフと情を交わそうとした彼女を思い出す。
ベアトリクスは男なら誰でもよく、今夜もまた誰かを呼び立ててランドルフにしたようなことをするのかもしれない。
それを想像するとランドルフの心はそわそわと落ち着きをなくしていく。
「いいよなあ。俺もお呼ばれしたいぜ。あんないい女をタダで抱けるなんて最高だ。街の高級娼館にだってあんな美人はいない……」
目の前の男は舌なめずりをした。
この男が頭の中でベアトリクスに何をしているのか、ランドルフには手に取るように分かった。
それはランドルフが昨夜想像したことと同じであった。
目の前の男、そして自分に対する嫌悪感に食欲が失せてきた。
スープで無理矢理パンを喉に流し込み、ランドルフは立ち上がった。
「姫様はそのようなお方ではない」
どの口がそう言うのか、ランドルフの頭の片隅で囁き声がする。
その囁きを振り払いながら、彼はきっぱりと言い捨てた。
「そういう話をしたいならよそを当たってくれ」
「ふうん」
ランドルフの怒りを受け止めながら、赤髪の男は真顔で、立ち去るランドルフを見送った。
食器の載った木のトレイを厨房に返却し、ランドルフは離宮の外、衛士たちの訓練場へと向かった。
アルフレッドと約束した剣を見繕う時間にはまだ早かった。
ランドルフの自室は衛士たちの寮の一画にある個室である。
衛士の中でも隊長格が使う部屋だが、宰相直々の部下と言うことでこの部屋が与えられている。
どう考えても自分の実績にはそぐわないえこひいきの賜物であり、ランドルフは少し居心地が悪かった。
制服を脱いで新しいシャツに着替える。
眠るにはあまりに興奮しすぎていたが、体を休めるためにベッドに寝転がった。
思い出すのはベアトリクス。彼女の裸体。
三度出会い、二度も痴態を見せてしまった。
お互い様と言えばお互い様ではあるが、ランドルフの心は千々に乱れていた。
「言ってしまった……秘めておけばよいものを……」
なんの実績もない騎士が姫君に思いを寄せているなど、思い返せば思い返すほど恥ずかしさ極まる話であった。
これでランドルフが戦で武功を立てた名だたる騎士であったなら格好もついただろうが、彼はただのコネと人脈で王宮の離宮に入り込んだだけの男である。
「は、恥ずかしい……」
ベアトリクスは自分が彼女のどこに惚れたと思っただろうか。
劇的に惚れるに足ることなど二人の間にはない。
ただ事故と故意でベアトリクスの裸体を見たくらいである。
「こ、これじゃ俺、裸を見たから姫様に惚れたみたいに思われるんじゃ……!?」
最悪である。
「い、嫌だ……その誤解だけは解きたい……」
しかし正直なところランドルフは自分でもそうなのではないかと疑っていた。
ランドルフは今まで女とそういう仲になったことなどない。
彼にとってベアトリクスはあらゆる意味で初めての女なのである。
だから彼自身、ベアトリクスのどこに惚れ込んだのか分かっていないのだった。
自分はベアトリクスの何を好きになったのか?
思い出そうとしても胸に浮かぶのは彼女の柔らかな肢体ばかりである。
「うっ……」
一度精を解き放ち、静まったはずの股間がベアトリクスの裸体を思い出すことで立ち上がってくる。
この熱をベアトリクスに打ち込むことを想像する。
あの口を、胸を、下生えの内側を、ランドルフのそれが犯す姿。
ベアトリクスが乱れ泣き、そして受け入れてくれる姿。
「…………」
ちり紙を取り上げ、服を脱ぎ、ランドルフはコソコソとそれを処理した。
「誤解って呼べるのか……?」
処理を終え、冷静になって、ランドルフは自己嫌悪にさいなまれながら、ウトウトと眠りについた。
夢は見なかった。
朝、食堂に向かえば衛士たちの視線に晒された。
異分子、おじのコネを使った成り上がり者、名ばかりの騎士……。
何も口にされずともそう思われてるであろうことは想像に難くない。
居心地の悪い思いのままパンを口に運んでいると、ランドルフの前をわざわざ選んで腰掛けるものがいた。
顔を上げると、自分とそう年の変わらなそうな赤髪の衛士がそこにはいた。
「おはよ」
「お、おはよう」
挨拶を交わす。
「あんたあれだろ、噂の宰相殿の甥っ子」
「あ、ああ、ランドルフ・ヘッドリーだ」
「ランドルフ、あんた……昨夜どこ行ってた?」
ギクリと顔がこわばる。
見られていた。どこからどこまで?
ベアトリクスとの逢瀬がバレたら彼女はどうなる?
「す、少し夜の散歩に……」
「姫様のところに呼ばれていたのではなく?」
「…………」
どうやらバレているらしい。どうしたものだろうか。
こういう問いかけをされた場合にどうするべきか、ベアトリクスかそのメイドに聞いておくべきだった。
「そんな固くなるなよ、別に珍しいことじゃない……ベアトリクス姫。美しくも清廉、それでいて夜は男を食い漁る淫乱な姫様……離宮の衛士なら誰も彼も噂してる」
ランドルフの肚にはフツフツとした怒りが湧いてきた。
好き勝手にベアトリクスのことをいう男が許せなかった。
しかし、間違っているだろうか?
会ったばかりのランドルフと情を交わそうとした彼女を思い出す。
ベアトリクスは男なら誰でもよく、今夜もまた誰かを呼び立ててランドルフにしたようなことをするのかもしれない。
それを想像するとランドルフの心はそわそわと落ち着きをなくしていく。
「いいよなあ。俺もお呼ばれしたいぜ。あんないい女をタダで抱けるなんて最高だ。街の高級娼館にだってあんな美人はいない……」
目の前の男は舌なめずりをした。
この男が頭の中でベアトリクスに何をしているのか、ランドルフには手に取るように分かった。
それはランドルフが昨夜想像したことと同じであった。
目の前の男、そして自分に対する嫌悪感に食欲が失せてきた。
スープで無理矢理パンを喉に流し込み、ランドルフは立ち上がった。
「姫様はそのようなお方ではない」
どの口がそう言うのか、ランドルフの頭の片隅で囁き声がする。
その囁きを振り払いながら、彼はきっぱりと言い捨てた。
「そういう話をしたいならよそを当たってくれ」
「ふうん」
ランドルフの怒りを受け止めながら、赤髪の男は真顔で、立ち去るランドルフを見送った。
食器の載った木のトレイを厨房に返却し、ランドルフは離宮の外、衛士たちの訓練場へと向かった。
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