55 / 57
第55話 余暇
しおりを挟む
「……朝」
ぐったりと体を起こす。
今日は深海さんはまだ眠っていた。
私はその頬をつつく。起きる様子はない。
「……おはようございます」
そう呟いて、その頬にキスを落とした。
立ち上がるとどろりと白濁液が股の間から落ちていった。
ティッシュで一通り拭う。
下腹部を撫でる。ここに注がれた物のことを思う。
私は脱ぎ散らかした服を拾い上げながら、お風呂場に向かった。
お風呂から上がれば、深海さんも起きてきていた。
髪の毛がぴょんぴょん跳ねている。
「寝癖~」
「あはは、いつもなんです」
思えば深海さんより早起きするのは初めてだったか。
「お風呂先にいただきました。朝ご飯の準備しますね!」
「チャーハン、中華鍋ですよ? 持てます?」
「……食材切ります!」
「じゃあ、チャーシューをさいの目に、長ネギを斜め切りに、お願いします」
「はい!!」
気合を入れる。エプロンを取り出す。
食材を切る。ただそれだけのことにめちゃくちゃ気合を入れている自分は少し滑稽だった。それでも、がんばりたかった。
深海さんがお風呂に行っている間、私は細心の注意を払って冷蔵庫からチャーシュー、野菜室から長ネギを取り出した。
「……量は!?」
いきなり障壁にぶち当たる。
チャーシューは自家製のようだった。使いかけだ。
深海さん、あの激務の合間を縫ってチャーシューを作っているの……?
とりあえずこれならそのまま全部、使っても良さそうだ。
問題は長ネギである。一本丸々入っていたのだ。
そもそも長ネギをチャーハンに入れるかも定かではない。
確か昨夜はレタスを入れると言っていた。
付け合わせのスープにでも入れるのかもしれない。中華スープに長ネギ。しっくりくる組み合わせだ。
「というか白い部分? 青い部分?」
そこも困る。
「…………」
しばし黙考して私は長ネギ一本すべてを切ってしまうことに決めた。
吉と出るか凶と出るかは分からない。
しかしやるしかないのだ。
「お待たせしましたー」
「き、切りました!」
「ありがとうございます。あとは僕がやりますから、座っててください」
「は、はい」
深海さんの表情を探るが、正解か不正解か分からない。
仮に不正解でも深海さんは表情に出さないだろう。それは分かる。
「ちゃ、チャーシュー自家製ですか?」
「はい。母に作り方を教わってよく作ります」
「よく……」
やはりなんというか、住む世界が違う……。
深海さんが中華鍋を振るう姿はとてもたくましくて、見惚れてしまった。
「そんな見られてると料理しづらいですよ」
深海さんはそう言って苦笑したけど、お構いなしにガン見してみた。
深海さんは私の予想通り、長ネギを中華スープに入れた。
ついでに冷蔵庫から作り置きのきんぴらゴボウが出てきた。
……私の家の冷蔵庫からはパックのサラダくらいしか出てこないぞ……。
「いただきます」
「召し上がれ」
レタスチャーハンはとても美味しかった。
その日は、時折いちゃいちゃしながら、私の希望通り、刑事ドラマを見た。
デートでのチョイスとしては絶対におかしい。
深海さんだってそんな気持ちじゃなかったと思う。
しかし、私は止まらなかった。
「刑事ドラマは面白いんです!」
力説が止まらなかった。
「あはは……」
深海さんは苦笑しながら、私に付き合ってくれた。
結局『ヒラ刑事は今日も昼を食う』を見ることにした。
リクくんも出ているし、こないだデートに行った遊園地も出てくるし、深海さんも見たことあって面白かったと言っていたし、ちょうど良いかと思ったのだ。
「……由香さんのベスト刑事ドラマって『ヒラ刑事は今日も昼を食う』なんですか?」
「難しいことを訊きますね……それはトライアングルアルファの3人の中で誰が好き? と聞くようなものですよ……」
「そ、そんなに……」
深海さんはドン引きしたが、私にとってはそのレベルのことだ。覚悟して訊いてほしい。
「その話をすると……夜までかかりますよ……」
「遠慮しておきます……『刑事藤野の初恋』楽しみですね……」
深海さんは全力で話をそらした。
「はい! 深海さんは今までも担当の芸能人さんがドラマに出ることはありましたか?」
「ええ、それはもう。でも、デビューから世話してるのはトライアングルアルファの3人が初めてなので……あ、リクは再デビューですけどね」
そう言っている間に、『ヒラ刑事は今日も昼を食う』がちょうど第5話『ヒラ刑事の昼は給食!?』になった。
「あ、ほら、リクくん! リクくん出ますよ! 子役多いからどの子か覚えてないけど!」
「ええっと……あ、この子ですね、今ちらっと写った緑の服の子」
「え? どこ!?」
巻き戻しを駆使して、私達はリクくんの子役時代を見守った。
セリフもちゃんとあった。
『おじさん……美味しい?』
「おじさん! リクが畑さんにおじさんって言ってる!」
「落ち着いて! 深海さんドラマ! ドラマです! セリフです!」
深海さんはちょっと青ざめた。
まあ、リクくんなら言いかねないので深海さん的には懸念事項なのかもしれない。
「……ふう、ハラハラした」
「刑事ドラマを楽しんだというか、リクくんにハラハラしてましたね……」
深海さんにこの作品を純粋に楽しむのは難しかったようだ。
「ほら、次! 次ですよ!」
「はい……」
それからさらに一時間弱、第8話『ヒラ刑事の昼は遊園地!?』が始まった。
「あ、ほら、遊園地です! 深海さんが一人でメリーゴーランドに乗ったあの遊園地!」
「恥ずかしいことを思い出させないでください……!」
深海さんは顔を赤らめて私の肩を軽く叩いた。
「うわあ、本当に食べてる……」
ヒラ刑事の遊園地メシ食べまくりシーンに深海さんはちょっと引いた。
「深海さん、これ見てたんですよね?」
「見てましたけど……リクのことは知らないし……遊園地メシは実物をこないだ見たばかりですし……」
「なるほど」
私達はこうして13話1クールを見るのに時間を費やした。
ぐったりと体を起こす。
今日は深海さんはまだ眠っていた。
私はその頬をつつく。起きる様子はない。
「……おはようございます」
そう呟いて、その頬にキスを落とした。
立ち上がるとどろりと白濁液が股の間から落ちていった。
ティッシュで一通り拭う。
下腹部を撫でる。ここに注がれた物のことを思う。
私は脱ぎ散らかした服を拾い上げながら、お風呂場に向かった。
お風呂から上がれば、深海さんも起きてきていた。
髪の毛がぴょんぴょん跳ねている。
「寝癖~」
「あはは、いつもなんです」
思えば深海さんより早起きするのは初めてだったか。
「お風呂先にいただきました。朝ご飯の準備しますね!」
「チャーハン、中華鍋ですよ? 持てます?」
「……食材切ります!」
「じゃあ、チャーシューをさいの目に、長ネギを斜め切りに、お願いします」
「はい!!」
気合を入れる。エプロンを取り出す。
食材を切る。ただそれだけのことにめちゃくちゃ気合を入れている自分は少し滑稽だった。それでも、がんばりたかった。
深海さんがお風呂に行っている間、私は細心の注意を払って冷蔵庫からチャーシュー、野菜室から長ネギを取り出した。
「……量は!?」
いきなり障壁にぶち当たる。
チャーシューは自家製のようだった。使いかけだ。
深海さん、あの激務の合間を縫ってチャーシューを作っているの……?
とりあえずこれならそのまま全部、使っても良さそうだ。
問題は長ネギである。一本丸々入っていたのだ。
そもそも長ネギをチャーハンに入れるかも定かではない。
確か昨夜はレタスを入れると言っていた。
付け合わせのスープにでも入れるのかもしれない。中華スープに長ネギ。しっくりくる組み合わせだ。
「というか白い部分? 青い部分?」
そこも困る。
「…………」
しばし黙考して私は長ネギ一本すべてを切ってしまうことに決めた。
吉と出るか凶と出るかは分からない。
しかしやるしかないのだ。
「お待たせしましたー」
「き、切りました!」
「ありがとうございます。あとは僕がやりますから、座っててください」
「は、はい」
深海さんの表情を探るが、正解か不正解か分からない。
仮に不正解でも深海さんは表情に出さないだろう。それは分かる。
「ちゃ、チャーシュー自家製ですか?」
「はい。母に作り方を教わってよく作ります」
「よく……」
やはりなんというか、住む世界が違う……。
深海さんが中華鍋を振るう姿はとてもたくましくて、見惚れてしまった。
「そんな見られてると料理しづらいですよ」
深海さんはそう言って苦笑したけど、お構いなしにガン見してみた。
深海さんは私の予想通り、長ネギを中華スープに入れた。
ついでに冷蔵庫から作り置きのきんぴらゴボウが出てきた。
……私の家の冷蔵庫からはパックのサラダくらいしか出てこないぞ……。
「いただきます」
「召し上がれ」
レタスチャーハンはとても美味しかった。
その日は、時折いちゃいちゃしながら、私の希望通り、刑事ドラマを見た。
デートでのチョイスとしては絶対におかしい。
深海さんだってそんな気持ちじゃなかったと思う。
しかし、私は止まらなかった。
「刑事ドラマは面白いんです!」
力説が止まらなかった。
「あはは……」
深海さんは苦笑しながら、私に付き合ってくれた。
結局『ヒラ刑事は今日も昼を食う』を見ることにした。
リクくんも出ているし、こないだデートに行った遊園地も出てくるし、深海さんも見たことあって面白かったと言っていたし、ちょうど良いかと思ったのだ。
「……由香さんのベスト刑事ドラマって『ヒラ刑事は今日も昼を食う』なんですか?」
「難しいことを訊きますね……それはトライアングルアルファの3人の中で誰が好き? と聞くようなものですよ……」
「そ、そんなに……」
深海さんはドン引きしたが、私にとってはそのレベルのことだ。覚悟して訊いてほしい。
「その話をすると……夜までかかりますよ……」
「遠慮しておきます……『刑事藤野の初恋』楽しみですね……」
深海さんは全力で話をそらした。
「はい! 深海さんは今までも担当の芸能人さんがドラマに出ることはありましたか?」
「ええ、それはもう。でも、デビューから世話してるのはトライアングルアルファの3人が初めてなので……あ、リクは再デビューですけどね」
そう言っている間に、『ヒラ刑事は今日も昼を食う』がちょうど第5話『ヒラ刑事の昼は給食!?』になった。
「あ、ほら、リクくん! リクくん出ますよ! 子役多いからどの子か覚えてないけど!」
「ええっと……あ、この子ですね、今ちらっと写った緑の服の子」
「え? どこ!?」
巻き戻しを駆使して、私達はリクくんの子役時代を見守った。
セリフもちゃんとあった。
『おじさん……美味しい?』
「おじさん! リクが畑さんにおじさんって言ってる!」
「落ち着いて! 深海さんドラマ! ドラマです! セリフです!」
深海さんはちょっと青ざめた。
まあ、リクくんなら言いかねないので深海さん的には懸念事項なのかもしれない。
「……ふう、ハラハラした」
「刑事ドラマを楽しんだというか、リクくんにハラハラしてましたね……」
深海さんにこの作品を純粋に楽しむのは難しかったようだ。
「ほら、次! 次ですよ!」
「はい……」
それからさらに一時間弱、第8話『ヒラ刑事の昼は遊園地!?』が始まった。
「あ、ほら、遊園地です! 深海さんが一人でメリーゴーランドに乗ったあの遊園地!」
「恥ずかしいことを思い出させないでください……!」
深海さんは顔を赤らめて私の肩を軽く叩いた。
「うわあ、本当に食べてる……」
ヒラ刑事の遊園地メシ食べまくりシーンに深海さんはちょっと引いた。
「深海さん、これ見てたんですよね?」
「見てましたけど……リクのことは知らないし……遊園地メシは実物をこないだ見たばかりですし……」
「なるほど」
私達はこうして13話1クールを見るのに時間を費やした。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
【R18】溺愛の蝶と花──ダメになるまで甘やかして
umi
恋愛
「ずっとこうしたかった」
「こんなの初めてね」
「どうしよう、歯止めがきかない」
「待って、もう少しだけこのままで」
売れっ子官能小説家・蝶子と、高級ハプニングバーの美形ソムリエD。
騙し騙され、抜きつ挿されつ、二人の禁じられた遊びはどこへ向かうのか?
「ダメになってください。今日くらい」
ここは満月の夜にだけオープンする会員制シークレットサロン Ilinx(イリンクス)。
大人のエロス渦巻く禁断の社交場に、今夜もエクスタシーの火が灯る。
※「眩惑の蝶と花──また墓穴を掘りました?!」のスピンオフ読み切りです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる