世界でいちばん邪悪な神聖力の使い方

abang

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二一、染めて、染まった

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「イヴァン様っ!!助けてくださいっ!!!」



どちらとも取れないイヴァンの台詞に期待の眼差しで、声を高くして甘えるように縋るアイラの代わり身の凄さに驚いた様子のアランと、


ニヤリと口元を歪めてまるで悪人のような笑みを浮かべたイヴァン。




そんなイヴァンはシシーリアの方を見て「暴走?」って首を傾げた。



「終わったわね、シシーリア」


アイラは小声のつもりなのかもしれないが、ハッキリと聞こえたその言葉にアランはぞくりとした言いようのない悪寒がした。




「イヴァン、シシーは……!」

「アラン、煩い」

「けどっ」

シシーリアを庇おうとするアランを一蹴したイヴァンはアイラの方に視線だけ向けると目を細めて形の良い唇で弧を描いた。

そして、ゆっくり蕩けるような美声で彼女を呼んだ。

「アイラ」
 

「イヴァン様ぁ」

(やっとイヴァンが落ちたわ!)


その様子にアイラはやっと彼を攻略できたのだと考え、その完璧たる容姿に見惚れていると、やっと結ばれたと思うアイラの心の声を読んだかのようにイヴァンが「やっとだ」と呟いた。



「え?」

(通じ合ってるみたい!)



「やっと、ひとつ消してあげられる」

「?」
(シシーリアの事かしら)



「アイラ、シシーは暴走なんてしてないよ」

「ど、ういう事ですか?ーっ!」

締め付けが弱まってアイラがシシーリアによって地面に落とされる。


「いったい!!」

そう言いながら上目遣いでイヴァンを見上げるも返ってきたのはゾッとするほど読めない表情と、冷たい声だった。


「一体何がしたいの、誰を愛してるの?」


イヴァンが怖くなって矛先をシシーリアに変えて落とされたり締め上げられた事に対しての怒りをぶつける。勿論被害者だと主張することは忘れない。


(守ってあげたくなるからこそ、攻略対象は私に過保護になるのよね!)


「せ、聖女がこんな事してもいいのっ!?」


「生憎、クビになったの」


「ーっ」

そう言ったシシーリアの微笑みは相変わらず穢れをしらない清いものだったが、どこかその倫理が壊れているようなきもした。

まさに、あっちで口元だけ微笑ませているイヴァンが彼女にとっての今の神なのだとさえ感じるほど似ていないはずの二人は似ていた。



「貴女達のおかげでね、でも感謝もしてる」

「はァ!?」

感謝だなんてふざけているのかと苛立ち、思わず声を荒げたところで違和感を感じる。


地鳴りがして今度は紫色に光る竜のようなモノが沢山現れて周りを取り囲む、見覚えのあるその魔法はさっきみたシシーリアのものとよく似ている。



「ひぃっ!!」

「あれ?どうしたの」

「それって……!」


アイラは腰を抜かしてしまったようで立ち上がる事が出来ない。


「あ……っそれじゃ、まるでシシーリアのとっ同じ……!」


「だって僕が仕込んだんだもん」


「「!!」」

「シシーが手加減してくれて良かったね」

「イヴァン、面倒だっただけです」

「ふーん。聖女辞めたんだし、遠慮いらないのに」

「本当に相手にするのが面倒だっただけです」

「じゃ、僕が片付けてあげようか?」



アランは驚いた、シシーリアの力を確かに邪な者に利用されないように彼女を神殿がコントロールして国民を余計な危険に晒さぬようにきちんと制御されていた筈だったからだ。



「イヴァン、シシーの力は」

「王太子妃になるのに神殿は関係ないよね」


「だが、どうやって……」


「そんなの簡単だよ、シシーきて」

「はい……んっ」



イヴァンがまるでシシーリアを食すように深く深く口付けると、シシーリアの身体はみるみる神聖力を纏い輝く。


まるで解放されたと言わんばかりに強い力を放ち圧倒すると、空気をかき乱すように暴れ回るソレは、意図されたものだとすぐに分かった、


その色は忽ちイヴァンのものと混ざり合った色となり大きな竜を作った。


二人を守るように、アランやアイラを威嚇するようなその竜をシシーリアが恍惚とした表情でひと撫ですると満足げなイヴァンはアイラを冷たい目で見下ろした。



「あぁ……俺も君に礼を言うべきかな」



「い、イヴァン様は騙されて……っ」



「シシーを偽善者共から守れたこと、俺に染まってくれる姿を見られることに……騙されてなんてないよ」



「な、なんでシシーリアなのっ」


「なんで?それは不思議な質問だなぁ」


「だって、私がヒロインなのに……!」


「意味が分からないけど、君とシシーじゃ比較にもならない」


「ーっ!」


「それに、他を騙せても俺は騙せないよ。自作自演、腹黒い笑み、地より低い貞操観念はほんとに隠せているのが不自然なほどだよ」


「なッ!?」


「イヴァン、言い過ぎだよ」


「アランは甘いね、もう気付いてるでしょ?」


「あぁ……」

「?」

「な、何を!?」




「え?言っていいの?」


そう言ってシシーリアの両耳を手で塞ぐと、冷ややかな目のままクツクツと笑いながら言った。



「アイラ、君が学園中の男と寝ていること」

「イヴァン、なんていったの?」




「俺達だけじゃなかったのか!?」


「アランっ!!嘘よッ!!!」









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