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父と娘、雪溶けはいつ…
しおりを挟む「アリィ、大丈夫かい?」
「ええ…すぐに戻るわ。終わったら帰りましょう。」
「じゃ、私は観光でもしてくるわ。」
「リリス…早めに戻るんだぞ。」
「セルジオったら母親みたいね、鬱陶しいわ。」
「なっ!」
「あはは!アル、気をつけてね?」
「僕は誰かと違ってゲテモノに興味はないからね。」
「もう、すぐふざけるんだから。…いってきます。」
もう遥か昔のことのようにすら感じる、慣れた皇宮を懐かしく思いながら歩くと父の部屋にたどり着く。
よく廊下を駆けては笑いながら咎められ、父はその声を聞いて扉を開いて迎えてくれた。
「もう昔のことよ。」
豪華な扉が見えて、扉をノックしようと手を伸ばすと勢いよく扉が開いて突然抱きしめられた。
懐かしい父親の香りがして、目尻がじわりと熱くなった。
「お父様…苦しいです…」
「すまんっ、アリアンナが生きていたことに安心してな。」
「なにを…私が平気なのは分かっていたでしょう。」
「それはそうだが…、便りがなかったのでな。さぁ、座りなさい。」
アリアンナは小さくため息をついて席に座った。
「本当に…彼でいいのか?」
「ええ。彼じゃないとだめなの。」
「お前には、もっとこの国で良い嫁ぎ先を…」
「本当に可能だと思っていますか?それに…私は噂好きなこの国の貴族達とは相手が誰であっても上手く行かないと思うわ。」
「だが…….」
「でも、そのおかげでアリーチェは自ら引き起こした災難をどうにか回避する術を手に入れたでしょう?何か損がありますか?」
「そう言う事じゃない…ただお前が心配なんだ。」
「…。とにかく心配には及びません。彼らはこの国の人たちなんかよりもっと良い人達ばかりよ。」
「…そうか。その、アリアンナ…」
「お父様、私はもう帰らないわ。謝罪もこれ以上は要らない。それに…わたしもお父様に謝らなくっちゃ。」
「??」
「お母様の絵を盗んだのは私よ。お父様は怒ると思うけどイゾルテ様は思ったよりいい人じゃないわ、だからお母様が悲しむでしょ?」
「アリアンナ、イゾルテはお前を心配して….」
「本当にそう見えるならお父様も盲目ね。けれどそれが恋なのかもしれない…。だからもう私とお母様は戻らない。」
「アリアンナ!少し待てばお前の居場所を用意するつもりで…!」
「ごめんなさい。お父様はもう新しい家族を選んだじゃない。今度はしっかり信じて守ってあげてね。」
「待ってくれ、私は父としてアリアンナも愛している、」
「ちゃんと伝わっていたわ。選んだのはお父様と私、そして望んだのは家族であり国民でしょう。だからもう全部忘れましょう。」
「…っ、私は彼女の墓になんて手を合わせればいいんだ…、最愛の娘にこんな事を言わせるだなんて…。」
「大丈夫、お父様。こうなったおかげで私は身近な敵にも気付けたし、自由と幸せを手に入れたのよ。ちゃんと祝福してね!….そろそろ迎えがきたみたい、待てない人なの。」
涙を流して言葉を失った皇帝にぎゅっとハグをして、
幸せそうな笑顔で振り返ったアリアンナは、転移してきたアルカナに飛びついて「たまにはお茶に誘うよ、陛下。」と気軽なアルカナに少し笑ってから陽気に手を振って帰って行った。
幼い頃以来、見ていなかったアリアンナの無邪気な笑顔に皇帝はしばらく涙を止めることが出来なかった。
もしかすると、間違った選択をしたのかと自問し幸せなアリアンナの表情に安堵しながらも胸が苦しくなった。
「ソビエシュ…アリィは帰ったのね。」
「イゾルテ…私の選択は間違っていたのだろうか….」
「いいえ、身内だからと温情をかければ国民に示しがつきませんわ。貴方は皇帝として正しい事をしたのよ…大丈夫よ…」
そう言って抱きしめたイゾルテはソビエシュの肩越しに緩んだ口元を隠せずにニヤリと表情を歪めていた。
(そう、貴方は正解を選んだのよ。)
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