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魔界からの返事と魔境の侵入者

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今の魔王は実に喰えない人物である。


魔族の寿命は長いが、今の魔王は突然どこからか現れたの若者だと言う。




魔物や妖精の悪戯でできた怪物がそこら中蔓延り、精霊達はどこかへと姿を隠し、妖精も消えた。キラキラと輝く自然は霞み作物は不作に陥る。アリーチェはいま危機に陥っていた。



我が娘ながらアリアンナがどれ程特別な存在だったのかを実感せざるを得なかった。



(それなのに、どうして聖女では無い…そして何故聖力では無いことを隠し格下のフレアを敵視したんだ…。)



やむを得ず、魔界へと魔王宛に魔法で手紙を送り魔物討伐の手助けを求めたが来た返事は条件付きのものだった。





まず、魔族が降りてこない事を理由にアリーチェが独占していた魔境の森の返却と、アリーチェの撤退。

どの道人間にはあっても住めぬ土地、今は黒魔石もなく瘴気だけが残った荒地なのでそれに関して問題はなかった。


だが、アリアンナがまだ生きているかもしれない。



(調査を急がねば…)




もう一つは、魔王妃を娶るにあたって妃殿下はどうやら人間らしくアリーチェで別に披露宴を開くので参席の催促であった。


そして人間である妃殿下の意思を尊重し、必ず皆祝うこと。…だった。



(このような、些細な事….)



勿論、この状況で聖女が役に立たないとなれば協定中の魔王にしか頼る事が出来ないので答えは躊躇なくイエスであった。


すぐに返事を書き、御礼の言葉とともに綴って魔法で手紙をとばすと皇帝はドサリと椅子にすわって深くため息を吐いた。












「お、返事が来たね。やはり余程困っているのか簡単な条件を与えれば即座にイエスと言ったよ。」




「では、魔境はすでにアルカナ様の手中に?」




「んー、アリィの事を探しに来るかもね。」




アルカナはアリアンナを娶るつもりだが、アリアンナは人間界の生まれなので彼女がいつでも産まれた土地を懐かしめる領地が欲しかったのだ。




「ここは…誰にも侵されない、彼女だけの隠れ家だよ。」




「へ?」



「なんでもない。セルジオおそらく数日で来るだろう、お客をもてなす準備をしておいてくれる?」






「はい。準備致します。」






すると、突然大きな地鳴りがしてアリアンナの力を感じた。




アルカナはぞくりと身を震わせて、興奮した様子でうずくまる。



セルジオは思わず冷や汗をかいたが、ハッとして辺りを見渡すと先程まてま慌ただしく動いていた使用人達は皆その力の圧力に耐えられず気絶していた。





「アルカナ様以外にこのような者に出会うとは…」



「…あげないよ。」




「…早く、お鎮めになってくなさい。行きますよ。」




「おかげさまで、すっかり。」



そう言うが否やセルジオを置いて姿を先に消したアルカナを追うようにセルジオも続いた。







「……っ!!こ、これは………!!??」





セルジオが外に出ると、あまりに変わり果てたその光景に思わず驚愕した。






「くっく…美しいね。」





「あ…私にも分からなくって…、偶々迷い混んでいたこの子と遊んでいたら突然言葉を話しだしたの…それで私の力に詳しいと言うから…」




アリアンナが抱いていたのは真っ白な毛色に金色の瞳を持つ猫であった。





「余を疑うので、試しにアドバイスをしてやったまでじゃ。」




「あれ…?アンタは…くっく、…久しぶりだねぇ」





「…ほう、お主は魔王か。」





するとセルジオは何かに気づいたように声を上げる。





「…貴方は、なぜ…このような場所に…!?」





「余りにも精霊達がここに集まるのでな、何があるのかと見に来たまで。」





「えっ、この猫ちゃんと二人は知り合いだったの??」






「アリィまずは、これを説明してくれるかい?」





「ええ…、先程言った通りを少しもらって少し精神統一をして神力を整えていたら…集中しすぎてて…物音が聞こえた時にはもう周りはこうなっていたわ。」




小さい黒魔石がチラホラとキラキラ輝いていた荒地は、大きな黒魔石の渓谷
が塔の周りの荒地を囲むように出来てきた。




塔の周りにもザクザクと囲むように出ている黒魔石は美しく黒々とした艶やかな輝きを放っていた。





「あっはっはっ!!まさかこの娘が我が主の力を持つ者だとは…!今までは力が弱くて気付かなんだが…はて、アルカナ…珍しくも手解きをしたようじゃな。」






ニヤリと笑った(ように感じた)白猫を抱きしめたまま小首を傾げるアリィをチラリと見てからアルカナは少しだけ目を細めて、




「五月蝿いよ、ジジイ。」とそっぽを向いた。




「ジジイとは失敬な!わしはまだ2487歳じゃ!この美しさを見よ!」





「げ」


「アリアンナ様こちらへ…」




セルジオがエスコートするより早く、白猫は美しい男性に変わり今度は彼がアリアンナを抱きしめていた。


すると禍々しい魔力がグググと込み上げるように当たりを指すように圧迫する。



顔を青くしたセルジオは美しく虹色に光る透き通った長い髪と透き通る真っ白な肌に神々しい金色の瞳をもつ中性的な男性と、アルカナを交互に見ては落胆していた。




「また始まった…も人が悪い。アルカナ様を刺激しないで頂きたい。」






「ふん、アリアンナよ…本当に此奴で良いのか?此奴は手のつけられん奴でな…」




「エレメント、」




「まぁまぁ、アルカナよ。…孫のようなもんじゃ。」





「あの…っ、猫ちゃん??離して欲しいのだけど…」




「おお!悪いのぅ、そうそう、さっきの話じゃが…手のつけられん奴じゃが…案外いい奴でな。ワシは好きじゃ。」




「…私も!!アルがとても好きです!!」




そう言って極上の笑顔をしたアリアンナの腕を弾かれたようにとって引き寄せたアルカナがぎゅっと彼女の笑顔を自らの胸に抱きしめて閉じ込めたのをみてセルジオはほほえましげに目を細め、精霊王と呼ばれた男は笑った。




「アルっ、苦しいよっ」




「アリィ…君はほんとに、」

(愛してるよ…)





「どうしたの?アル、ねぇ怒っていない?」



「どうかな?師匠は僕だろう?…後でお仕置きしないとね。」



「な、なにそれ?」




「ごほん。アルカナ様…程々に。」



「独占欲の強い奴じゃのぅ、まぁいい、アリアンナよ。」



「?」



「もう、予想できているとおもうが私はと呼ばれておる。名はエレメント。」



「はい…アリアンナ・アリーチェです、精霊王様。」




「アリアンナの力はそこらの聖女や聖職者とは異なる。それはかつて総てを司る創造神アヌ・アンシャルの全てを受け継ぎ産まれて来た特別な子じゃ。…生まれ変わりとも言えるな。」





「…え、そんな…私、聖女でもなかったんです…。」




「聖女なんぞ、神の前にはただの人よ。遣いにすぎん、人間の中に偶に現れる我らに近い人間だ。だがアリアンナ…主は人でありなが異なる。余はこの時を待っておった…。」




アルカナは予想していたのか、特に驚く様子もなく成り行きを見ていている、セルジオはまたとてつもない者が現れたと目を大きくしていた。




「….。」

「…っ!」





「その辺の者に契約を迫られるなど論外。長かった…」




「アリアンナ、余と契約せぬか?」




「!!!!」

「くっく…」






アリアンナはなぜか流れこんでくるように解るエレメントの感情に、アリアンナは思わず涙を流す。


(こんなにも、あるじを大切に思っていたのね…。)



「精霊王様、不束者ですが…これからよろしくお願いいたします。」





「では、我の名を。わかるな?」




「エレメント・ティアマト」

「アリアンナ・アリーチェ」






「精霊王の名において古の契約にに従いその力を我に示せ。」



「古き契約に従いて精霊王の名の下にそなたを主とする。」




虹色の光が黒い魔石に反射して神秘的な空間を作る、アリアンナの小指に指輪のように紋章が浮き上がった。




「アリアンナ、我が主よ。いつでも呼ぶがよい。」



「ありがとう、エレ。」



「…その呼び方はアヌを思い出すな。」



「恋人だったの…?」



「いや、アヌに性別はない。」





「悪いけど、僕のアリアンナを独り占めしないでくれるかい?」




エレメントはアリアンナの小指にキスをすると猫の姿に戻り、塔へと先に歩いて行くのでセルジオが後を追った。






「アル…、」




「よくやったね、彼はいい精霊だよ。」




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