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イゾルテの作戦とフレアドールの初恋

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王都では嘘つきや罪人だと、噂に流されてアリアンナを軽蔑する声が上がっている中、アリーチェ国内には少なからずアリアンナを惜しむ声もあった。





美しく、皆に分け隔てなく接するアリアンナを慕う国民は多く王都から流れてきたアリアンナが聖女だと偽ったと言う大罪を否定する国民も居た。





イゾルテにとってそれらは脅威であり、ましてや実父であり皇帝であるソビエシュがアリアンナの無罪を望んでいるのだ。いつ彼がアリアンナを呼び戻すかと不安で仕方が無かった。




そのタイミングで結界の崩壊が知らされ、魔物がアリーチェへ続々侵入していた。アリアンナが聖女になってから続いてきた平和は失われつつあった。





「お母様…、治癒をしても一向に良くならないと噂が…でも、私疲労が酷くて…まだ力を目覚めさせたばかりなのに…」





「安心しなさい。アリアンナは持って7日程よ。食料も尽きて瘴気と魔界からの圧力が身体を押しつぶすわ。死んだも同然。聖女はあなたよ。」






「でも、アリアンナが結界を一人で張っていただなんて…、それにこんなに沢山の仕事をこなしていた事も、知らなかったわ。私には無理よ……」





イゾルテはギリっと音が鳴る程歯を噛み締めた。




(あの小娘、結界を外したのは腹いせってわけ!?)





自分の娘はアリアンナとは違い、人並みの魔力しか持っていない。
きっと鍛錬を積んでも伸びしろがあるとは思えないレベルであった。





(これじゃ影の身代わりが必要じゃない!!!)





かといって、今更アリアンナを連れ戻す術はない。

魔力と瘴気への耐性がある者などそうそう居ないのだ。






(いや…この国中にめぼしい者が一人だけ居る。)





ゲートを開けるのはアリアンナの他に皇帝のみ。



危険を侵して、正面から森へ入ったとてアリアンナがまだ生きている保証などなく最悪その者も失った上に無駄足になる可能性もあるのでそのような危険な賭けはできない。




森へ入れる可能性のある者とは、愛しい娘の初恋の人なのだから。





だが彼は代々伝わる勇者の血筋であるベルトラン公爵家の中でも、群を抜いて光魔法の才能がある。長男ではないものの、彼を跡取りにと推す者も居るくらいであった。





(けれど万が一、カルロを失えば、フレアも公爵家も黙っていないはず…。)






「お母様、何か方法があるの!?」





「ある…とも言えないほどの危険な賭けよ…」





「聞かせて!!」





興味津々といった様子のフレアドールやにイゾルテが説明をすると、フレアドールは泣き出してしまった。




「お母様…っ酷いわ!絶対にダメよ!カルロ様だけは奪わないで!」




フレアドールは初めてアリアンナに彼を紹介された日からずっと彼が好きだった。



アリアンナが羨ましくて、憎かった。


そしてようやく自分のものとなったカルロを絶対に手放すつもりは無いのだ。




「分かってるわ…、言ってみただけよ。」




「やっと…やっと結ばれたのよ!!彼が好きなの…!!」




それでもイゾルテは何か方法はないかと諦めきれずにいた。





「大丈夫よ、そんな事はしないわ。一つの方法として言っただけよ。」




「…ぐすっ、そうよね…お母様だって祝福してくれているものね。」




そう言って微笑んだ笑顔は人を陥れて入れた幸せの筈なのに、イゾルテ同様、不気味な程無邪気であった。





ベルトラン公爵家ではカルロが執務机に頭を抱えて肘をついていた。



(フレアの聖女としての実力は開花直後だからかと思ったが、どう考えても良くて人並み。だか確かにあれは聖力だ…)



最後に見たアリアンナの悲しげな瞳を、彼女の言葉をひとつひとつ思い出していた。



フレアドールとの仲が良くなったのは、数ヶ月前だった。


皇宮の中庭で一人泣いているフレアに声をかけたのがきっかけだった。

彼女の事はアリアンナと三人でよくお茶をしたので知っていた。




「フレアドール嬢…?」



「…カルロ様、お見苦しい所を…っ、」



「いや….どうかしたのですか?」



「…っ!カルロ様にとても言えません…、」



含みのある言い方だと思ったが、自分にだけは言えない事とは一体何事かと不安に思い、彼女を宥めて聞き出すとその内容はにわかには信じられない話であった。



影でアリアンナはフレアをメイドのように扱い、養子だからと出生を理由に虐げていると言う話であった。





「そんな事はありえない。馬鹿な事をいわないでくれ。」




そう言って立ち去った自分であったが、事あるごとにアリアンナと会った後のフレアが一人で泣いているのを見てはその話が頭をよぎった。



まさかそんな訳はないとは思っていても、フレアドールが泣いているはきまってアリアンナと会った後であった上に、


確かに彼女はアリアンナを慕う令嬢達から悪口を言われていた。




次第に彼女に声をかけるようになり、慰めては話を聞いている内に大人しくて内気な彼女の時折みせる寂しげな表情を放っておけなくなった。




そのあとからはアリアンナとは多忙で会えない日が続き、フレアドールと偶々顔を合わせる方が多くなった。



そして…学園での入学式、事件は起きた。



アリアンナが発した反応は、光魔法でも聖力でも無かったのだ。


するとフレアは震える手を握りしめながら名乗り出た、



やはり、フレアドールの話は本当だったのではないか、アリアンナには何か事情があったのか?と脳内をぐるぐる思考が巡ったがアリアンナなフレアを責めるような声にハッと我に返って、思わず彼女を庇った。




その場の誰もが、間違いなくアリアンナが聖女ではない証拠を確認したし、名乗り出たフレアを責める様子を見たはずだ。




愕然とした。

私が愛したアリアンナは、信じたアリアンナはフレアの言ったように意地の悪く、嘘つきな女だったのかと。





(だが、事件の後フレアに誘われて度々訪ねたアリアンナは堂々としていたし、何か諦めたような、悲しげでもあった)





事実、アリアンナが塔へ送られてからは彼女の仕事がどれほど多かったのかが明らかになりのはずが普通の人の半分もフレアはこなせなかった。




〔果たして本当に彼女を虐げる時間がアリアンナにあったのか?)




あんなに、儚げで大人しいフレアに同情し、彼女のような優しい女性こそ理想だと思ったはずなのに、思い出すのはアリアンナの事ばかりであった。





(アリアンナ…私はもしかしたら君をひどく傷つけて…)




「くそっ、フレア…君を信じてもよかったのか……、」





いくらアリアンナが強いといえど、魔境の森ではもう生きてはいられないだろう。





もしアリアンナが本当に偽っていた上にフレアを虐げていたのだとしても、彼女が生きているうちに、彼女の話を聞いてやるべきだったのではないかと後悔した。





「すまない、アリアンナ…」



だが、頼りなさげに笑い大丈夫だというフレアを放ってはおけなかった。



今も一人、聖女の重圧と戦うフレアを支えてやらねばとアリアンナへの考えを振り払った。




「なぜ、フレアを虐げなければならなかったんだ…、」




やはり、唯一の皇女だといわれ、聖女として生きてきたアリアンナにとってフレアは全てを奪う危険因子だったのだろうか…。



自らの中での葛藤とフレアへの不安、アリアンナをあんなにも愛していたはずなのにフレアと出会ってから感じた毎日が楽しみになるような甘い時間と、放っておけないフレアの危なっかしさ、カルロが居ないとだめな彼女を可愛いと思ってしまう自分に嫌悪しながら溺れていた。




(すまないアリアンナ…それでも私は、フレアを愛してしまったんだ。)



いつも堂々としていて美しく、時にカルロが見劣りするほどのアリアンナとは違い、




泣き虫で、大人しくカルロが居ないと一人では危なっかしいフレアドールはカルロの自尊心を満たした。




そうやって何処か矛盾と罪悪感を感じながらカルロはフレアドールの甘い罠に落ちていくのだった。
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