公爵令嬢は破棄したい!

abang

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公爵令嬢は努力する

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あの事件からというもの、やはり口外するなと言えどもあれだけの人が集まっては無理があったのだろう。学園では王太子と伯爵令嬢の密会や、セシールとの婚約破棄の噂で持ちきりであった。




けれどセシールとて馬鹿ではない。



王家の恥とならぬよう婚約者として噂を払拭するためにテオドールの側にいる時間を増やし、ふたりきりの茶会を増やし、王太子としての立場が確かとなるまでは、エミリーとの距離を置くように日々テオドールに言い聞かせたが聞こえていないのか、彼は常にエミリーの側を離れることは無かった。


出来るだけの努力はしたが増長するばかりの噂にセシールの心は冷えるばかり。


エミリーは狙い通りだと嬉々としていたが、セシールは内心穏やかでは無かった。



今も生徒会の会議室で起きていることが把握できずに驚いている。



「クロさまぁ、私差し入れに来ましたの。ぜひ召し上がってください~!」




クロヴィスとテオドールの間に無理矢理椅子を置いて甲斐甲斐しくお菓子を取り分けたり紅茶を淹れるのは生徒会では無いはずのエミリーであった。


セシールに対しての罪悪感か気まずいのか、顔を青くして笑顔のまま固まる王太子と、あからさまに機嫌が悪いクロヴィスを見てセシールは混乱していた。



(雰囲気が最悪ね……これは、どうすればいいのかしら)



「エミリー様、どなたかに呼ばれて来られたのでしょうか?ここは生徒会室ですので生徒会ではない者の立ち入りは許されておりません」



どこか違う教室をご準備しましょうか?と気遣いの言葉を続ける前に今にも泣き出しそうに涙を目に溜めてテオドールの後ろに隠れるエミリー。


「ま、まぁセシール。どうやら、ダグラスやギデオンがミリィを呼んだようなんだ。少し待ってあげてくれないか?」



「彼女は怖がりでね、学園に馴染めず僕達以外の友人は居ないようなんだよ」と悪気のない笑顔でテオドールは笑った。



いつの間に愛称で呼ぶようになったのか、

エミリーを庇うテオドールはまるでセシールでは無くエミリーの婚約者だ。



(さしずめわたくしは意地悪で傲慢な令嬢ね。きっと殿下にはそう見えているのかもしれないわね)



どうやらクロヴィスも黙っている辺り異論は無いのだろう。他のメンバーを待つことにした。


「遅くなって申し訳ありません、殿下」



水色の肩まである長髪を後ろで纏めて、銀の細いフチの眼鏡をかけた彼は外交官の父を持つ侯爵家の嫡男、ダグラス・フォン・ネピリアである。王太子の側近候補としていち早く推薦され、生徒会にも任命された。



「ダグ、エミリーは来ているのか?」



後ろから入ってきたガッチリとした黒髪で体格の良い、色の黒い男は騎士団長の子息である双子の兄ギデオン・バーナヴィアスでる。弟であるダンテのほうが剣の腕もあり聡明だとセシールの影の話では聞いている。



「まずは殿下への挨拶をしろ、ギデオン」



「あ、あぁ申し訳なかった。殿下……」



ギデオンが言い終えるより先にテオドールの返事も待たず、エミリーが嬉しそうに話し出す。


「ダグ様、ギデオン様!お待ちしておりましたの、本日はお呼び頂き嬉しいです~!」



どうやら彼等にはセシールは見えていないようで、格上であり王太子の婚約者であるセシールに遅れてきたことを詫びるどころか挨拶すらする気配はない。



テオドールもまたその状況を注意するわけでもなく、和気あいあいと話し込む皆を微笑ましげに見ている。



散々話し込み、表情をコロコロ変え飛び跳ねるエミリーはまるで平民の娘のようでセシールには無い自由さと愛嬌があった。


すると、身振りの大きいエミリーが勢い良く机に当たってしまい、カップと目の前のポッドが倒れて卓上で転がる所為で次々と勢いよく転がり落ちた。


ガラスが次々と割れて大きな音が鳴る。

飛び跳ねる破片が目に入らないよう皆咄嗟に目を閉じる。


「きゃあ!」



「セシール!」


カップとポッドが勢いよく砕け飛び跳ねた破片に悲鳴を上げたエミリーの前には彼らがいた為、破片が飛んでくることはなく無傷に見えた。


クロヴィスの叫び声にテオドールがはっとセシールを見ると、ひとり静かに驚いたように両の手で顔を覆うセシールの姿があった。




「大丈夫よクロ。ありがとう」


少し切れた手の甲を隠しながら気丈に微笑む。淡い笑顔がかえって痛々しい。


セシールにテオドールが駆け寄ろうとすると、テオドールを引き留めるエミリー。


「痛いっ……テオ様、指を切ってしまったようです」








そんなエミリーにダグラスとギデオンは「エミリー!大丈夫か、君の美しい手に」などと騒ぎ出し、テオドールは駆けつけるタイミングを逃したままいつも通りに席についたセシールを見るだけであった。


クロヴィスはただ黙ってセシールの前に傷口を塞ぐ応急箱を置いて


「今日はもう、会議はできないな」



と立ち上がった。それに続いてセシールが立ち上がる。



「では、私も下がらせ頂きます。殿下、本日は殿下との茶会に出られそうにありません。執務がございまして」



「あ、あぁ構わないよ。……送ってい」

「セシール、俺も出る所だ送っていこう。」




悩みながら小さな声で送ると言いかけたテオドールの言葉はクロヴィスにかき消され二人は教室を出て行った。



(クロ様ったら、あんなお堅い女のどこがいいの!見た目なら負けていないのに!)



気を悪くしたエミリーは悪意のある笑顔を浮かべ考えた。


(いいわ、いっそのこと利用すればいいのよ。セシールあんたを蹴落としてテオ様の隣は私が貰うわ)



「まあ!クロ様とセシール様ったらとても仲がいいのね、まるで恋人のようだったわ!」


と何も知らないような顔で言うと、常々テオドールとクロヴィス以外の二人に対して、セシールに強く当たられているのだと嘘を吹き込んでいることもあり、口々に言いたいことを言い始める。



「殿下という方がおりながら!!!」


「セシール様がそんな方だなんて!」



そんな騒ぎを横目にテオドールは気が気じゃなくなりそっと部屋を抜け出し後を追った。
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