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バランスって大切よね
しおりを挟む「聴取の時のシヴァは怖かったね」
アイズが全くそう思って居なさそうな声色で言う。
まるで行商人にでもなったかのように馬車二台で旅をしながら帰る、この帰り道はとても楽しくなりそうだなぁとグレーシスは思った。
「そうだったの?」
「……アイズ、変なことを吹き込むな」
「いや、本当だよグレーシス」
「バーナード、お前もか」
軽口を叩きながら、馬車に揺られる。
知らない景色、今から向かう初めての街。
後ろの馬車に居るはずのユスフリード達はどんな話をしているだろうか?ユスフリードは少し疲れている筈なのでもしかしたらテヌの者達だけでゆっくり休んでいるかもしれない。
(街にでたらユスと美味しいものを食べないとね)
「何考えてた?」
「シヴァ、ううん。ただユスは休み無しだから偶には女同士ゆっくり美味しい物でもって考えてたのよ」
「そうか」
柔らかく微笑んだシヴァに、アイズとバーナードは顔を見合わせる。
「何だ?」
「どうしたの、二人とも」
「いやー……別に」
(ユスを当たり前にレディ扱いできるのは凄い……強すぎるだろ、色々と)
バーナードは一度だけ見たことのある筋肉だらけの背中と、トレーニング中の野太い声を思い出してしまっていた。
「僕ならユスでも妬くね。女でも子供でも嫉妬する」
(僕以外のことずっと考えてるなんて嫌だし)
「え、アイズさん、そっち?」
「え?」
「「……」」
「ふっ……!皆変な顔……」
とうとう笑い始めたグレーシスに思わず見惚れるアイズと、照れ笑いするバーナード、そして愛おしいと顔に書いてあるシヴァ。
「グレーシスは可愛いな」
「ーっ、シヴァったら……みんなの前で」
「「ほんとに」」
急にすんと真顔になる二人に「すまんな」とまたしても表情を戻して言うシヴァが可笑しくてグレーシスはまた笑うことになった。
ユスフリードはテヌ達と一通り打ち合わせや仕事をしてから少し眠ると目を閉じた所だった。
馬車の中だとは言え、久々のただ眠るだけの休息の時間に気が緩んだのか頭の中で考えていたことがふと口から溢れる。
「あの子達ってバランスがいいのよねぇ」
「何ですか?」
「あぁ、何でも無いわよ~」
直球型、純真で裏のない強さがバーナードだとすれば、
屈折型、自らで発光して作った影を駆使するような怖さと、残酷さを持つのがアイズ。
そしてそんな二人の丁度間をとったのがシヴァなのだ。
純粋さ、全うさと、それだけじゃないちゃんと影を持つ上に立つ者独特の残酷さ。実直だが決して直球ではなくて、ちゃんと二人を理解しているし二人にも理解されている。
そしてそんな彼らから愛を一心に受けるグレーシスは、
全てを受け止める器の大きさと、ブレない強さ。
彼らに守られるだけではない強さがちゃんと備わっている。
(物理的にもあのコはなかなかだし)
うちの子達はまだ完全では無いけれど、其々が良いバランスで支え合ってるんだよねぇ~なんて考えていると、向かい側のテヌの仲間が思い出したようにぽつりと言った。
「ユスさんって、いい保護者になっていますよね」
「へ?」
「完璧に見えるけど、若さからくる危うさ?のあるあの方達を上手く見守って支えてるなぁって」
「……そう、見えるのね」
「はい、私達もそんな風に主の役に立ちたいです!」
てっきり外から見守っているような気持ちだったのに、部下に言われて初めて気付く。
そして、少し嬉しくなった。
「役に立ててるなら、嬉しいわね」
「っていうか完全に馴染んでいます」
「フフ、嬉しいじゃないの」
(アタシったら、今が楽しかったのね)
馬車が止まると、こっち側の馬車に集う四人に何事かと慌てて降りる。
「ねぇ、ユス。バーナードが失礼なこと言ってたよ」
「あ、アイズさん嘘だろっ?」
「ずっとこの調子なんだ、どうにかしてくれ」
「なによ、殿下の役目じゃないの、騒がしい子達ね」
そして馬車旅で崩れたグレーシスの身だしなみを整えてシワを伸ばしてやると、グレーシスはヒソヒソと言う。
「女同士で美味しいもの食べましょうね、ユス」
「そうね、楽しみねぇ」
まだ騒がしい三人に「早く行くわよ~」なんて声をかけて歩き出す。シヴァのエスコートを待って歩き出したグレーシスに付いて歩くアイズとバーナードのまた後ろから少し離れて見守る。
すると四人は不思議そうに振り返ってアタシを見た。
「早く、行こうユス?」
「遅いぞ。グレーシスが心配する」
「エスコート、僕グレーシスしかしないんだけど」
「俺よりマッチョな女、エスコートしないからな!」
(ふ、ほんと。もう中まで入り込んじゃったのねアタシ)
「何でもないわ~、まずバーナードをシメようかしら」
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