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ミーンレイクの教会
しおりを挟む部屋割りはアイズとバーナード、シヴァとグレーシス、ユスフリードの三部屋に分かれた。
アイズの言った通り田舎だと言われるミーンレイクだがとても景観の良い美しい部屋で、視察とはいえ旅行にでも来ているような穏やかな気分だった。
聖職者でもあるここの領主には無礼を承知の上で明日突然訪ねる事にした。
いなくなった子供達が生きていると仮定して、どう考えてもこの街に誘拐した子供達を隠して置ける場所は領主の屋敷以外には考えられないのだ。
それに一見、以前と変わらぬミーンレイクに見えるものの警備や、衛兵達の妙に高価な装備を見る限りかなりの軍事費をかけている様子が見られるし、それにかけるだけのお金があると言うということだ。
そうなれば、領主はかなり怪しくなってくるだろう。
まだ決めつけるには早いが立場のある者が犯人だとすれば証拠隠滅を防ぐために突然訪問する必要があるのだ。
「まぁ……まず今日はゆっくり休もう」
「シヴァ、そう言いながらとても近いわ」
「抱きしめて寝てもいいか?」
「……はいっ」
見つめ合って寄り添う二人の甘い雰囲気を邪魔するのは鬼の形相……とまではいかないが眉間に皺を寄せながら微笑むユスフリードで、
バルコニーの窓をノックするとどうやって開けたのか、侵入して来ながら説教をする。
「あなた達、こんな警備の甘い所で無防備になりなさんな」
「……気を抜いた訳じゃない」
「ユス、貴女に気付くのは誰でも難しいわ」
拗ねたように膨れた二人にクスクスと笑ってグレーシスの元に膝をつく。
「念の為、テヌはいつでも準備が出来ていますよ」
「ユス……皆は休めているの?」
「少数精鋭だもの、四人一組の二部隊よ交代で警備をしているわ、明日の日中は二部隊とも機能するはずよ」
「シヴァ達の護衛と合わせれば、もしもの時は充分でしょう」
「ああ、いつもすまない。隠蔽行動にはテヌ以上の者は居ない」
「うふ、モチロンよ~。グレーシスの為に私達は存在するのよ」
「もう……だからテヌにはもっと我儘でいて欲しいのよ」
「充分……安全な生活と、子供達が贅沢しながら学べる環境を貰ってるわ。今までじゃ考えられない安定した暮らしよ」
「ユスフリード、俺の妻をしっかり頼んだぞ」
「殿下、妃殿下。この光栄……テヌの歴史上一番の誉れとなりましょう」
「ユス……」
「さぁ明日は初の出張オシゴトよ~、邪魔して悪かったわね~!警備はウチとバーナードの所で強化してあるから安心して続きをなさいな~」
「「つ、続きなんてないっ!」」
「んま、仲良しな事~」
真っ赤に照れた二人は額を合わせて微笑むと先程のシヴァの言葉通り幸せそうに身を寄せ合って眠った。
けれど翌朝、訪れたミーンレイクの領主邸で見たあまりにも異様な光景に束の間の穏やかな雰囲気は消え去る事となる。
「変装してきて正解だったね」
「ああ、だがアイズ……何故グレーシスは踊り子なんだ」
身分を隠しているうえに、鼻から下を隠す薄いフェイスベールと高貴な彼女には考えられない露出の多い踊り子の装い。
相手が誰なのか知らないので仕方がないとはいえ、偉そうにグレーシスを引き留めて鼻の下を伸ばす領主を睨みつける、座長に扮したシヴァ。
「旅の曲芸団を装った方が面白いし、踊り子はバーナードの趣味」
「おい、バーナード?」
「俺じゃない!!アイズさんだよ!!」
猛獣使いに扮したバーナード、奇術師に扮したアイズ、マネージャーに扮したユスフリードは子供や若い女の子ばかりが働く邸に妙な雰囲気を感じ取っていた。
そうして、グレーシスが領主の気を引いている間にアイズの部下が邸を調査すること数十分程度。
「黒だ」という報告と「教会の地下」という報告のメモをこっそりシヴァに手渡すとグレーシスに目配せをした。
「踊りなんぞやめてうちの邸で働く方が良いでしょう、旅は女性には過酷過ぎる」
「はは……俺の妻を誑かすのはやめてもらおうか」
シヴァの声に皆は其々帽子や眼鏡、ベールを取り、バーナードがグレーシスにジャケットをかけてやる。
グレーシスが高い位置で結った髪を解く仕草に見惚れているとハッと見覚えのある顔ぶれに気付く。
いくら田舎に住んでいても、どこかで目にしたことがあるだろうこの国高貴な者達。
「で、殿下……妃殿下っ……サンスネッグ小公爵、スカンダ卿……まさか!?」
「ふふ、アタシの事も知ってるのね~?」
「ユスだってもうすっかり有名人ね」
「……っな、なんでこんな所に……先程のご無礼をお許し下さい!!」
「それよりも、教会に案内してもらおうか」
「い、今は改装ちゅうでして……っ」
「地下の改装か?」
「大人しく案内した方がいいよ、殿下は容赦ないからね」
「アイズ」
「わ、分かりました……案内致します」
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