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名誉と逆恨み、成婚と慈悲
しおりを挟む「成り代われる」なんて言葉はとても違和感のあるものだったが、確かに的を得ているようだった。
けれども、グレーシスがいなくなったからと次の婚約者が姫になるとは限らないのではないだろうか?
それでも明らかに分かる敵意と、パーティーの途中だというのに少し休むつもりで出たバルコニーでは数人の刺客に囲まれている。
「律儀にユリシーユの紋章の入った剣など使って……これでは私が居なくなっても貴方達の主は罪に問われますが……」
グレーシスが不思議そうに、小首をかしげてそう言うと血走った目をした刺客達は一瞬その愛らしさに動きをピタリと止めたが、すぐに気を取り直して「姫の為に!」と堂々と姫への大義を掲げてグレーシスに迫った。
「グレーシス!」
「バーナード!居たのね!」
「アイズさんとシヴァ殿下が会場の外で怪しい者達を捕らえた!気配が増えたから気になって開けたんだ!」
「二人も、無事なの?」
「当たり前だよ!……で、俺たちはこっちを片付けますか!」
「……折角のドレスなのに、仕方ないわね。ふふっ」
「まぁたまには見物してなよ、俺の実力を忘れたの?」
「親友が戦っているのに見物なんて、悪趣味でしょう?」
「仕方ないなぁ…….」
そう言って、腰に刺してあったグレーシスの剣を渡すと「またおれが怒られんだから、あんまりそっから動くなよ?」と言いながらもあっという間に二人は集団を拘束した。
「どうする?こんな下手な奴は初めて見たよ」
「え、ええ……とりあえずシヴァ達を待ちましょう。今人を送ったわ」
別室で待つ二人の元に、げっそりとした顔で現れた二人はとにかく不機嫌そうであった。
「折角のグレーシスの晴れの日に……」
「やってくれるよ、ユリーシユは国王ごとグルだよ……」
「お疲れ様でした……怪我はありませんか?」
「勿論だ、グレーシスは?」
「大丈夫よ、ジヴァもアイズも凄く疲れているわ……」
「俺とグレーシスの所は、マヌケな奴らで拍子抜けしたくらい」
「ええ……殆どバーナードが処理してくれたの」
「僕も、グレーシスが傍にいればもっと頑張れたのに……」
「俺のフィアンセを口説くな」
「はいはい~」
珍しく、体制を崩して気怠そうに言い合う二人の様子にバーナードとグレーシスは思わず少し笑った。
寝ずに警備や準備の段取りをしてくれていたシヴァとアイズはとても疲れているだろう、それなのにこんな事に巻き込んでしまうことが心許なかった。
「……仕方ないわね。ユス、お願いがあるの」
グレーシスががユスフリードに耳打ちすると、ユスフリードは何も読ませぬように表情を一ミリも変える事無く頷いて、直ぐにその場を立った。
それからユリーシユから送られた残りの刺客と、ニナリアが拘束されたのは僅か数分だった。
テヌは主君に仇をなすものを見逃さない。
(手荒な真似や目立つような事は避けたいのだけど…….)
先程の出来事の後、グレーシスの指示を待つようにユリーシユの者達を見つけ出し監視していたテヌの影達は、グレーシスがユスフリードに解決を早めるように伝えたのをサインに全員を拘束した。
先程とさほど変わらぬ状態で座るグレーシス達の元にユスフリードが戻ると、グレーシスは軽く目を見開いた。
「ユス、すごく早いのね」
「勿論、アタシ達が無礼者を見逃すと思って?」
「流石ね……では、シヴァにお願いが……」
「ユリーシユの国王に早馬だと?」
「たった今、ユリーシユからの刺客と主犯である姫を拘束しました」
「「「!!」」」
「グレーシス、いつの間にそんな事を……」
「ユス達が頑張ってくれたのよ」
「に、しても早いね。サンスネッグも君達には劣るよユスフリード」
「ふふふ、いい主君を持つと気合が入るのよねぇ~」
「姫は、取り敢えず丁重にお預かりしますが、あくまで容疑者としてユリシーユの王を招集して下さいそして、国王会議の議題にも上がると脅しを……」
「なるほど……ゆう通りにしよう」
「姫の処分についてはお任せします。それなりに利益をもたらす為の交渉はこちらで……」
(なんか、グレーシス格好いいな)
バーナードはいつもの柔らかいグレーシスと違う、久々に見る表情にまたどきりと胸を鳴らす。
アイズもまた、グレーシスの心を奪えなかったことを改めて惜しいと感じていた。
けれども、息ぴったりで皆に指示するシヴァとグレーシスに未来に自分達が仕える王と王妃たる影をみた気がした。
「じゃ、裏方は僕が」
「お、俺しっかりグレーシスを警護するよっ!」
「結局、力を借りてごめんなさい」
「いや。寧ろ助かった。俺もずっと付きまとわれても敵わん……早く解決しよう」
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