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過保護な王太子と側近達
しおりを挟む「ど、どうしても必要なのかしら?」
「ああ。なにがあるか分からんからな」
「そうだよグレーシス、今まで散々な事があったでしょ?」
「ば、バーナードっ。学園の卒業式の警備にこれはやりすぎだと思うわよね?」
「いや、俺もこれは殿下が妥当だと思う」
目の前でいつも通り爽やかに微笑む三人を困惑したように見つめるグレーシスは、当日の警備の手筈を整えた書類を睨みつけた。
扉の前に控えているだろうユスフリードは耳も良いので、きっとクスクスと笑っているだろうと気恥ずかしい気分でもある。
近頃はめっぽう平和な上に、本来は王太子に誓いを立てる筈だった次世代一番の騎士を王太子妃であるグレーシスに付けた上に、
彼女自身、シヴァやバーナードに引けをとらない剣の使い手だ。
何より彼女を影ながら護衛するユスフリードの部下達、もとい現当主、グレーシスの部下、テヌの者達は国内外誰もが欲しがる精鋭達だ。
王太子妃という立場もあり、勿論王宮騎士団も配置せざるを得ないが彼女の父レオナルドはフォンテーヌからも騎士団の派遣を申し出たのだ。
国王とフォンテーヌ侯爵が普段は「ゼウス」「レオ」と名前で呼び合い学生時代のように接しているのに解されたのかすっかりアイズは「シヴァ」と彼を堂々と呼ぶようになり、バーナードもプライベートでは幼い頃のように「シヴァさん」と呼ぶ。
グレーシスに対しても「グレーシス」と呼ぶ彼らは皆集まると本当の家族のように和やかでありながらも固い絆を感じる雰囲気だった。
そして、警備の事を話しておくと全員が集められたシヴァの執務室であまりにも過保護な彼らの大袈裟すぎる警備計画案に頭を抱えるグレーシスもまた、
「シヴァ」「アイズ」「バーナード」と彼を親しみを込めて呼び本当の家族のように接している。
「シヴァ……卒業パーティーにこんなにも兵を入れたら皆が萎縮してしまうわ」
「隠れていれば大丈夫だよ、シヴァ、グレーシス」
「アイズ…っ!あなたは味方をしてくれると思ったのに」
「ごめんね、僕もグレーシスが大切なんだ」
「……俺の妻を口説くな」
「正式には、卒業してからでしょ」
「シヴァさん!アイズさん!グレーシス困ってんだろ!」
「……っふふ!」
「「「??」」」
「ごめんなさい。ずっとこんな風に皆で過ごしていくのかと思ったら楽しくって……それにとても幸せで」
「「「……」」」
すっかりグレーシスのペースになってしまい、シヴァとグレーシスの身辺の警備は各少数精鋭で行うという事に決まった。
会場である学園のホール、学園内はシヴァの騎士団とフォンテーヌ家の騎士団が合流して行う事となった。
「本当にこれでいいのか?」
「多すぎるくらいですよ、ふふ」
「まぁ、グレーシスには俺がいる」
相変わらず言葉こそ少ないものの、頬を染めて愛おしいと隠す事のない熱い眼差しでグレーシスを見つめる赤い瞳にどきんと胸が高鳴る。
「……シヴァっ」
「来てくれ」
「はい……」
すっかりと二人の雰囲気が出来上がってしまったのを面白く無さそうに見るアイズと、仕方ないなぁと眉尻を下げたバーナードが「退散!」「避難!」と執務室を出て行くのを察知したかのようにユスフリードが扉を開けて待機する。
「あらあら、仲睦まじいのね。お二人はまだ仕事があるわよ~」
「ほんとキミは有能だよね」
「ユスフリード、相変わらず耳がいいなぁ!」
「僕はこれから用があるんでね」
「あら、デートかしら?」
「そんなもんだよ」
「その調子で婚約者でも作ってしまいなさいな」
「ぶっ…….アイズさんスノウ様とグレーシスの卒業祝いの贈り物選びにいくんだよ。スノウ様が言ってた」
「バーナード、お前はほんとに……」
「はぁ、アイズ卿も不憫な男ね……」
「婚約者は、もう少し先に考えるよ。今はやっぱり…….いいや」
(グレーシスだけが特別なんだ)
(届かないとしても、まだ側にいさせてよ)
「ま、僕はモテるからね。バーナードこそ気をつけないと一生独身かもね」
「ウチは兄妹多いからいいんですよ!」
「ほんとこの子がスカンダ家一番の剣士だなんて思わないわねぇ」
「失礼なっ」
「まだいたのか」
「「シヴァ」」
「あら、気を利かせたのに」
「ゆ、ユスったら!」
「俺がこんな所で妻に恥をかかせるわけないだろう」
「………っ」
顔を真っ赤にしたグレーシスが恨めしそうにユスフリードの服の裾を握ると「今晩、王妃様が皆で食事しないかって。貴女も」と伝えた。
「うふふ、勿論よ」
「それは、僕もかな?」
「俺も?」
「ああ、勿論だ。父上がフォンテーヌ侯爵と会食らしく母上がお寂しいと。都合が合えば参加してほしい」
「「「喜んで」」」
「さ、その前に皆仕事をしましょう!」
「……ああ、そうだな」
「……グレーシス、仕事の鬼」
「アタシもテヌ本家からの報告書受け取ってくるわ~」
「僕は、少し出るよ」
「ユス、アイズ、いってらっしゃい」
とても幸せそうに、大切な人達に向けるグレーシスの笑顔に思わず一瞬の時を止めてしまう四人ははっと我に返ると、とても幸せそうに
「「いってきます、グレーシス」」
「さ、行こうかグレーシス」
「今日も、お供しますよ主」
と、微笑んた。
(少しずつ、形が変わってもずっとずっと皆でこの国を支えていくのよね)
(ずっと皆が幸せでありますように)
歩き出すアイズとユスフリードの背中と、シヴァの横顔、斜め後ろに感じる暖かいバーナードの気配を感じながらグレーシスがは王太子妃として、家族としてきっと守り抜ける人になろうと心の中で誓った。
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