婚約者が浮気を公認しろと要求されたら、突然モテ期がやってきました。

abang

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さようなら、麗しのキミ

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「シヴァお兄様……っ私は、」



俯いているグレーシスが顔をあげてしっかりとシヴァの瞳を捉える。


決心したようにまっすぐと見つめるその視線と、染めた頬、潤んだ瞳がもうグレーシスの答えを代弁しているが、それでもシヴァは彼女の言葉を待った。



「私は……、私もっ……シヴァを愛しています。貴方だけを、ずっと、ずっと。なのに気が付かなくて御免なさい。自分の気持ちに気付くのが遅くなってしまいました」


顔面蒼白のまま絶望するニナリアは、勢いよく立って飛び出て行ったが、入れ違いで来た教師までもが状況を把握すると子女達に混じって歓喜の拍手を贈った。





「妻に……は、まだ早いが俺と婚約してほしい。改めて手順は追う」


「はい……。シヴァ、思い返してみれば私、ずっと貴方に恋してたのね。失いかけて気付くだなんて……」


手を取り合った二人を囲み囃し立てる輪の内側に、グレーシスとシヴァに付き添うように立つアイズとバーナードは切なそうに、けれど心底安心したように二人を見つめて微笑んだ。


「あーぁ、やっぱりシヴァには敵わないね」


「俺は……ずっと傍にいられればいいから」


「……忘れてあげられないかも」


「それでもいいんじゃないですか?それでもやっぱり二人とも好きだからさ」


「ははっそうだね、さぁ人避けして避難させるよバーナード」


「……あ!」



「アイズ、バーナード!逃げるぞ」


歓声はエスカレートし、授業そっちのけで集まってくる子女達にもみくちゃにされる二人を助けようとすると、グレーシスの手を引いて人の輪から走り出て来たシヴァが二人に声をかけた。



何故か、アイズは嬉しく感じた。


(グレーシスを忘れられないのも、彼女を欲するのも本気なんだけど、ちょっと僕の中でシヴァを取られて寂しい気持ちもあったのかな)



それは、バーナードも同じだったようで。貴族らしない快活な笑みではっきりと「はい!」と返事した。



ちゃっかりとグレーシスの斜め後ろを守るように走るバーナードを見てふと、自分達の将来の姿が浮かんだ。


(シヴァの傍に僕、グレーシスの隣にバーナードが控えている感じかな?)



「変わり映えないね」






走り去るニナリアとぶつかったのはとある伯爵家の次男ニックだった。


「ニナリア姫!どうなさったのですか!?」


「……っ!放っておいて下さい!」


「放っておけませんっ……貴女をずっと前から見ていました!」


「……」

(使えるかしら)


目の前で黙り込むニナリアはか弱そうな華奢な肩を震わせて涙を流す。


身分違いの恋、彼女と結ばれようなどとは思っては居ない。


けれど、何か助けになりたいと思った。

友達としてでもいい、僕の名前を呼んで欲しい。

どんな形でも傍にいたい。

そんな僕の願いは残酷にも叶わずに消えようとしていた。




「私……シヴァ様と上手くいかなければ国へ帰らないといけなくなるのっ」



「そんな……」


「きっと失敗したと国でも冷遇されるわ」


好きな人の悲しむ顔なんて見たくないものだろう。その言葉は無意識に口から出ていた。


「何か、私に出来る事はあるでしょうか?」



「そんなっ……あなたは……」


「ニックです。貴女の事を友人として助けになりたい」



「……彼女が、シヴァ様と結婚出来なくなればいいのだけれど」


「えっ!?」


「いいえっ……友達の貴方にそんな事をお願いできません」



友達と言う言葉を紡ぐニナリア姫の声が心に響く、



「私だったら、外見も純潔も傷モノになってしまったら耐えられないと思うの…‥.考えるだけでも恐ろしいわ、私どうかしてる!やっぱり……」




「私に……任せてください」

全身が震えた。

けれど、嬉しそうに涙ぐみながら胸に飛び込んできたニナリア姫を前にもう、後戻りは出来ないと思った。










「グレーシス様っ……あの、」





「どうなさったのですか……?」




「無礼を承知でお声をおかけしました、ニック・ベンダーと申します」



初めは些細な相談から、次の日には家門の仕事についての相談、学園や家で冷遇されていると言い同情をかう。


良心が痛むほどに良いお方だが、彼女は強いお方だ。

(ニナリア姫は、僕が守らないと…….)



対人恐怖症だと、可哀想で弱い者を装いテヌや公爵子息達と引き離して呼び出した人気のない場所。


彼女は自らの腕にも自信がある筈なので、それ程警戒もしていないだろう

ポケットから取り出したナイフを振り向いたグレーシスに突きつけたニックは「動かないで下さい、少し額を切るだけです」と言った。


弱者に弱い彼女は、可哀想なニックへの対応を決めかねている様子であった。


「ニック。何故、貴方がそのような事を?」



「……こうするしか、ないんです」



「ニック、あなた……」

目の据わったニックを見て困惑したように一歩下がったグレーシスを追うように一歩前に進んだ時、




「グレーシス!!!!」



余程、急いだのか汗だくになったシヴァが勢いよく扉を開いて入って来た。



取り押さえられたニックは、焦りと憎しみの篭った瞳でグレーシスを見て、叫んだ。



「貴女が居るから…….ニナリア姫はっ!!」



その悲痛な叫びを聞いて、目を見開いたシヴァ。


悲しそうにしたグレーシスは「ごめんなさい、ユスにおおよその居場所を言っておいて良かったわ」と言っただけだった。




「ニック、お前がこのような事をしても何も変わらない」



「そんな筈はない!」


「どんな姿でも、俺はグレーシスが好きだ。それに、彼女を傷つけるニナリアを愛せるとおもうのか?」




「別に、私が勝手に……っ!」



「ニナリア姫が侍女と話しているのを聞いた」




使を見つけたと」




「そんな……っ、そんな筈は……」




崩れ落ちたニックは追ってきたアイズとバーナードに寄って拘束され、一連の騒動はひっそりと未遂に終わった。


「出遅れちゃったね、バーナード」


「ああ、でも無事で良かったです」





グレーシスを抱きしめたシヴァが頼りなく、



「危険なことはしないてほしい……」



と言うのを聞いて二人はまた微笑ましげに笑った。



(ねぇ、君は……たまには自分の為に戦っていいんだよ)






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