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気持ちなんて、考えたって…

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彼らの処罰に胸を痛めている筈のグレーシスは、あれ以来それを感じさせぬように振る舞っていた。




アイズは、高位貴族の中でも更に王族との距離感の近い家門の跡取りとして育てられたし、そのような貴族らしい振る舞いは当たり前だと教育されてきた。

サンスネッグ家の仕事は綺麗な事ばかりじゃない上に、表立ては健全な公子で居なければならない。

時に危険を伴うし、足元を掬われないようにするには完璧な貴族としての振る舞いが必要とされるのだ。


次期サンスネッグ公爵であるアイズは特に、今までのどのサンスネッグ公爵より、自らの父よりも、だと言われている。


だから、グレーシスの心の痛みもこのような状態であっては上に立つ者ならば当たり前に、通る道だと考えるべきなのだか、何故か完璧な振る舞いで淡々と事後処理に追われるグレーシスを見ていると胸が痛くなるのだ。

(どうやらと両親は喜んでいるが、僕はそれどころじゃ無い)



高位貴族として、先輩として、力になれることはないのかと思案するがアイズの頭の中はどうしたらグレーシスが笑顔になるのか?ばかりを考えてしまい安っぽい慰めや、愛の言葉ばかりが浮かんで、自己嫌悪に陥っていた。



(一体、僕はどうしたんだ)


宣言どおり、親友としてグレーシスを支えるバーナードは鈍感なグレーシス以外にはバレバレな程にと溢れ出ているのだが、それでもまるで彼女の騎士かのように彼女を見守るその姿は真っ直ぐで美しいとすら感じた。


シヴァに至ってはもう隠す事も、取り繕う事もなくグレーシスへの愛を惜しむ事なく溢れさせ、自らにできるあらゆる手法で彼女を守る姿勢を見せており、それは貴族達だけではなく国民達ですらも知る、周知の事実となているのだ。



巷では僕たちの誰が、グレーシスの心を手に入れるのかと賭け事にさえなっていると失礼極まりない噂もある程だ。


近寄り難いシヴァや、男らしく不器用なバーナードと違って女性からの人気のあるアイズだがグレーシスの事に関しては器用になれずに頭を抱えた。



「アイズ様?」


「あ…」


「メルリアさんの供述はこれで全てまとまりましたか?間違いがないか確認してほしいのだけれど…、」


「うん。………これで提出して大丈夫だよ。お疲れ様。」


考え耽っていると突然、間近に覗き込んだグレーシスに多少の動揺をしながらも平静を装って微笑むと、グレーシスもまた穏やかに微笑んだ。


「アイズ様…、本当にありがとうございます…」


「僕は僕にできる事をしただけだよ。」


「それでも、本当に感謝しています。貴方だって楽しんでしている訳ではないと理解しています。お手を汚させてしまって申し訳ありませんでした。」


メルリアの供述を引き出す為の作戦はシヴァとアイズで企てたものであり、グレーシスには事後報告だったにも関わらず、彼女は自らの為に行動を起こしてくれた二人に感謝し、申し訳なく思っていた。


「私が不甲斐ないばかりに……」

「グレーシス、あれは僕とシヴァの考えた事だ。君は知らなかったのだし…僕の家ではこのくらいの仕事は大した仕事じゃない」


「いいえ、とても感謝しています。けれど…私の為に身を削るのはこれで最後にして下さい。私は大切な人の心を大事にしたいです……」



(その大切には特別という意味が含まれていればいいのに、僕だけが君の大切ならいいのに)



アイズは思わずそのように考えてから、はっと我に返って赤面する。


きっとこのように恋焦がれられることはあっても、

どこかで馬鹿げていると冷静に他人事のように感じていた。

けれど、グレーシスを目の前にするとまるで自分の方が恋焦がれる令嬢達のようで急に恥ずかしくなったのだ。


「ーっ僕はそんな事で傷つかない。グレーシスはサンスネッグを…僕を、穢れていると思うの?」


「いいえ。思いません。少なくても私達は皆それぞれの役割を全うし誠実に王に仕えています。それを穢れというのなら……私も同じですから。」


「…同じなんかじゃないよ、グレーシスは美しい……誰よりもずっと」


「……! アイズ様っ……」

向かい側に座るグレーシスの指先を絡めとるように優しく握ると、彼女は鎖骨のあたりまで真っ赤にして、オロオロと視線を彷徨わせ弱々しく身を引くように抵抗したがアイズの滑るような、撫でるような優しい指先はグレーシスを解放しなかった。



「考えてたってしょうがないみたい。」


「ど、どういう意味ですか?」



「好きだと気付いてしまえばもう、目を逸らせないよ」


「え……?」

(まさか、違うわ。今までそんな素振りは無かったもの。私ったら、自意識過剰なのかしら……)



「ふっ」

(ああ、認めてしまえばストンと落ちたよ)


「僕は、欲しいんだ。諦めたり、遠慮なんてできない。」


まるで、何かに納得したかよようにアイズがぽつりと言葉を紡ぐと、グレーシスはどこか不安げに首を傾げた。



「アイズ様…、何のお話でしょうか?」


「ああ、ごめんね。気にしないで」


「??」



「ただ、もう遠慮しないって事だよ」



「えっと……」



グレーシスはなぜかドキドキと胸が鳴り、緊張した。


まるで、アイズが自らの事を好きだと言っているように聞こえ、落ち着かない。



「愛なんて、考えたって答えは見つからない筈だよだってもう、こんなに複雑な気持ちなんだ。けど、不思議と悪い気はしない。」



そう言ってグレーシスの手の甲にゆっくりと口付けたアイズに、ボンッと茹で上がるように真っ赤になったグレーシスは急いで、解放された手を引っ込めると顔を覆ってしまった。


いつも、冗談めいた素振りであるのに今日はどこか素の彼のような感じがして、うまく受け流せなかった。


クスクスと笑うアイズをちらりと指の間から覗き見て、


「あ、あんまり揶揄わないで下さい……」


と言うのが精一杯だった。



(本気なんだって伝えたら、君は僕を選んでくれる?)






















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