婚約者が浮気を公認しろと要求されたら、突然モテ期がやってきました。

abang

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ローズモンド公爵とフォンテーヌ侯爵

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王宮で国王によって呼び出されたグレーシスを含む五名は向かい合ってテーブルを囲んで居た。


未だお茶に手をつけた者はおらず、神妙な面持ちで向かい合ったローズモンド家の当主ミカエルと息子ミハイル、フォンテーヌ家の当主レオナルドとその娘グレーシス、そしてユスフリードが並んでいた。


上座に座る国王は人の良さそうな笑みで


「まずは雑談から…なんてのは無理だろう。早速本題に入ろう。」と言った。




挙動不審なミハイルに反して落ち着いた様子のグレーシス。


ミカエルとレオナルドは流石に落ち着いた様子であった。



ミカエルは怪訝そうな表情で、「その方は…?」とユスフリードに視線をやると少し考え込むような素振りを見せた。


「ああ…こちらはユスフリードと言ってフォンテーヌ家の一員です。今はまだファミリーネームは伏せておきましょう。」


そう言ったレオナルドを探るように目を細めたが、国王が頷いたのを確認すると誰もそれ以上は触れなかった。



「陛下…本日呼ばれた理由は何で御座いましょう。」


「ミカエル…もう分かっていると思うが今国中がグレーシスとミカエルの破談の噂に翻弄され、混乱している。」




「…存じております。当主として不甲斐なく感じておりますが、息子からは誤解による行き違いがあったと伺っています。よって、二人の気持ちが修復されるまでは静観するつもりです。」




「失礼ですが公爵…、事実とは少し異なるようです。グレーシス…」



「発言をお許し下さい、陛下。」


「ああ、皆この場で発言の許可はいらん。」



「まず、皆さまがご存知の通り私とミハイル様の婚約な事実上破綻しております。ミハイル様には少し前に別れを告げられており、その際に恋人を紹介されておりますので。」



「グレーシスっ、それはあった筈だろう!結婚は君とすると僕は約束した筈だ!」



「ミハイル、」



「いくら公爵家といえど、そんな話が通用するとでも?フォンテーヌ家も相当侮られているようですね。」



レオナルドが目を細めて、怒りを露わにするとミカエルはわざとらしく眉尻を下げて愛想のいい表情を浮かべる。



「そんなつもりは有りません、愚息の言葉足らずで些か、御令嬢は誤解をしているようです。」



「誤解とは?」



「ボーデン家の令嬢と愚息はだと伺っております。噂に関しては証拠のない根も葉もないものですし…貴族である以上それはよくある事でしょう?」




「公爵閣下、私は目の前で仲睦まじい様子を目撃した上に、別れを告げられています。些か無理があるのでは?」



「グレーシス!父上に何て口を聞くんだ!君はまだ僕の婚約者だろう。」




「…!!」

怒りで思わず立ち上がりかけたレオナルドとユスフリードを止めたのは意外にも国王であった。



「私も、無理があると思うが?」



「…陛下、」



「では、証拠があれば正式な破談に応じると?」



(ある筈が無い、記録装置は高位貴族でも滅多に手に入らない代物。しかも殆どがどちらかの敷地内での逢瀬だと聞いた。)


「ええ…そうですねその場合は私も愚息に然るべき責任を取らせるつもりです。」



「父上!僕は決してグレーシスを裏切った事はありません…!いつもグレーシスだけを愛しています!陛下……!?!?」


突然目の前に現れた記録装置にミハイルは思わず言葉を失う。



メルリアや他の令嬢との情事や、逢瀬の様子が次々と映され目に見えるほど顔面蒼白になったミカエルはミハイルを睨んだ。


国王とレオナルドの表情は読めなかったがユスフリードの表情は満足そうにグレーシスに向けられており、ほっとした様子のグレーシスはこんなものは見慣れていると言うように落ち着いた様子で映像を眺めていた。




「こんなものはごく一部です…婚約してから一度も裏切らなかった日などありません、デートの約束の時間を守った事も…。」




「陛下、これは直々に裏どりした確かな証拠です…、これだけ伝えれば充分信用に値しますか?」



「き、君は一体何者だ!」



「あら…ご紹介してもいいのかしら?」



「…もう既に皆集まっておる。後で正式な破談とお主の事を公表するつもりだ。どの道知ることになる、いいだろう。」



「そ、じゃあ遠慮なく。…私はユスフリード・テヌ」


「!?」

「!?」


「…。」


「…。」


「間違わないで下さい。ユスの事はレディと…。」


「ええそうよ。グレーシスの言う通り。そして私はテヌの当主でもある。だからその情報は他の誰の証言よりも信用できる筈よ。」


ミカエル、ミハイルはもう何も言葉が出なかった。




「なぜ…テヌが…、フォンテーヌに?」




「物分かりが悪いわねぇ、テヌはよ。とっくの昔にね、だから今日はテヌについての全ての争いを終わらせに来たの。」





「はい。テヌの主君として、迫害に終止符を打ちます。私にとって今日のほ本来の目的はそちらですので。」





グレーシスの強い瞳がミハイルを、そしてミカエルを射抜いた。




ミカエルはぞくりの身震いがした。



(せめて後十年若ければ…なんて馬鹿げているな。)


ああ、いくらミカエルでももう勝ち目はないのだとこの凛々しく美しい女性に愚息では勿体ないのだと感じざるを得なかった。





(僕のグレーシス、君が遠いよ。)


(潮時だな、)





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