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婚約解消は簡単に、
しおりを挟む王宮からの使者の話は至ってシンプルであった。
話し合いにも、破談にも応じないローズモンドを王宮ならば召喚できる事と、なのでフォンテーヌさえ望めば王宮から手を貸そうという話であった。
ローズモンド家はどう見てもミハイルがグレーシスの心を手に入れる為の時間稼ぎをしているだけに過ぎなかったが、
どう見ても、グレーシスの心がミハイルに傾く訳が無いとローズモンドを含め全ての家門が確信していた。
簡単に言うと、騒ぎが長引くことは王宮も、各家門も望んでいない為に進展させる手助けを王宮が買って出ると言う話であった。
「それと…テヌについてですが…」
「!?」
「…。」
「…。」
バーナードはチラリとユスフリードを見たが、流石テヌの頭というところか動じる素振りもない様子に何故か安堵する。
そしてそれは意外にもグレーシスも同じであった。
落ち着いた様子、どちらかと言うと瞳の据わった表情で「テヌがどうかしましたか?」と尋ねる様子は初めて見るグレーシスの表情で、思わずそんな強い姿にすら見惚れてしまう。
貴族達がテヌを手に入れる為に、一族の子供を人質に取ったり、
見つけたテヌや、テヌらしきものをコレクションとして高値で売買している事はバーナードでも知っていた。
ユスフリードからは何も感じ取れ無かったが、グレーシスからは怒りと警戒が感じ取れた。
「テヌを探す、貴族達のその手法には王宮も心を痛めております。国王陛下が…グレーシス様にしか解決できないと…、」
使者自身、意味がわからないと言うように表情をオロオロとさせグレーシスと、バーナードを交互に見ては縋るような瞳で続けた。
「へ、陛下から言伝を預かっております。」
「…分かりました。お伺いいたします。」
(本当に、当主様ではなくグレーシス様でいいのか…?)
テヌの問題は慎重な問題である為に不安げに悩む使者の様子を見てユスフリードが声をかける。
「間違ってないわ、この子で合ってるのよ。」
「!」
「….ユス。使者様、話して下さい。」
「……はい。」
ユスフリードを片手で制して、続きを促したグレーシスに使者は国王からの言伝をした。
「一言一句間違えず伝えるようにと、それ以外は何も伺ってはおりません。」
「グレーシス、テヌに覚悟を決めよと伝え、全て公表せよ。そなたらに降りかかる脅威は王宮が振り払おう。」
「!!!」
「…それだけか?」
「はい。」
「バーナード、」
「ああ。」
ユフリードと話をする間、使者に念の為ユフリードを勘づかれない為の合図であった。
「後日伺うと、お返事を。すぐに手紙を書きますのでバーナードにお相手をお願いしても宜しいでしょうか?」
「いえ!そんな、滅相もない!このまま待ちます!」
「同じ、王族に伝える者同士仲良くしましょう。」
「バーナード、申し訳ありません。では…少し手伝ってくれる?ユス、」
「….ええ、お嬢様。」
そう言ってグレーシスをエスコートするユフリードは実際には建前上家庭教師であるが、少し変わった侍従にも見える。
二人はグレーシスの自室に入ると神妙な顔持ちで暫く沈黙した。
「…ユス、無理に従う必要はないわ。」
「いいえ。王宮とはいえ完璧に信用はできないわ…けれどももう、かなりの同族が犠牲になった。隠れるのにも限界がある…。」
「陛下も、王妃様も信用に値するお方よもちろんシヴァ様も…けれども手が届くようになれば貴族達は規約を破りあの手この手でテヌを狙う者が出てくる…国王ではなく、私が相手となれば尚更…」
「その為の国王の後ろ盾でしょ?良い条件よ、けれども条件を慎重に考えないとね。テヌはあなたのものよグレーシス、思うようにしなさいな。」
「いいえ、テヌは…テヌのものよあくまで私が貴女達に選ばれたに過ぎないわ、幸運にもね。テヌは相応しい扱いを受けるべきよ。」
そう言って微笑んだグレーシスに、ユスフリードは困ったようにため息をつきながらも嬉しそうに口元を緩めた。
「…だから、あなたに託したのよグレーシス。フォンテーヌが受け入れてくれるのならば国王からの申し出もいいタイミングだわ。公表しましょう。」
「では…」
「そうね、離れを一つお借り出来れば充分よ。」
ユスフリードは各地に散らばるテヌをフォンテーヌへと集合させる意を示し、情報組織の為に顔を明かさず過ごす者の為に別邸の地下設備を整えるようにグレーシスに要求した。
「フォンテーヌの一員と認識されれば他の家で仕事をするのは難しいでしょう。事業の支援の補償と子供達の教育と、女性は邸での仕事を補償できるようにお父様と話し合いましょう。」
また、テヌの者達の為にフォンテーヌ邸の裏の山を開拓し、敷地内に小さな街のように皆が暮らせる場所を別邸の他に提供すると約束した。
「そこまでしてもらうのは申し訳ないわ…」
「いいの、ユス。貴女が居たから今の私が居るのよ。姉妹も同然だと、貴女が言ったじゃない。」
「……そうね。テヌの忠誠はいつも貴女にある事を忘れないで。ただの姉じゃないわよ、中々凄い人なんだからね私。」
「ふふ…、詳細はお父様を交えて晩餐の時にでも。とりあえずバーナードが待っているからお手紙を渡さなくっちゃ。」
「もう!分かってンだか、どうだか!はいはい、行くわよ!」
グレーシスの父には二人の提案は案外とあっさり受理され、それからは父親も交えて王宮に提出する契約書の作成を急いだ。
国王達に、というよりは条約として書面化することで法として貴族達からテヌを守る為であった。
遥か昔から残る魔法石の活躍もあり準備は案外すぐに整いフォンテーヌ邸の裏庭を挟んだ小さな森の中にはひっそりとテヌの街が出来上がっていた。
各地から集まったテヌはそう多くなく、仕事を求める女性は日中邸で仕事をし、子供達は別邸で邸内の者に家庭教師をさせ教育を施した。
男達は事業を起こす者や、情報組織の表の顔として働く者など様々な分野での超人的な才能を見せて当主を驚かせた。
そして、情報機関「テヌ」はその全員がメンバーであるが姿を現さず行動する者達のことを「影」と呼んだ。
そして王宮での、テヌのがフォンテーヌの身内だという公表はすぐ明日にまで迫って来ていた。
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