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出陣準備は皆整った?
しおりを挟むシヴァとグレーシスが馬車に揺られている間、一足先に到着している大人達の間でもまた、自らの子女達の戦いに向けての前準備ならぬ前試合が始まっていた。
このルドラビーダ王国内で唯一の国営の学園であるこのアカデミーのみが創立記念を華やかに祝う。
ここは学園というよりはもはや小さな貴族社会の縮図であり、貴族子女たちが将来の味方を増やしたり、立場を作って行く上で必要な過程と言えるだろう。
地位の高い家門から王家へと挨拶するのが基本であるので、貴族達は三つの公爵家が国王と挨拶を交わすのを憧れの眼差しで見ていた。
まず国王の前に一歩出たのは、古くから王室に忠誠を誓うサンスネッグ家であった。
サンスネッグ家は側近ではあるが、それは宰相という意味ではなく王国の裏の顔と言っても過言ではないだろう。
アイズと同じ髪色と瞳を持つ彼の父 ホルス・サンスネッグはどこか儚げな無表情は冷たいというより朧げに見えるが彼を侮る者は誰一人居ない。
そしてまた、アイズにそっくりの顔立ちのアイスブルーの長いストレートヘアの優しそうな美女 スノウはなんとアイズの実の母親である。
続いたのは、スカンダ家であった。
赤茶色の髪に赤い瞳の実年齢よりかなり若く見える男性はバーナードの父であり軍神と呼ばれるスカンダ家の正真正銘の当主である。
真っ赤な髪に薄茶色の瞳の厳格そうだが美しい女性はバーナードの母 レリエラ夫人で、隣国の第五王女であったが。アルグレッド・スカンダに一目惚れし熱い恋愛の末に結婚して本国へと嫁いできたのであった。
そして公爵家では最後となったミハイルの実家ローズモンド家の当主ミカエル・ローズモンドは蜂蜜色の髪と瞳、優しそうな雰囲気がミハイルによく似た男性であった。
隣に歩く美しいブロンドに蜂蜜色の瞳をした愛らしい女性がミハイルの母、ヒリス・ローズモンドであり家門の実権を握るのは実質彼女と言ってもいいだろう。
ミカエルは心優しいが優しすぎる上に、公爵家の当主とは思えぬほどの純真さであった為に俗に言う尻に敷かれていたのだった。
「貴方、みっともないわ。ウチが一番最後じゃない。」
「いいんだ。順番なんて関係ないよ。」
「まぁ!分かってないのね。もう知らない!」
「はは、ごめんよヒリス。怒らないで。」
わがまま放題のヒリスにいつも笑顔で寄り添うミカエルを慕う婦人は多く、既婚者なのにモテる夫をガードする為にヒリスはいつも様々な手で婦人達を脅かして牽制してきた。
そしてグレーシスの父、レオナルド・フォンテーヌとシシリア・フォンテーヌが挨拶に上がると国王はニヤリと笑って、王妃にチラリと睨まれてしまう。
彼らは、学生時代の親友であり常にトップを争うライバル。そして、戦場を共にした戦友でもあった。
そして、国王と王妃の今一番の関心である息子の想い人の両親であったからだった。
挨拶を一通り終えて、サンスネッグ家、スカンダ家、ローズモンド家、そしてフォンテーヌ家の者達が軽く挨拶を交わしていると席から降りてきた国王が爆弾を投下する。
「レオ、グレーシスは元気か?迎えの馬車を送ったのだが、」
「えっ!?」「は!?」
ローズモンド夫妻は真っ青な顔と、驚愕したような顔で思わず声をあげるが、それをいかにも可笑しそうにわらったサンスネッグ家の夫人は、少し頬を膨らませて、
「まぁ、息子は先を越されたようですねあなた?」
と、微妙な顔をする夫に言うとホルスは少し頷いてから
「私と違って器用な子だ。大丈夫だろう。」
と、意味深に言っただけであった。
ムッとしたように、「彼女はウチの息子の婚約者ですっ」と子供のように言ったミカエルと顔を引き攣らせるヒリス。
(あの子__ミハイル__#ったら成婚するまでは上手く遊べとあれ程言ったのに…!)
「ははっ!知らないみたいだな。ミカエル、」
「あなた、おやめ下さい。放っておいてあげましょう。」
「そうか、だがまぁもしもの時はウチの息子も候補に入れてやって下さいフォンテーヌ侯爵。」
「…皆様、どう言う事でしょうか?」
顔面蒼白になったミカエルが額に手を当ててそう尋ねると、国王が愉快そうに笑っただけであった。
「まぁ、すぐに分かるだろう。」
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