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夜会は静かなる戦争
しおりを挟むアカデミーの創立記念パーティーなる夜会が開かれる今日、グレーシスも例外ではなく準備に慌ただしく動いていた。
「ええ、これで大丈夫よ。」
「あの…お嬢様、エスコートは…」
「一人で入場するわ。状況が状況なので仕方ないわね。」
「お嬢様!失礼致します!たった今王宮からの馬車が到着致しました!」
「え、….?すぐに降ります。」
グレーシスは仕上げを急いで済ませると、ドレスの裾を持ち上げながら急ぎ足でロビーに降りると白地に金色の装飾が施された清廉で豪華だが品のある装いのシヴァが待っていた。
「ご機嫌よう、シヴァお兄様。」
「ご機嫌ようグレーシス。エスコートの相手はもう決まっていたか?」
「いいえ、一人で入場する予定でした。」
「奇遇だな。俺も一人で入場する予定だったんだが…一緒に行ってくれないか?」
悪戯に微笑んで手を差し出したシヴァに屋敷中の者達が胸を撃ち抜かれた感覚がした。
グレーシスも、ほわんと頬を染めて嬉しそうに目を細めて頷いた。
「奇遇だな、グレーシスのドレスは私の装いによく似ている。」
「父が送ってくれたんです。」
「…センスがいいんだな。」
シヴァはあえて悩む侯爵に白と金のドレスを提案したり、
偶然国一番のデザイナーをグレーシスの父に紹介した。
その出来栄えは想像していたよりも、もっと美しくシヴァは「手を回して良かった。」と内心悶えた。
そしてシヴァ自身も、グレーシスの父から贈り物を受け取っていた。
「その耳飾り…勘違いかしら、」
グレーシスが少し恥ずかしそうに、遠慮がちに言うとシヴァは少し笑ってグレーシスの緩く巻かれた淡いラベンダー色の髪を一房取って軽く口付けると、
「いや、グレーシスの瞳の色だ。そしてお父上から頂いた。」
「まあっ!お父様ったら、!ご迷惑じゃなかったでしょうか?」
「全く?寧ろ嬉しいよ。そしてこれは俺からグレーシスに…」
グレーシスに渡されたのは、シヴァの瞳の色のような真っ赤なルビーの耳飾りで華奢だが豪華な、どこかシヴァの耳飾りとデザインが似たものであった。
「これだけだと、バランスが悪いな…全部持ってきて良かった。」
ジヴァの侍従がアクセサリーの一式を持って現れると、ジヴァはテキパキとグレーシスの侍女達に準備を支持してあっという間にハーフアップにされた髪と、そのおかげで映える耳飾りとネックレス、
左手の小指には同じデザインの指輪が飾られており、その意味は恋を引き寄せる。や、チャンスや変化の象徴だと言う。
「チャンスと変化…。」
「ああ、現状を甘んじて受け入れては駄目だ。グレーシスをを愛す人達はいいつだって幸せを願っているよ。俺も含めて。」
「シヴァお兄様…」
「……そろそろ、ソレを変えよう。」
「えっ?」
「シヴァと。」
「そんな!いくら幼馴染でも不敬にあたります!」
「いい。俺が許す。」
「そんなっ…」
シヴァはグレーシスの腰を引き寄せて、唇が触れそうな程近くで囁く。
「あまりにも鈍感だから、時間がかかってしまってな。一度あんな者に盗られてしまったが…もう遠慮はしない事にしたんだ。」
流石に鈍感なグレーシスでも、もしかしたら…と思わざるを得ないセリフと甘く切ない表情。
「シヴァお兄様、一度離れて下さいっ、」
真っ赤になったグレーシスが慌てて言うと、シヴァはニヤリとする。
「グレーシスがシヴァと呼んでくれるなら、ここは大人しく一旦身を引こう。」
「なっ、そんなっ…今日は意地悪ですっ」
「これくらいしないと…気付いて貰えないんでな。」
「…っわかりました、」
「そうか。それは嬉しいな。」
「だから、は、離して下さい!遅れてしまいますよ!」
「ほう?それは大変だ、ほら、早く。」
「~っ!!!………シヴァ、様」
「様はいらない。」
「シヴァ…っ」
カアァァと真っ赤になって申し訳無さそうに呼ぶグレーシスに足先から痺れるような感覚が流れたシヴァは、たまらないといった表情でグレーシスを一度ぎゅっと抱きしめて、屈託なく心底嬉しそうに笑った。
「やっとひとつ、叶ったよ!!!いこう、グレーシス!」
「(きゅん)っはい。行きましょう!」
グレーシスは恋の音を一度気付かぬふりをして一歩踏み出したが、何か決心したような表情でもあった。
シヴァもまた何やら決心したような表情であった。
(ミハイル、よくもあの時横から奪っておいてこんな目に遭わせたな。)
(この気持ちを確かめる為にもずっとこのままではダメね。ミハイル、貴方の遊びに一年も付き合ってあげられそうにないわ。)
((さあパーティーに行こう。))
心の準備はもうできているのだから。
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