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好きな食べ物は君が苦手な食べ物
しおりを挟む今日は特に変わった出来事もなく、妙に大人しいミハイル達を警戒しながらも食堂でランチを囲んでいる。
すると、献立に気になる事があったのか眉をピクリと微かに動かしたシヴァにすかさず何かを言いかけたアイズが制止されると、首をかしげた。
「グレーシス、これをやる。その代わりソレをくれないか?」
「…!」
「??」
「殿下、きのこが好きだったんですか?」
アイズが不思議そうに言うと、「まぁな」と小さく笑ってグレーシスに優しく微笑みかける。
ランチを共にするようになってシヴァは椎茸が出るたびにこうしてグレーシスから椎茸をもらい、他のおかずと交換するのだ。
するとグレーシスが眉尻を下げて、「違うんです。」と苦笑する。
「シヴァお兄様はお優しいので…私が苦手なものを覚えていて下さったんです。恥ずかしいけれど、どうしても椎茸だけは食べられなくて…、」
「グレーシス、気にするな。椎茸は好きだ。」
「シヴァお兄様、本当にありがとう…」
「俺だって食べてやるのに!」
「ふふ、バーナード、ありがとう。」
「悔しいなぁ、殿下には敵わないよ…」
アイズが悔しそうに、しかし微笑ましげに微笑む。
平和な昼食の雰囲気が流れるのだった。
が、それをぶち壊しにする声が一つ。
「ご機嫌よう皆様~!」
「メルリア嬢…ご機嫌よう。」
一応、微笑んで挨拶を返すグレーシスだがシヴァに至っては視界に入っていないような素振りで無視。
アイズに至っても同じだった。
バーナードも軽く睨んで警戒するような素振りで、もし危害を加えればいつでも動けるように少しグレーシスの方に体を向けただけであった。
「……(なによっ!皆して)」
「グレーシス様ったら好き嫌いですか?だめですよ?あっでも私知ってます、どうしてたべられないのか。」
「だから、何でしょうか?」
「昔に椎茸によく似た毒キノコを食事に盛られてから、トラウマになってしまったんですよねぇ?貴族令嬢たるものそれくらい慣れておかないといけませんわよ。そんなだからミハイル様にも….」
「??」
「あら、いけない!ミハイル様だけじゃなくってその調子だと皆様にも愛想を尽かされますわね…ミハイル様ったら私には何でも話して下さるから、つい….グレーシス様が心配になってしまって…。」
「ご忠告ありがとう。けれどそうであったとして…貴女には何の関係もないのでは?」
「…だから!心配して差し上げたのよ!」
「でしたら、もうこれ以上は結構です。毒を盛られて死の瀬戸際を三晩彷徨うことに慣れてしまえるメルリア嬢にとっては些細な事でしょうから…。」
「なッ!」
「おい、聞こえただろ。まず目下の者が勝手に話しかけるな。学園内とはいえさすがに無礼だぞ。」
バーナードが睨みを効かせて言うと、泣きそうな声で胸元を寄せてクネクネと言い訳をし始める。
「そんな、三日も死にかけただなんて知らなかったんですっ。」
「知るか。消えろ。」
「バーナード、いいわ。メルリア嬢私は気にしないからもう行って下さい。」
メルリアが粘る態度を見せた瞬間にシヴァの咳払いが聞こえ、皆が注目した。
「どうやら、ミハイルは何も知らぬまま中途半端に君に話してしまったようだな。それとも本当は何も聞いていないのか?」
「いえ、本当にミハイル様はなんだって正直に話して下さるんですっ」
「ああ、そうか。あの時も三日三晩お見舞いにも来ずに遊びまわっていたな…、アリス、キャメロン、リリーだったかな?」
「シヴァお兄様…。」
「奴はグレーシスについて、何もしらない。だから無闇矢鱈に口を開くなと伝えておいてくれ。」
「あ…っ、その、殿下、」
「まぁ、もしかしたら君もその中の一人なだけで今は別の令嬢といるのかも知れないがな。」
心当たりがあるのか、顔面蒼白にしたメルリアがバッっと振り返って走り去って行くのを呆れたように見て、そっとグレーシスの冷めたお茶を下げて新しいのを淹れてやった。
「アイズ。」
「もう、とっくに手配してますよ。ミハイルは案の定中庭でクレアと逢引き中でした。」
そう言って少しグレーシスに気遣う視線を送りながら言うアイズに、グレーシスはくすりと笑って「大丈夫です。」と言う。
「シヴァお兄様、ありがとう。今も…あの時も。」
「「??」」
「…ああ。」
「三晩寝込んだとき、片時も離れずに傍にいてくれたのはシヴァお兄様らしいんですよ。起きた時も勿論一番初めに目が合いました。」
シヴァが照れたのを隠すようにお茶を啜る。
アイズがゆっくり瞬きして、バーナードと顔を見合わせるとそっとシヴァともアイコンタクトをした。
「これからは、僕たちも居るよ。」
「そうだぜ、仲間だろ。」
「俺は恋人になるつもりだが。」
「「殿下っ!!」」
そしてみんなで顔を見合わせて笑った。
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