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交える剣と心
しおりを挟む「着いたぞ、グレーシス。」
「はい。まずは可能であれば両陛下にご挨拶をしても?」
「グレーシスならそう言うだろうと母上が待ち構えているさ、」
そう少し笑ったシヴァの言葉に嬉しく思うグレーシスも少し笑って、手を差してエスコートを申し出たシヴァの手を取った。
「おかえりなさいませ。」
執事が「ようこそ」ではなく、「おかえりなさいませ。」と言うあたりに父の計らいを感じたシヴァであったが、好意的な計らいはシヴァにとっても追風となる為に黙っておくことにした。
「ありがとうございます。久々なのにそのように言って下さって光栄です。覚えていて下さったのですね、ヘインツさん。」
「!!…恐れ多くございます。忘れるはずもありません、グレーシス様こそ、一執事の名前まで…!大変光栄でございます。」
感慨深く、綺麗な礼をとった執事がそういうとグレーシスは驚いた顔でシヴァを見た。
彼女にとってはとても些細な、当たり前の事でまさかこのように喜んで貰えるなんて思ってもいなかったのだろう。
(だから、グレーシスが好きだよ。)
「小さな頃はよく遊んで貰ったもの、忘れるわけがありません。今日も宜しくお願い致します。」
「ああ、そうだな。もう昔のように迷わないでくれよ。」
「もう、シヴァお兄様っ!」
「はははっまた仲睦まじいお二人をこうして拝見できて私は幸せです。…ご案内致します。ご準備は整っております。」
ヘインツが和やかに言うと、
少し照れたように笑って謁見の間まで歩いたのだった。
「国王陛下、王妃殿下にご拝謁いたします…」
「グレーシスちゃんっ!待ってたのよ~~!畏まった挨拶なんて良いわ!もっと近くにいらっしゃい!」
「こらこら、困らせてはならん。グレーシス、久しいな。」
「お久しゅうございます。私もお二人に会えてとても嬉しいです…!」
「んも~!なんて可愛いの、子供の頃から変わらないわっ!」
「ああ。グレーシスがうちのに嫁いでくれれば安心なんだが…」
「ち、父上、母上、気が早いです!」
「えっ?」
「あら、」
「ほう…。」
「あ!………言葉の綾です。」
そういって赤面するシヴァを二人が笑うとグレーシスもつられて笑った。
「ふふっ、それで…今日はデート、には見えないわね?」
「ほう、剣の練習か。」
「はい。淑女が剣などはしたないと自覚はしておりますが…、」
「いや、そうは思わんよ。かつてその剣に私の息子は救われたんだ。頼もしいパートナーだと思っておる。」
「そうよ~!もう、あなたこそ気が早いわよ~!」
「……っ!ありがとうございます!」
(パートナー?一体どう言う意味かしら….。)
「まぁ、シヴァはこう見えても剣の腕は国一番だ。次はグレーシスを守ってくれるだろう。だから無理しない程度にやりなさい。」
「はい。」
「ああ、今度は必ず俺が守るよ。」
グレーシスの心臓はシヴァによって抜き取られてしまったのでは無いかと疑うほど、自らの耳に音が届くほど大きく波打っていた。
「….はい。」
「では、父上母上。失礼致します。」
微笑ましい笑顔で見送ってくれた二人。
まだ少し頬が赤いグレーシスの手を引いてシヴァは演習場へと歩いた。
(シヴァお兄様の触れた所が熱い…)
(グレーシスに触れた所が熱い、)
演習場に着くと二人の顔つきは真剣なものへと変化した。
「じゃあ、グレーシス始められるか?」
「ええ、宜しくお願いします。」
軽くウォーミングアップすると向き合った二人は金属音を鳴らして剣を交える。
その腕は互角に見えるが圧倒的にシヴァが手加減をしているのであった。
「はぁ、はぁ…っシヴァお兄様、流石ですね。」
「グレーシスも強くなったな。」
「…まだまだっ」
キンッと大きな金属音が鳴りグレーシスの剣が弾かれると、シヴァとの力の差で弾かれた際にバランスを崩し後ろに倒れるグレーシス。
「…きゃっ!」
「おっと!」
咄嗟に受け止めたシヴァは、心配そうに覗き込んで「すまない」と叱られた子犬のような表情で言うものだから、グレーシスはなんだか可愛く思えて思わずその頬に手を伸ばした。
「ふふ…そんな顔をしないで下さい。剣を交えればこのくらいは覚悟しています。」
「それでも、傷つけたくないんだ。」
頬に触れるグレーシスの手を握ってぎゅっとグレーシスを抱きしめる腕を強めるシヴァの仕草と早い心音が心底グレーシスを大切に思っているのだと伝えてくる。
(婚約者にだってこんなに優しくされた事はない…いつも優しさをくれるのはシヴァお兄様なのね。)
「俺はずっとグレーシスに貰ってばかりだから。」
「そんな!私のほうが…」
「いいや、今こうして賞賛させる王太子でいられるのはグレーシスがずっと支えてくれたからだよ。」
((なぜか肝心な時はいつもとなりに君が(貴方)がいるんだ。))
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