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二羽の蝶と甘い囁き
しおりを挟む僕は昔から女性によくモテた。
"蜂蜜公子"なんて言われるのも満更でも無かったし、女性というのは柔らかくて甘い香りがして好きだ。
グレーシスを除いては皆僕の甘い蜜を求める蝶のように僕を愛してくれたし、グレーシスに関してはどの蝶とも違うその高貴な蝶に止まって欲しくて僕から必死に手を伸ばした。
幸い彼女の家は侯爵家で僕の家が公爵家。
落ち目でもなければ、それなりに由緒ある家門だしいくら侯爵家が裕福で力があると言っても形式上断られることのない縁談であった。
いざ手に入れたグレーシスは案外献身的で、完璧な婚約者であった。
未来の公爵夫人としても申し分のない立ち振る舞い。
侯爵令嬢としても、単純に女性としても非の打ち所がない人だ。
ただ、女性とはそれぞれ違う。
グレーシスのように安心感と次期公爵としての安定を与えてくれる女性は妻としては最高の人だが、
僕より遥かに優秀であるグレーシスに、何故か自信が無くて一歩踏みだせないでいた。
元々女性が好きな事もあって、甘い刺激を求めて他の女性と割り切った関係やデートだけの関係を重ねたが彼女が泣いたのは初めだけで、それも僕に隠れて。
だからといって、グレーシスは文句をいう事もなく、
出来た婚約者であった。
ほかの令嬢達と居ると、自尊心が満たされた。
令嬢独特の中身が空っぽの会話、無条件に与えられる賞賛。
女の子のドレスの下は魅惑的だし、その中でより一層僕の心を癒す蝶はメルリアであった。
程よく中身があるが意味を持たない楽な会話に、わざとらしくない甘く誘惑するような賞賛。
少女のような可憐な容姿とは反する大人の女性のような官能的なドレスの下は踊るように僕を夢中にさせて楽しませた。
無知で、少し不作法な所も僕の自尊心を満たしたし。
グレーシスを妻に迎えた後に、メルを愛妾にするのもいいだろうと何度も夢見た。
そんな時にメルが提案したのは、一年だけ本当の恋人になりたいという事だった。
正式に成婚するまでは真実の愛を楽しみたいと。
最後の思い出作りだといって意地らしく泣いた。
どの道僕はグレーシスも愛しているし、妻にするならば彼女しか考えられないのだ。
僕が優秀な公爵家当主となるにはグレーシスを妻にした。という看板も必要になる。
なのでこの一年はメルだけを愛して、メルに捧げようと思った。
愛妾の話は…それが終わってからでいいだろう。
けれど、日に日にメルに夢中になっていく僕。
当て付けなのか、殿下や他の子息と仲良くするグレーシスにヤキモキするがまさかグレーシスが僕を裏切るはずはないだろう。
けれど、どうしてもグレーシスが楽しそうにしているのが気に入らない。
僕以外の子息と仲良くしないように、さりげなくいつも防御してきた。
そのうちに僕が他の令嬢と居ても、誰もグレーシスに声をかける事は無くなっていたというのに…
(何で、そんなに楽しそうに笑っているんだ。)
君は僕のグレーシスだろう?
僕の妻になるはずだろう?
考えごとになっていると、僕の下にいるメルリアが一瞬舌打ちしたような気がして我に返った。
「メル…?」
「どうしたの?ミハイル様…もっとして?」
(気のせいか。)
苛立ちと困惑でつい乱暴になってしまうが、僕の名前を呼んで僕だけに愛を叫ぶように伝えるメルに僕の心はまた満たされた。
ああ…グレーシス。
君なら、
(君ならこんな時、どんな表情をするんだろう。)
愛らしく、熱っぽい表情のメルリアを見下ろしながらそう思った。
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