1 / 71
婚約者から浮気の公認を迫られます。
しおりを挟む筆頭侯爵家の一人娘であるグレーシス・フォンテーヌは、新入生の頃から続いている婚約者とのランチの時間を楽しんでい……る筈だった。
ローズモンド公爵家の嫡男である婚約者、ミハイルははちみつ色の髪と瞳が愛らしく、剣の腕が良いという男らしい一面もあり、皆に優しい。
なので婚約者がいるにも関わらず、普段から女性に囲まれており、時折浮気では?と思うような場面にも遭遇してきていた。
部屋に帰って泣いたのはもうかなり前で、今ではもう彼への期待など消え失せてしまっている。
近頃は、一人の男爵令嬢と熱心に逢瀬を重ねているようで普段から堂々とイチャイチャしている二人の噂で学園は今日も騒がしい。
「ミハイル…話って何?」
「グレーシス…実は私は、真実の愛に出逢ってしまったんだ。けれど私も一端の貴族だ、私達の婚約が単純なものではないと理解している。」
「…で、私にどうしろと?」
「結婚は君とする。だから卒業までの一年だけ別れて欲しい。」
グレーシスは驚愕した。彼は多少移り気な人ではあったがこのような突拍子もない提案をするのは初めてであった。
「真実の愛なのでしたら、その方とご結婚なされば良いのでは?」
「私は結婚は君としたい。だが、真実の愛を諦める時間が必要なんだ。」
「……そのお相手の方とは?」
「メルリア・ボーデン男爵令嬢だ。その…君のクラスなのでよく知っているだろう。」
メルリアは男爵令嬢でありながら、実家は富に溢れ成績もそれなりに優秀である。それに加えて、女性らしい小柄で丸い大きな瞳と、甘い声、気取らない可愛さが多くの子息達に人気だった。
ミハイルもその一人だと言えるだろう。
次期公爵であるミハイルに恥じない婚約者でいようと、常に気を張ってきたグレーシスは淑女の鏡とは言われ憧れられても、彼女がとても美しくても、そのお堅い雰囲気で近寄りがたく思われて、男女共にそれ程人気があるわけでもなかった。
「ええ、知っています。ですが、
「頼む、グレーシス!私は結婚後君をきちんと愛する為にも、きちんと真実の恋を終わらせたいんだ!!」
グレーシスの話など聞く気もないのか、グレーシスの言葉を遮って自分の主張を押し付けるミハイルはどこか子犬のような潤んだ瞳で必死に懇願する。
(頼みというより、これはもう決定事項ね…呆れたわ。)
「それなら、お好きになさいませ。」
呆れ切ったグレーシスは、ミハイルに見切りをつけたのだった。
だからと言って傷ついていない筈はなく、グレーシスはいつも自分ではない令嬢の隣にいるミハイルに自分を否定されているような気分であった。
彼は愛しているとグレーシスに囁きながら、いつも他の女性と逢瀬を重ねていた。
本来このような侮辱以外の何物でもない事を承認などしないだろう。
だからこそ、もう好きにしろというのは別れの言葉でもあった。
ほとほと愛想が尽きたと、貴族らしい言い回しで言ったつもりだったのだが、ミハイルにはどうも通じていなかったようだった。
「ああ!分かってくれると思ったよ!この一年は君も好きにするといい!君が他の男性と食事をしても私も寛大でいよう!」
グレーシスは頭が痛くなった。
ミハイルの家は王国に三つしかない公爵家の家門、富にも溢れているしもちろん影響力もある。
もうそれならばいっそ、この一年を不義の証拠として婚約破棄し膨大な慰謝料でもふんだくってやろうと思った。
(そうでもしないと腹の虫が収まらないというものね。)
「ああ、私の美しきグレーシス…だけど君は男性と肌を重ねるのだけはやめて欲しい。その唇もだよ。世継ぎは僕の子を、君の全ては僕のものだからね。」
「…。気分が優れませんのでお先に失礼致しますわ。」
(絶対に婚約解消してやりますわ。)
42
お気に入りに追加
1,063
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる