離婚届は寝室に置いておきました。暴かれる夫の執着愛

abang

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丸くて棘のある

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「いつまでそうしてるつもりだ、リジュ」

「ん」

よりにもよって王太子の執務机に伏せっている親友に何度目かのため息をついた。

そのおかげで仕事は中断し、こうしてソファに沈んで休めている訳だが……どうにも静かすぎて気色が悪い。


「……何かあったのか?」

「ディオ、聞くのが遅いな」


とはいえ話はきっとエルシー絡みで間違いないのだろう。
彼女への想いを秘めるエルディオに話すことを躊躇しているようにも見えた。

昔からリジュはこうだったーー。

人よりずば抜けた能力を持つ上に、気遣いなんて皆無。

情けをかける性格でも、世辞を言えるほど気が効くわけでもない。

その癖にひとたび愛情を持って仕舞えばこうやって相手を思いやる仕草を見せるし、不器用なりに気を遣ったりもするのだ。


「どんな話でもいいから聞かせてくれ」

「!」

「お前とまたこうして話せるのが嬉しい」

我慢しきれずに少しだけ上がった口角を見ただけで嬉しいのだとわかるほどにもう付き合いが長くなってしまったリジュを見るとさほど参っているのだろう、ゆっくりと話し出した。


「エルシーはこんなにもモテてた?」

「ああ」

「巷では俺が丸くなったって、エルシーだけで行動してる所を狙って声をかける馬鹿が絶えないんだ」

「……ほう、それはまた命知らずだな」

「ふ、ディオ……お前の顔も怖いよ」

「あ……すまない」

「でも、エルシーと約束したから。大体の事は正攻法で対処するんだけど、こう、なんかムズムズしちゃって」


こちらとしては、ほいほいと貴族が消えてしまうことを防げるの有り難い事だが……リジュの親友としてはどこか物足りないような気さえもする。

こんなにも麗しい見た目だがすぐに手が出る、というかどちらかと言えば武力行使で解決する癖のあるリジュの代わりに考え込んだ。

言葉には出さないがエルシーに茶々を入れる男が自分も気に食わないのだ。

「相手は分かってるんだろ?」

「勿論、一番しつこいのはゲレン伯爵だよ」


彼は代々造船業を主な商いとしてきた家系で、大昔は造船業から始め金を得て、地位を得たと言われている家門。

国に対しても有力な貴族である程度の富豪だ。
容姿も中々の美丈夫で何も既婚者を口説かなくても引くて数多だろうに、と考えて「私も同じか」と苦笑する。


「なに?」

「いや、まぁこちらとしても力のバランスを考えればゲラン伯爵家には良い結婚相手が居ると助かるんだが」

「ふぅん、これ以上大きくなるのも困るって事ね」

「ああ。先代と違って彼は性格が良いとはいえないし、素行も褒められたもんじゃない。それに、エルシーに手を出すなんてーー」

「ふふっ」

突然リジュが笑い出して今度はエルディオが「なんだ?」と尋ねる番になった。

「いや、何でディオだと腹が立たなんだろうなぁ」

「すまない」

「いいんだ。それにきっと何か考えてただろ?」

リジュが悪戯をする子供のように笑って、その容姿では毒になる仕草で首を傾げる。

(とはいえ、もうリジュの顔にも慣れているが……)

「まぁな、乗るか?」

「勿論」

あのローズドラジェが内容を聞く前に返事をするのだ。
自らの父ですら、この立ち位置を欲しいと願うだろう。
だからこそ、は二人きりで計画するのが幼い頃からのルールだ。

「じゃあまずはーー……」

自らが直接選んだ協力者や部下、必要なものはそれと金だけ。

ゲラン伯爵が近頃出入りしており、買収まで持ち掛けるほど気に入っているシークレットクラブなる会員制の店を先に買い、リジュのツテで利害の一致した令嬢を一人潜り込ませた。

彼女はゲラン伯爵に長年片想い中で、家柄は富豪でもなく特に何かに秀でた訳でもない平凡な代々続く貴族。

性格も悪くはないし、大人しそうな容姿と女性らしい丸みのある身体つきは実際にゲランのお手つきでもある。


恋人になる事を期待させられもう何年も身体の関係を持っているらしく、割り切った関係というよりは彼女はずっとゲラン伯爵に騙されている風だった。


「ほ、本当にバレませんか……?」

「仮面を外さず、話さなきゃね」

「頑張ります……あの、これで……」

「ああ、君が本当にそれでいいなら手に入るよ」

「なんとしても、彼が欲しいんです!」


この日の為に彼女は、貴族の令嬢だというのに娼館の女性達に様々な事を習い、酒にも強くなった。
海外からエルディオが取り寄せた興奮作用のある香は、別名は惚れ薬というらしく、ないはずの中毒性が感じられる妙な珍品。


「まぁ君次第だけど、成功したら報酬も弾むよ」

リジュの笑顔に顔を赤くしたものの「ウシュレイ様の為よ」とゲラン伯爵の事を想って気を入れ直した彼女に「これなら大丈夫そうだ」と考えて、エルディオの待つ馬車へとリジュは戻る。


「ディオ」

「早かったな」

「あれなら大丈夫そうだね」

「ひと月といった所か」

「元よりアルコール中毒、特に夜は判断力が弱いからね」


馬車に揺られながら、今頃定期的にある用事で街へ出ているエルシーを狙って付き纏っているだろうゲラン伯爵を想像してリジュは舌打ちした。

「さ、迎えにいくか」

「まさか、私まで連れてく気か?」

「王宮寄ったら遅くなるだろ」

「……まぁいい」
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