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眠れる美しき悪魔
しおりを挟むリジュが目を閉ざしてもうひと月が経った。
リジュは王城のとある場所できちんと警護されている。
エルシーは可能な限り足を運んでいるが、彼が目を覚ます様子は無い……。
こうなった以上、ローズドラジェを執り仕切るのは公爵夫人であるエルシーのみとなったのでエルシーは邸に戻りその職務を全うしているが、「公爵はもう目を覚まさないのではないか?」
と、様々な憶測が社交会では飛び交い、エルシー自身や万が一の場合に彼女が受け継ぐであろうローズドラジェという大きな財産を狙って擦り寄ってくる貴族たちは後を経たない状況だった。
エルシーはそんな噂話をとても遺憾に思っているが、そんな事を気遣ってくれるほど社交会は優しい場所ではない。
夫として、男女としての不満こそあれど彼を家族として愛している事には変わりない。全てでなくとも、リジュのことをよく知っているとも自負している。
「目を覚ますよね、リジュ」
「エルシー、来ていたのか」
「ディオ殿下、すみませんいつも」
「いや、リジュの警護は陛下の決定だ。気に病む事はない」
「助けて貰ってばかりですね」
「私達も、リジュにはそうして貰っていた……」
エルディオのリジュを見る瞳がるあまりにも寂しげで思わずもう枯れたはずの涙が溢れそうになる。
「リジュは、私の英雄でした。それと同時に私の心を傷つける悪い男でした」
「はは、私にとっても似たようなものだよ。手の付けられない暴れん坊なんだ、だけど英雄で憎めない奴だった」
リジュの槿花色の髪を撫でて微笑む。
(ねぇリジュ、貴方を待ってる人はちゃんと居るよ)
何処か自分を顧みない危うさのある人だった。
奪う分を償っているような生き方が何処か哀しかった。
「でも、リジュが何か奪う時は何かを守る時だって知ってたよ」
何故か涙を流したのはエルディオだった。
そんな彼を放ってはおけなくて、ハンカチでそっと目尻を拭ってあげた。「エルシー以外にコイツが命をかけるとは思いもしなかった」そう言ってただひたすら謝罪するエルディオの背を子供を寝かしつけるようにとんとんとリズム良く叩いた。
「大丈夫ですよディオ殿下、ローズドラジェもリジュもちゃんと私が守ります」
「じゃあ、私が君を守ろう……」
「ディオ殿下……?」
きっと彼は夜通し何度もリジュの様子を見に来てくれていたのだろう。
静かに寝息を立ててエルシーの肩に頭を預けたエルディオが起きてしまわないように暫くじっとしていることにした。
「ねぇリジュ……私少し分かったかもしれない」
きっとリジュも足りないものを探してしまうんだろう。
私が私を不甲斐なく感じるように、リジュにもそう思う時があったのかもしれない。
不器用で、自己中心的だけど訴えかけるようなリジュの愛は痛いほど伝わっていたのにあんな言い方をしてしまったから、
私の理想に近い人を、貴方の思う最高の男性の元へと私を無理矢理置いてったんだね。
巻き込んでしまったエルディオにも、リジュにも途端に申し訳無さが込み上げて深く息を吸って、吐き出した。
「私は、どうしたいの?」
「ん……エルシー……」
「!」
(寝言……?)
「私が……守るから、ね」
「ーっ、」
ねぇリジュ、私にどうしろと言うの?
貴方に囚われたままの心は深く傷ついたままなのに、
その傷を他の誰かに癒してもらえだなんて、それも
彼は貴方の親友でしょう……?
大切なものを選べなかっただけなのか、
大切ものを手放してしまいたかったのか
「ねぇ起きて教えてよ、リジュ……」
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