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国王の犬とその妻

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暫く経った。

リジュからの返事は無く、領地にある実家へ帰ろうと相談したところ「今はやめた方が良い」と返事を受けた。

かと言ってずっと王宮に居るのは申し訳なくて、自分なりに外の状況を調べてみた所、国王が病に臥せ一部の派閥により権力争いの混乱が起きかねないこと、


王家の、国王の犬と揶揄されるローズドラジェがどうやらひどく不安定に見えるという噂だった。


結局どのパーティーでもリジュには会えず、公爵邸を訪ねても門前払いに合うだけだった。「申し訳ございません」と涙を溜めて私を門前払いする使用人達が不憫で通うのはやめた。


まだ、リジュの「弱点」だと思われているのだろう私が無防備に外に出て暮らすことを危惧したのだろうと理解したものの、

どうしてもやるせない気持ちでいっぱいだった。


(リジュ……何を考えてるの?)



反王宮派、そう呼ばれる派閥が組まれたのは割とすぐだった。
それでもローズドラジェは勿論、エルディオや彼を支持する大貴族達が支えているのでそんな事は些細な事だ、そう考えていた。


「エルシー様……っ!」

「どうしたの……?」

「何者かが、王宮に侵入しました。かなりの人数です」


内部の裏切り者によって手引きされた反王宮派からの刺客達が夜中にそこら中を焼きながら侵入したと言う。


「時期を見て、避難します。護衛の者を入れても?」

「ええ、レビィとマルコもしっかりと支度してね」

「失礼します」

あの日、付いて来てくれて居たレビィとマルコ、そして護衛騎士のキースこの三人は王宮に来てからも慣れない環境で凄く良く頑張ってくれている。


何があってもこの三人と一緒に生き延び無ければ、そう決心した所で慌てたようにエルディオ達が部屋まで訪ねて来た。


「私達と一緒に避難してくれ、エルシー」

「ディオ様、それでは貴方が危険です」

「大丈夫だ。リジュがすぐに着く」


想像していたよりも悲惨な王宮内を必死で走り抜ける。
秘密通路まであと一歩、そんな時だった。


「……っく、先に行ってください!」

「キース!!!!」


背中に火弓を受けたキースが倒れ込んで、雪崩れ込んできた敵兵と対峙する。


エルディオの騎士達が辛うじて火を消しキースを支えてくれたものの、これでは足止めを食らったも同然の状況だった。
このまま通路に向かえば、手の内がバレてしまう。


「……陛下方は」

「リジュ様がもうすぐお連れします」

「なら、エルシーを少し離れた所で死守しろ」

「殿下は……っ」

「私はお前達と戦う、リジュを待つ!」

「いけません!!」

それでもエルディオは剣を構え、護衛騎士のセイもまたそんな主を守るように少し前で構えた。


「ディオ様……!無謀です!!」

「これがリジュでもエルシーはそう言うかな?」

「貴方は次の国王なのよ……!」

「違うよ、エルシー。私は信じて欲しいんだ」

「何を言って……」

「リジュを見るあの美しい瞳で、私を見て欲しい。絶対的な信頼、エルシーの英雄ヒーローになりたいんだ」


まるで、駄々をこねる青年のようだった。

行かせては駄目だと直感でそう思った。


「駄目ーーー」

「ディオ、エルシー」


赤い


まずは視覚がそう捉え、赤は彼の色じゃないと思考が彼を探し始め、すぐに捕らえられる。


槿花色の髪が揺れて、リジュにさえ怯える両親達が背後に見えた。


「リジュ……っ」




まるで、美しくて残虐な絵画だ。


エルディオはそう思った。


エルシーが自分には向けない安堵したような泣いているような、求め歓喜するあの熱く輝く碧眼を向けているのを見れなくて彼女から視線をリジュに向けた。


皆の言う飼い犬だなんてとんだ間違いで。彼無しじゃ父はもう何度も死んでいる。恩人なのだ。


そんな彼が、上手くできないのはエルシーのことだけだった。
特殊な環境で育った彼の唯一普通に弱い所だった。


「無事で良かったよ」


敵兵が一歩後退る音が鳴る。

瞬時にしてごろごろと転がり血飛沫を上げた仲間達と目でも合ったのだろう。私の騎士達は慣れているが母は護衛の者が気絶させたのか女騎士がしっかりと抱いている。


「リジュ、悪いな」

「こちらこそ」


リジュの瞳がエルシーに囚われた一瞬、ほんの一瞬だった。


「父の恨み……!!!!!」


顔色が悪く、酷く弱々しくなった父をまだ若い味方の筈の兵士の刃が襲う。


「リジュ!駄目だ!!」


父がそう言ったのは、リジュは国王の犬ではなく彼が私に仕えてくれていて友であると父が理解しているからこそだった。


「俺は丈夫なんだ」

間違いなく父を庇ったリジュの腹部を貫いたはずの刃は何故かその兵士の腹部を貫く形で返され、何処か焦ったように見えるリジュはあっという間に辺りの敵を一掃し、通路に逃げ込めた。



「リジュ……っ」

「エルシー、愛してるよ」

「なによ、今更」

「でも、俺の思う世界一の良い男はディオなんだ」

「私は、リジュが好きなの……っ」

「真面目で、エルシーを傷つけない……よ」

「ーーーっ!!!」


やはり、リジュの腹部は赤く染まっていて「しくじったね」なんて俺に笑いかける、心臓が嫌に早い。


まるで造りもののように美しいリジュは目を閉じてエルシーにもたれ掛かったまま弱々しい呼吸で意識を閉ざした。



「いやっ!リジュ……っ!!!!」

「やめろ、リジュ。死なせない……っ」












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