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中途半端こそ危険

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薄暗い王宮で国王と向かい合うエルディオともう一人。


「リジュ……元より無かったかのようにせよ」

「はい、陛下」

「エルディオも、しっかりな」

「はい、父上」


たった今、一つの許可……と、言うよりは命が下った。



長い廊下を歩く二人の役目は同じだがまるで逆さまで、全てを無かった事にするのがリジュだとすれば、

「元より無かった」と納得させてそれを在る事実にするのがエルディオの仕事なのだ。


「じゃ、またね。ディオ」

「ああ」

「今回は、来るなよ?」

「分かってるよ」


至っていつも通りに見えるリジュだが、相手があのヘルビオ公爵家。ローズドラジェと並ぶ家門であるにも関わらず、近頃は焦りが出たのかローズドラジェの内輪揉めを利用しようとしたのか……


(こうも、簡単に尻尾を出すとは思わなかったな)



ルシエラ侯爵家の件から暫く、とうとう些細なミスを見せ始めた。


それが仇となり、彼が王宮の権力を求めて行動する裏の顔が明るみに出て来始めた。


それを放っておく国王ではない。


国王は細々とした罪状を連ね、リジュにルシエラを陥落させた後、公爵夫人の殺人未遂教唆の容疑でヘルビオを招集したが彼は自らの邸から出てくる様子は無い。


そうして国王は信用を失い、逃げ惑うヘルビオを不要とした。


「無かった事に、ねぇ……丁度いいか」


狙われたのは他でもないエルシーだったのだ。

丁度、領地の邸に居てくれて良かった。とにやりとするリジュはエルシーの命を脅かすヘルビオ公爵家の抹消は好都合だと思っていた。



「二日もかかったな」


寝静まっているヘルビオ公爵家を見て呟く、門番はもう二度と起きないだろうし、人目につく前にディオからが送られてくる手筈だ。


全員、何も残してはならない。


別にこれに快楽を感じている訳じゃ無いし、楽しんでいる時も無い事もないが別に好きな訳でもない。

何なら、王宮の警告後未だにヘルビオ公爵家で働いているというだけでこうやって「無かった事」になるこの者達には同情する。


眠っている者もいれば、明日の為に働く者も居た。

けれどそれ程難しい事じゃ無かった。

ヘルビオ公爵夫妻に辿り着くまではそうかからなかった。


「ゆ、許してくれ!あれはルシエラの独断だった……!」


「ずるいな、死人に口無しだろ?」


「まさか……ルシエラ家はもう…….っ」


「そう、


命乞いも忘れて怯え、一目散にリジュに背を向けて逃げる公爵はあれほど大切にしていた妻までも押しのけて一人で逃げる。


「あ、あんな人とは別れるわ!子供の事も恨まないか……ら……」

「もう、遅いな」


言葉を言い切ることもできずに崩れ落ちる夫人を振り返って、腰が抜けたのが地面を這うヘルビオ公爵にゆっくりと近づく。


「ローズドラジェが包囲してるし、ここは無かった事になる」

「頼む……許してくれ……」

「憎しみや恨み、なにも残さないのが拘りなんだ。中途半端をすると連鎖するしね」

「イカれてる……っ!国王の犬が……っ!」

「国王の……ね、まぁ陛下は好きだよ」


少し考えてから、ヘルビオ公爵の足の腱を切った。



「ぐっ、ゔぁ……私はヘルビオだぞ……」

「安心して、俺の親友が歴史ごとヘルビオを消したよ」

「嘘だ……、ならせめて、命だけは助けてくれよ……ゔぅ!」

「本当、どの書物にもヘルビオは書いて無いし、明日には国中が驚いた後に口を揃えて、ヘルビオなど元々居ないと言うよ」 

「ゔわぁあぁっ、やめっ……!!!」




誰も居なくなった公爵家を出たリジュは迎えにきた夜に混じる真っ黒な馬車に乗り込んで眉を顰めた。


「なんで、来たのディオ」

「表裏一体だろ、お前だけに仕事させれるか」

「ふ、駄目だよ。俺に君の仕事は出来ないんだから」


仕方ないなというように笑ったリジュに、今度はそわそわし始めるエルディオは「関係のない話だが」と切り出す。



「なぁ……、エルシーはどうするんだ」

「償うよ、ずっと。逃してはやれないけど……」

「けど……?」

「もう傷つけないように大切にする」

「許されなかったら……?」

「まさか、殺すとでも?そんなに病んでないよ」

「いや……まぁ、少し心配だっただけだ」

「もしそれでも、これからはエルシーの為だけに生きるよ」




エルディオがそっと目を閉じたのを見て、リジュもまた目を閉じた。


「エルシーはこんな事喜ばないね」


「リジュ……けど、守っただろ」


何となくリジュの背負う寂しさや、欠けたところが切なくてエルディオは珍しくため息を吐いた。


「上手くいかないな、けど少しずつ歩みよれば良いだろう」

「ん」

「試さなくても、エルシーはお前しか見てない」


「優しいな、ディオ」

「いつもだろ」

「……ありがとう」


どこか苦しそうなエルディオの恋心を知っているからこそ、申し訳なかった。


(ディオならきっと、泣かせないんだろうな……)





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