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迎えに来た麗しの公爵

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突然扉の前に現れた鮮やかな色、発光しているようにさえ見える特別な雰囲気にドアマンは喉を嚥下させた。


「公爵閣下……っ」

「しー、言わないで。こっそり入る方法は?」

「給仕の扉からなら……ですが閣下が入られるような場所ではありません」

「気にしないで、ありがとう」




注目を浴びないように会場へと入るとすぐに見つけられる、リジュにとって唯一無二の特別な白金の輝き。


沢山の男達からの好意の視線と女達の厚意に囲まれながら何食わぬ顔をしているエルシーにホッとする気持ちが半分と落ち着かない気持ちが半分。


入場の掛け声をを念の為に止めていて良かったと安心する。

人に囲まれてはエルシーの元へ辿り着くのに時間が掛かるし、今はそんなまどろっこしい事をしている暇は無い。


何故一人で参加したのか、どれ程の人が今のローズドラジェ夫妻の関係に気付いてしまったのか不安が尽きない。


やはり、ある程度は人に気付かれてしまうがまだエルシー達は気付いていない様子だった。


ひとりでパーティーに参加したと報告された時も信じられなかったが、目の前の光景が新鮮すぎて読み込めないでいる。


パーティーの中心で楽しそうに微笑むエルシーにもう自分は必要が無いような気にさえなってコントロールできない感情が込み上げてきてどうしようもない最悪な気分だ。


今すぐにエルシーの側へと行けば賢い女達が隣を空けてくれるだろう。
エルシーもまた公の場では笑顔で隣に迎え入れてくれる筈だ。

けれども何故かそれができない、足が動かなかった。


ふとエルシーと目が合って、彼女が驚いた表情を見せる。

(あれ……俺、今どんな表情をしてる?)


エルシーの表情から感じ取れる戸惑いと驚き、そして堪えるような悲しい表情。きっと俺はいつも彼女がしていた表情をしているんだ。


エルシーはきっと、今日の俺なんかより嫉妬や悲しみを感じていた筈だ。
置いてけぼりにされたような疎外感や不安と葛藤していたんだ。


こんなの、ただ気を引きたかったのだと言われても納得できる筈がない。

ましてや俺は異性に囲まれていたのだからエルシーはもっと辛かっただろう。


そう思うと罪悪感でますますエルシーの元へは行けなくて、すくんだ足元を見てなんとなく理由は違えど彼女もそうだったのかもしれないと思った。



(きっと一歩も進めなかったんだ、だからただ悲しそうな目をするだけだった、俺に救いを求めてた。ただ妻として側に居ていいという言葉を待ってたんだ)



必要な事はそれだけだったんだ、それだけでエルシーは俺の側に居た。


俺はすでに愛されていたのに。どうしてこうも欲深くエルシーの全てを喰らい尽くそうとしてしまうのか、


どうして君はまだ、こんなにも醜い俺にそんな表情をしてくれるのか?


まるで慈悲深い女神のような微笑みたと思った。

諦めや悟りとも取れるその表情だがとても優しくて美しい。


周囲がざわりと盛り上がって、俺とエルシーに注目する。

集まる視線に反応して、無意識に表情から感情が消える俺のことなんてもうお見通しだと言わんばかりに頼りなく眉尻を下げて「リジュ、来たのね」と瞳を伏せた君は逃げるどころか、可愛い歩幅で俺に近づいてくる。

もどかしい気もするけど、エルシーへの罪悪感からか彼女がここに来ることが怖い。何を話す?今更今までごめんと?どうしてこんな簡単なことが今まで考え付かなかったのか、自己中心的な自分に嫌気がさす。


何故来たのかと言われたら?

拒絶されたら?

けれどエルシーの表情はそうは見えない。


一方近づくたびにエルシーへの感情が溢れる。



(なんで、俺がもう嫌なんじゃ……)


(君の優しさに付け込む俺に優しくしないで)


(あーもう、好きだ。絶対に手放したくない)


(エルシー俺を許さないで)


「エルシー……っ」

「迎えに来たんでしょう?」

「……ん、迎えにきたよ」

「……そう」


心臓の音は凄く早い癖に外向きの俺が平然を装って言葉を発して、表情を引き締める。


本当は君がこうして来てくれただけで胸が張り裂けそうで仕方がないのに。


俺は何度もエルシーの心を、思考を独り占めしたいが為に君を置いていってしまったのに……


エルシー君はいま何故俺の元へと来てくれたの?


「俺を、置いてかないの?」

「そうした方が良かったの?」

「俺は何度も……」

「一緒にしないでよ、私は……っ」

そう言って悔しげに俺を見上げてから落ち着かせるように瞼を閉じて「何でもない」と言ったきりもうエルシーとは目が合わなかった。


「ローズドラジェに嫁いだ限り、最善を尽くしているだけよ」

「そう……」


それでもいい、君を繋ぎ止めておけるなら

償うチャンスが欲しいから。

手離せない俺を許さないで。








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