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新しい謁見のやり方
しおりを挟むドルチェが提案したのは「解決しないこと」だった。
あくまでこちらは客人、こちら側の貴族の動きを把握しに来たにすぎないのだから。
「皇帝陛下……っ、隣の街の男に娘が言い寄られておりまして……!」
「用心棒でも雇う事だな、暇じゃない」
「作業に失敗した所為で畑が枯れてどうすればいいのか…」
「母が仕事で擦り傷を……代わりに仕事を……」
殆どが少し考えて行動すれば自分たちで解決できる内容。
よほどのお人好しか、気が弱くなければこれをひとつひとつ解決することなどしないだろう。
ドルチェの冷ややかな微笑みが彼らを見下ろす。
もう、面倒になってきて背凭れに背を付け足を組み直すとドルチェが手すりから腰を浮かせた。
「どこに行く?」
「ふふ、いい加減面倒で」
ドルチェはフィアとレイを手招きして頭を撫でながら話し始める。
つられて何故か自分の椅子の隣にちょこんと立っていたフェイトの頭に手を乗せると嬉しそうにはにかんだ。
「うちの子たちは優秀だけど、それを差し引いても子供……いや、赤子以下ね」
ざわざわと怯えるような、戸惑うような声で騒がしい。
「きょ、強者が弱者を助ける事は義務でしょう!?」
若い男が声を上げる、よく勇気を出したと人々が褒める中それをドルチェの笑い声が遮った。
「あっははは!……なんて醜いのかしら?」
カツカツとヒールを鳴らす。
皇帝の王座より前に立つ者など、ドルチェくらいだろう。
「どうして、私の神が助けなきゃならないの?」
傲慢だと嘆く人々によく通るドルチェの声が問いかけた。
「私は大切な人達の為ならあなた達を殺すわ」
静まり返ったホール、怯える人々など気遣う気もない彼女はまるで威圧するように魔力を放出して話を続けた。
「守るべき家族は居ない?ただの無力な弱者の集まりなの?まるで頼るフリをして力持つ物を使い捨てのように消費するのね」
シャンデリアを落とすと逃げられなかった者はいくらか下敷きになるが、気にした様子のないドルチェはそのまま続ける。
「あなた達の手は何も持てないほど弱いのかしら?」
シャンデリアを魔法で元の位置に戻すと、その下の怪我人達を見下ろして「さ、仲間でしょ?助けてやりなさいな」と微笑んだ。
「それとも、殺そうとした本人に治して下さいとその胡散臭い笑顔で頭を下げるの?」
あまりにも傲慢で美しいドルチェに笑うヒンメルをいつもならばレントンが諌めるのだがあいにく不在だ。
代わりにリビイルがチラリとヒンメルを見たが、隣で恍惚とドルチェを眺めているララは特に何も気にしていない様子だった。
「ドルチェの言う通りだな。少しは頭を使え。俺達にここを助けてやる義務などない」
ハッとしたように怪我人の手当てに動く者が数名、会場から逃げ出す者がほとんどだった。
呆れた様子で子供たちをララとリビイルに預けたドルチェは冗談じみた調子で「じゃ、後はぜんぶ消してしまう?」と笑った。
小さい試練を与えて殲滅していくことが目的であると同時に、働き蜂と怠け者の蜂を作る目的でもあるのだろう。
「必ず数割は怠け者がいるのよ、それらを全て殺してしまうと、働き蜂から新たな怠け者が同じだけ現れるの」
そう言って笑ったドルチェは「だから怠け者の蜂の使い道を考えなくっちゃ」とドレスの皺を整えながら話した。
「とんだ暴君だな」
「それは貴方の仕事でしょ?」
今度は照れるフェイトを抱き上げて「陛下の護衛したのね」と褒めながら勝手に退出してしまった。
自らの騎士達以外、リビイルもララもフィアもレイも彼女の後に続く様子はまるで主人はヒンメルではなくドルチェだと体現されているようなものだが、何故かその分遠慮で生意気な様子がドルチェの部下らしくて気に入っている。
彼らは公的な場面ではきちんと皇帝に敬意を払うのだ。
主人の「神」を害することは絶対にしない。
けれどことが終わるとあっさりとドルチェの背だけを追って去っていく忠臣達で、そうだからこそ愛おしい妻の身が安全だと安心して眠ることができるのだから大目にみることにしていた。
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