暴君に相応しい三番目の妃

abang

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皇帝たる姿

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「ようこそ、お越し下さいました……!」



いつか「治すのは得意ではない」と言っていた通り、自らの主人であるドルチェはあまり治癒魔法を使わない。


扉を繋ぐ役割を担ったこの使者はどう見てもボロボロだ。


こちらにも医療はあるようで適切に処置されているも、しっかりとあちこちに包帯の巻かれた姿はどうも痛々しい。


襲撃された「こちら側の者達」の姿を改めて見てリビイルは思わず顔を歪めた。



そもそも、皇妃宮であったならこのようなことはありえない事態だろう。敵側に至ってもそうだ。いくらドルチェが強すぎるとはいえこちらの大陸の者達はあまりにも弱すぎるのだ。


用意された皇座に座ったヒンメルもまた同じような違和感を感じている様子だった。


レイとフィアは彼等自体には一切興味こそ示すことは無いが、自分達が元より持つ治癒の力を振る舞うべきなのだろうか?と確かめるように皇座の手すりに座ってヒンメルに寄り添うドルチェの顔をじっと見上げた。


「自分たちの戦いの責任は、自分でとるのよ」

「「?」」


言い聞かせるように柔らかく言ったドルチェに首を傾げた二人は、微妙な表情のフェイトに分かるかと尋ねるように視線を向けたが彼もまたゆるく首を振るだけだ。


「あなた達をこんな事に酷使するつもりは無いわ。私は聖女じゃないし、あなた達はボランティアをする必要はないのよ」


「ドルチェさま……!」


何故か嬉しそうなフェイトが笑顔を咲かせるとドルチェは彼の頭を撫でて「優しい子ね」と額に口付けた。


この幼い双子が大神殿で忌み子だと罵られ、虐げられながらも膨大な聖力を利用され続けた過去を知っているからこそドルチェは特にこの二人を無償で消費させるようなことを嫌うのだ。


「リビィ、貴方も少し休んできなさい」

「いえ。俺はドルチェ様に付き添います」


形の良い唇が自分たち「家族」を優しく呼ぶ時のアイオライトの柔らかい瞳も、他に向ける意地悪そうな表情もどちらも好きだ。


顔に出てしまっていたのかヒンメルがこちらを睨んだのが分かって慌てて表情を引き締めた。


「ララ、子供達を部屋へお願いできる?」


今から起こる事を予想した彼女は頷く。


三人とララが出た部屋にはヒンメルの「どういう事だ?」という抽象的な問いかけだけが響いた。


「セイト・エシュトン」

「え……!はい!」

ドルチェがまだ若いその男を呼ぶと、彼等にはたった一歩進んだだけに見えただろう速さで彼の腹を突き刺した。


「貴方、使者さんのお友達ね?それで……裏切り者」

「ち、ちが……っ!」

「血がたくさん出て死んじゃうより前に、全て話せたら命だけは助けてあげるかも」


ドルチェの返り血を拭うために近寄ろうとすると、珍しくヒンメルが真っ先にドルチェの手首を掴んで後ろから抱きしめるように上着で包み込んだ。


「尋問は他の者にさせる。お前は休め」

「……」

「ドルチェ、お前は今晩寝れない」


リビイルは思わず関係のない自分が顔を赤らめてしまう。

ドルチェを休ませる嘘だとしても、ヒンメルの表情はあまりにも色っぽいからだ。

そして、彼女は人前で微笑みを崩さないもののほんのりと桃色に染まった胸元と耳の先が物語っているのだ。


それなのに自分を労るような視線を向けるドルチェに柄にもなく微笑みが溢れてしまう。


「リビィ……」

「大丈夫です。後はお任せ下さい」

「ありがとう」



彼女の後ろ姿を見送って、突き刺さるようなヒンメルの瞳に向き合う。


「リビイル」

「陛下、嫉妬はおやめ下さい」

「お前は日増しに生意気になるな」

「ドルチェ様の唯一無二は陛下だけでしょう」

「……さっさと片付けるぞ」






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