暴君に相応しい三番目の妃

abang

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小さな扉から、密やかに

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テラスでティーカップを優雅に置いたドルチェが唐突に顔を上げて「開いたわ」と呟いた。


ララとリビイルは顔を見合わせてから各自やるべき事にすぐに取り掛かる。


ドルチェの後ろから手際よく彼女の肩に上着をかけて着いて歩くララは通りすがりにライアージェに荷造りの準備を伝える。


先に部屋を出たリビイルはドルチェの目配せひとつで本城のヒンメルへの報告へ素早く向かった。


すぐに戻ったリビイルにドルチェはいくつか問いかけながら身なりを整え終える。


「レンは?」

「報告を受けて、準備中です」


歩きながら、皆の状況確認をするドルチェはこれからヒンメルと旅立つ小さな扉のある本城まで早足で向かった。


皇妃宮ではドルチェが不在の際の防衛や執務の進行の準備が並行して進められ、ドルチェが扉をくぐる頃には全ての準備が整っているという本城を遥かに凌ぐほど連携が取れていた。


ドルチェがヒンメルの元へと辿り着くまでには全ての準備が「待機中」となりドルチェはヒンメルがどんな命を出したとしても直ぐに首を縦に振ることができる準備が出来ているのだ。

例えばその命がドルチェに今すぐに死ねというものだとしても、ヒンメルという脅威が降りかかることだとしても、皇妃宮の者達家族がこの先も生きていけるようにドルチェは守りを固め、皆の連携を強めている。

家族達をドルチェが不在の間も守ることができるように、彼女の神ヒンメルの命にどんな時も微笑んで頷けるようにドルチェは常に準備してきていたーー。


そんな彼女を頼もしく思いながらも、危なっかしくも思うララは皆を守ろうとする反面、すぐに自分を犠牲にするドルチェの側でせめて自分だけはどこまでも一緒にいこうと決めている。


それに関しては、リビイルも同じ……寧ろ、皇妃宮に住む老弱男女全ての者達が同じ心構えであったが、だからこそ彼女の命をいつも忠実に遂行した。


毎度、皇妃宮の本宮から出かける彼女が「行ってくるわね」と微笑むあの姿が皆大好きだった。


けれど、今回向かうのは未知の大陸。


念の為にリビイルより選出されたのは、治癒師としてレイとフィア、そしてリビイルとララだった。

その間にリビイルの代わりに従者を騎士団と共に筆頭する留守番はレイ、メイドの筆頭はエミとライアージェだ。

そして無事に女官試験に合格したジェシカが執務を代理する。

料理人のハンセンは腕も立つ為に皇妃宮に残り、その代わり息子のフェイトがドルチェ達と同行することになった。



そして本城へと向かう途中、リビイルとララがドルチェから聞いた段取りはとても二人が頷けるようなものでは無かった。


「少人数しかくぐれない扉を理由に、私達がヒンメルよりも先に扉をくぐるわ」

「はい」


軽快なドルチェの様子に思わずさらりと返事をしたリビイルだったが「それでは陛下達はいつゲートを潜るのですか?」と疑問をぶつけた。


「安全ならばリビィが扉を開けて迎えに行って頂戴」

「「安全ならば?」」

「万が一、何かの罠や危険があった場合はすぐにゲートを破壊するわ」

「そんな!!許容できません!」

「リビイルさんの言う通りです!危険すぎます!」

声を荒げ立ち止まった二人をドルチェは振り返ってふわりと笑う。


眉尻を下げ、悲しそうなアイオライトの瞳を二人に向けた。


「レイとフィア、そしてフェイトはまだ幼いわ。万が一の時の為三人はヒンメルと共にゲートをくぐってもらう」


リビイルとララははっとしてドルチェの顔を見た。


彼女はいつも通りの笑顔、なのにどこか申し訳なさの滲む表情で言葉を続ける。


「もしもの時は、私と一緒に死んでくれる?」

「「ーっ!本望です!!」」

鼻水まで流すララに「もしものことでしょ」と苦笑してハンカチを渡すと、リビイルの頭を撫でたドルチェはもう前を向いて歩き始めた。


それでもその背を預けられたことが二人は嬉しかった。







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