暴君に相応しい三番目の妃

abang

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彼女の神に触れるべからず

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刺客というわけではないだろう。
動機はきっと個人的な恨み、その類のものだろうと考えている。


周辺国の王族達がジャスピア帝国に集まり交流をする、社交界シーズンの中でも最も華やかな七日間は、城下町でも祭りが催されている。

豊かで強国である帝国だからこそ王族達も安心して滞在をしていた筈だったーー。

そんな華々しく楽しい雰囲気を壊す状況。

目の前に立つ、やけに仕立ての良い一見は平民服に見える装いの背の高い細身の男。
纏う魔力や細かい所作から平民ではないと分かる。

厳重な警備の中、潜り抜けて来たという訳では無さそうだ……。


そうなれば手引きをした者がいるという事だが、大陸の全部の国が元より帝国の下についている訳ではなく、時には武力行使で属させることもあるのだから恨みなど幾らでも買っているだろう。


前に出たドルチェとヒンメルの部下達と睨み合う彼を取り囲む騎士達。騒つく会場では騎士達が速やかに王族達と彼の間に入り込み守りながら距離を空けさせた。


ドルチェとヒンメルに対して余分な心配をしないのがレントンの良いところで、ここが安全だと言わんばかりに涼しい顔で二人の後ろにひかえたまま的確に指示を出す。


「その者に魔封じの錠をかけなさい」


会場内の者達の身の安全を守る為の最善の指示をしたレントンの言葉に抗うように魔法を発した細身の男は特に何を話す訳でも無く発した魔力を自身に当て始めた。


「ねぇ、ヒンメル。あれって……」

「ああ、自爆する魔法だろうな」

「貴方を巻き添えにするつもりかしら」

「ハッ、そうだな。それは困るな」


困るのは彼自身ではなく、このパーティーを台無しにされる事だという意味だろう。

けれど、どちらにせよドルチェにとってヒンメルの「困る事」を見逃すことはできないのだ。


つい今さっきまでヒンメルの隣で騎士と部下達に囲まれていたはずのドルチェはどうやったのか瞬時に細身の男の背後に姿を現し皆を驚かせた。


「ーーっ!皇妃!?」

「動機は?」

「こっ、皇帝に聞いてみろ!!」

「彼には心当たりがありすぎるの」


綺麗に微笑むドルチェの美しさと、素早さに驚く王族達の歓声が響めく。

魔力を持ってしても感じ取れない彼女の優雅なのに素早い動きと静かな魔力の流れは洗練されている。


けれどもドルチェの視界には向こうで眉を顰めるヒンメルとレントン。


ドルチェを追うようにすぐに駆け寄ろうとしたレンとリビイルに「下がってなさい」と柔らかく言ったドルチェは細身の男の肩に触れて魔封じの魔法をかけた。



「さ、あなたはどちら様?」

「……」

「話したくないのね、でもーー」

「ーっひ!」


ぞわりとする殺気が添えられた肩からか、それとも全身からかひしひしと伝わる。

ドルチェから感じる威圧感に思わず悲鳴をあげた男をドルチェは痺れさせると「ぐわぁぁ」と身体の奥から呻き声を上げる男に冷たく言い放つ。


「理由なんてあっても、私の神に牙を剥くことは許さないの」


のたうち回る男を足蹴にしてレンとリビイルに柔らかく、まるでお茶でも頼むかのように穏やかに命じる。


「話すまで殺さないで頂戴」

「「御意」」

「皆様、お騒がせ致しましたわ」

優雅な、けれど周囲に釘を刺すかのような挑発的な表情。

まるで皇帝に不躾に触れようとする者は容赦しないと言わんばかりの威圧感。


そんなドルチェにすぐさま寄り添い、愛おしげに細めた目で見つめてから引き寄せて髪に口付けたヒンメルは周囲が思っていたよりも遥かに穏やかな声色で皆に伝えた。


「警備と防衛魔法を強化する。皆安心して過ごせ」


ほっとしたようにちらちらと賑やかさが戻り始め、まるで何事もなかったかのように皆がそれぞれ談笑に夢中になる。
そんな様子を相変わらず美しい脚を組みながら見るドルチェの手を先ほどから掴んで離さないヒンメルはきっと、彼女が躊躇なく危険に身を投じる事が気に入らないのだ。


「あら、怒ってるのね」

「危険なことをするな」

「!」

「なんだ」

「心配、……してくれるのね」

「当たり前だ」

「これが、私の役割なのでは?」


思わず口から出たその言葉にハッとした時にはもう遅い。

ヒンメルは表情を歪ませてどこか寂しそうに、けれども情熱的な瞳でドルチェを見つめた。


「好きに暴れろ、そして俺の側にいろ」

「ーーえっ?」

「お前は充分よくやってる」

ヒンメルは愛おしげにドルチェの手の甲に口付けると、まるで本当に本物の彼なのだろうかと疑ってしまうほど甘く蕩けるような声で囁いた。


「存在するだけでいい。俺が守ってやろう」


後ろでレントンがグラスを落とす音がした。















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