暴君に相応しい三番目の妃

abang

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打ち砕かれる優しき少女

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もうどのくらいの攻防を繰り返しているだろうか?
否、実際には数分といったところだろう。
けれどもティアラの体感ではかなりの長時間こうしているような感じがする。

体力は底をつきかけ、回復の魔法が間に合わない。

なのに汗ひとつかいている様子のないドルチェの動きは確かに無駄がなく、満身創痍なティアラとは違い子供の遊び相手でもしているかのように力が抜けて軽やかだ。



一瞬、ドルチェから感じるヒンメルの魔力。


(よく考えればこんなに強い令嬢いるはずが……あっ)


ティアラの目が向いたのはドルチェを飾る宝石達。
きっとヒンメルの魔力が込められたものなのだろう、ドルチェは決闘に夫の力を借りて出たのだ。

ティアラはそう結論付けると、観客によく聞こえるように設置されている音声を拾う魔道具によく通る大きな声で指摘した。


「ずるいですわ!!皇妃様……っ、陛下のお力を借りるなんて!」

「今度こそ、演劇かしら?」

「私には分かります!幼馴染ですもの!!皇妃様の魔力に混じる陛下の魔力に気付かない訳がありませんっ」

「あぁ、気付いたのね」

「どの装飾具ですか?正々堂々と勝負して下さいっ!!」


途端に響めく観客達、「悪女」「嘘つき」「狡い」と皇妃を罵る言葉が飛び交う。

それを鎮めたのはドルチェの解き放たれた魔力だった。


防御壁が無ければ皆それに当てられていただろう、防御壁越しにも身が震えるほどの威圧感に思わず静まり返る。

ティアラに関してはもう立っていられずに両膝を地面に着き意識を保つことだけが精一杯の抵抗だ。

徐にドルチェが屈んでドレスの胸元を少し引いて見せる。
ドルチェの銀髪がカーテンになってティアラにしか見えないその赤い華はティアラの気分をさらに逆撫でした。


「なっ……、はしたないわ!」

「彼と身を重ねることは命懸けよ」

「……っ」

「けど、私の場合は


苛立ち、悔しさ、羨望、ドルチェの全部が気に入らない。

おそらく世界でいちばん強く美しい男に愛され、魔力と才能にも恵まれ、あれほどまでにあのヒンメルの瞳を釘付けにする。

それでもこのアイオライトの瞳はどうにも背中が冷えるほどに怖くて動けない。



「その、防御が付与された服も」

「素早さが上がるブーツも」

「回復の付与がされたブレスレットも」

「だから、私はかまわないわよ」


クスクスと笑うドルチェに隙はない。


「なんだ、ティアラ様だって同じじゃないか」「別にルールなんてなかったしな」なんて声が聞こえて来て、今度はドルチェの攻撃を防ぐものなら素晴らしい一級品なのだろうと騒ぎ立てる。

すると誇らしげに自分が贈ったのだと自慢し始める貴族男性達が出始めて、皮肉にもその声はまるでアピールするかのように声高々だ。


「や、やめて……、そんなの誤解されちゃ……」

「いいじゃない。人気があるのね貴女」

「……馬鹿にしてるんですか?」

「そう受け取るならどうぞ。あなた次第じゃない?」


もう、自分では歯止めが効かない。

これは理性的な戦いじゃなくて魔力の暴走だと理解しているが、ティアラはもう止まらない。

ドルチェに向けたつもりの風魔法の大半が観客席へと向かう。

品行方正の心優しいティアラの姿などとうに無く、ドルチェを殺そうと向かう獣のようになりふり構わず最大値での魔法を撃ち続けた。

(ふざけた女!こんなのが皇妃だなんて!!)

騒然とする観客などもう気にする余裕も無く、ただ勝たなければ全て失ってしまうと言うことだけが原動力になっていた。


「少し、飽きたわね」


何となくそう聞こえた気がした瞬間ーーー

ティアラの周り、否、闘技場のステージそのものが吹き飛んだ。

(私だけ避けた……?防御壁はこの為?)

瓦礫すらのこさず、まるで白い砂のように砕けた周囲。

わずかな自分の足元だけがここが闘技場だったことを思い出させる。

思わず静まった観客席とティアラを見て微笑んだドルチェは、やれやれと言ったように言葉を放り投げてから背中を向けた。


「理由なく殺す趣味はないの、喉が渇いたわ」

魔力が殆ど残らないティアラとリビイルから飲み物を受け取って、心配そうなララを宥めるドルチェの勝敗などもう誰の目にも明らかだった。









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